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シャープ悲惨な末路は最初から見えていた

2024/07/29

//www.youtube.com/watch?v=IpGoGCrvBG0&t=20s

先日『政経電論』を見ていると、シャープがテーマとして上がっていて、悲惨な末路を迎えていると語られていた。シャープの鴻海(フォックスコン)への身売りを、当時最もネットで一人ガンガン叩いていた人間としても、このシャープの末路のニュースを大変残念な思いで見ていた。

7月16日に、シャープの新社長が「会社らしさを取り戻したい」と述べたというニュースがNHKから出ていた。

2年連続最終赤字となったシャープの新社長沖津氏が記者会見を開き、会社らしさ、シャープらしさを取り戻したいと述べ、白物家電事業で付加価値の高い商品の開発を目指す考えを示した。この中で、沖津氏は「愛される商品を作ることでお客様から評価される会社らしさを取り戻したい。会社らしさを蘇らせることが私に課せられた一番のミッションだと思っているので、これに向けて取り組んでいきたい」と抱負を述べた。

一方、沖津氏は2016年に移転した大阪の堺市の本社について、都心部から距離があることで人材確保が難しくなっているため、前の本社があった場所も含めて再び大阪市内への移転を検討していることを明らかにした。

つまらないニュースだと思う。私は2015年に、フォックスコンに身売りをしてもシャープの再建を果たせないと指摘して叩いた。なぜなら、フォックスコンの社長で創業者のテリー・ゴーという人は、台湾のドナルド・トランプと呼ばれるぐらいの剛腕であるが、彼がやってきたことはフィロソフィーのない取り組み、行き当たりばったりのコストカットで伸びてきたというものであり、経営哲学も何もない人である。そういう人が入ってきて、シャープが蘇るのかというと、それはないだろうと思っていた。

こういう言い方は良くないかもしれないが、ノンブランドに徹してきた人たちがブランドを持たずに他者商標のものを作り、他の人の威を借りて物を作ってきただけである。開発からデザインまで他社が行い、それを安く作ってきただけである。そういう経営ノウハウがブランドを持つ企業にフィットするかというと、それは難しいだろうと考えていた。

シャープがV字回復したように見せかけた演出も含めて、私は最初からフォックスコンのシャープ買収を批判してきた。買い方がまずいのである。買う前にシャープはかなり最悪な状況にあった。シャープの明暗を分けたのは、歴代会長による院政が敷かれていて、経営陣の自由な意思決定ができなかったこと。取締役に銀行からの出向者がかなり入り込んできていて、その人たちがシャープ再建以上に自分たちが債権を取り戻すことに執着したことにある。

産業革新投資機構の6,800億円という選択肢と、フォックスコンが3,800億円しか提示していない中で、フォックスコンの3,800億円を選ぶように銀行の人たちが誘導した。

『政経電論』を見て知ったが、産業革新機構の案では銀行側が債権を放棄することを含めた再建案だった。それで銀行はフォックスコンを選んでしまったわけであるが、たったの3,800億円でシャープの再建をするというそのスタート地点からケチられているのである。

そんなお金で再建できるわけがない。本気で再建を目指すのであれば、銀行に債権放棄を迫り、6,800億円を受け入れていれば前を向いて再建に着手することができたはずであった。もちろん再建する時には院政を敷いていた会長たちと決別することが必要だったと思うが、それでも6,800億円という資金があり、借金がない状態であれば、残っていた優秀な人たちでシャープの再建をすることはできた可能性はあった。

シャープはフォックスコンに身売りをするまでの最後の1年間、製品の出荷を意図的に止めていた節がある。業界内でシャープに依頼している製品がなかなか届かないということで、フォックスコンの買収以降になりそうだと言われていた。フォックスコンがシャープに指図をして、買収が完了するまで在庫商品を出荷しないようにしていた工作があったように見受けられている。

そういったことを業界内で見聞きしていると、V字回復と言われても、出荷を止めさせていただけで、回復を演出するためにシャープの通常業務の邪魔までしていたではないかと思う。それに加えて、フォックスコンがシャープに入ってきた後、何の再建案もないのである。予算をカット、コストをカットして、シャープの中の人は何も変えない。開発予算もないので新しいブランドも生まれない。そして大量の人員を解雇した。フォックスコンから新しく来た戴社長は従業員を大事にすると言いながらも、従業員を大量に切った。何千人も解雇したのだ。

