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石破批判!? 小林鷹之議員「USスチール完全買収でないと技術流出」説の裏
2025/02/20
総裁選に出馬していた小林鷹之氏、通称「コバホーク」についての話題である。コバホークは「USスチールは完全買収でない限り技術が流出する」と発言している。その内容が日本経済新聞の2月20日5時42分のニュースで報じられた。
自民党の小林鷹之元経済安全保障担当大臣は20日、日本製鉄によるUSスチール買収計画に関し、「100%の完全買収でない限り技術が流出するリスクがある」と指摘した。「買収ではなく投資というスキームをどのように受け止め、前に進めていくのか。