そんな会社に、誰が必要な人物で、誰がそうでないのかを判断するのは難しい。特に会社に入ったばかりの時点では、誰が優秀で誰がそうでないのかは分からない。早期退職希望者を募ると、沈みかけの船から逃げようと、能力があり他社からも誘いを受けるような人たちから抜けていく。そういう人たちは電産など他の企業に転職していった。能力のある人たちが抜けてしまうと、誰が開発をするのかという問題が生じる。

シャープの社内の人たちに話を聞くと、フォックスコンには再建案がなく、ただコストカットを行っただけである。コストカットをやり続けた果てに新しい付加価値が生まれたわけでも、素晴らしい製品が生まれたわけでもない。

最初から産業革新機構の6,800億円を受け入れて、銀行に債券を放棄させて、優秀な社内の人材を残して、新しい付加価値製品を作っていく。整理するべきものは整理し、熟練のエンジニアたちと共に新しい製品を作っていくという選択をしなかったのだ。

8年前に時間を巻き戻すことはできない。あの時の優秀な人たちは既に第2の人生を歩み始めており、戻ってくるはずがない。人材を育成するということも行ってこなかったため、シャープらしい人材を失ってしまった。

では、今のシャープは何をできるのだろうか。白物家電にNVIDIAの生成AI技術を導入しようという試みや、AIデータセンターで再起を図ろうとしているが、それが本当に付加価値になるのか疑問である。家電にそこまでの機能が必要なのか? 過剰スペックになるだけではないか。テレビのリモコンが複雑になりすぎて使わない機能が多く搭載されているように、洗濯機などでも複雑なものが出ているが、そこまで必要なのかは疑わしい。

このような言い方をしては申し訳ないが、中華系の企業はブランディング戦略が弱い。コピーを繰り返し、他社の技術を真似してコストを下げることで成長してきた企業が、オリジナリティを追求できるかは疑問である。ブランドを高める戦略が組めるかどうかも課題である。フォックスコンが入ってシャープのブランドは崩れた。シャープのV字回復を演出するために、フォックスコンのネットワークを使用して中国国内でシャープ家電の安売りを始めた結果、中国人の間でシャープは安物というイメージが定着し、ブランドが崩れてしまった。

ブランドは1年や2年で築けるものではなく、何年もかけて会社のイメージと戦略と共に育てていくものである。ブランディングを失敗すると価格を上げられないというネガティブスパイラルに陥る。今回シャープが2期連続赤字に陥り、中心だった液晶事業も手放した。今後シャープは何の会社なのか? そういうことを考えると、ブランディングを固めて、よほど新しいイメージを打ち出さない限り、それを示すのは難しい。

新社長はシャープらしさを取り戻したいと言っているが、それはどのように響くのか?シャープを知らない人が増えている可能性もある。若い人たちの間でシャープらしい製品とは何かを聞くと、家電の会社程度の認識しかないと思われる。新しい何かを明確に打ち出さなければ、それを取り戻すことは難しいだろう。

愛される商品やサービスを提供する努力をするというが、シャープが何の会社かが明確でない時点でブランドとしては弱い。堺ディスプレイ工場を手放し、そこにAIデータセンターを作る計画があるが、電力消費量などの課題も残っている。テレビや空気清浄機ではまだトップシェアであるという自負があるようだが、崩れたシャープのブランドを取り戻すためにどこまでできるのかということが課題として残っている。

こうなることはある程度予見していた。最初からシャープの技術と資産を絞り取るだけ絞り取って捨てるつもりであったのだろう。本気で再建する気があれば、乱暴に人を切らず、銀行債権もある程度間引きすべきであった。銀行もリスクを取って融資していたのだから、その責任を取って、シャープを再建するということに対して前向きに取り組むべきであった。簡単な案に乗るべきではなかったのではないかと私は思った。

結果として、浙江財閥のハゲタカが日本に来ただけであった。

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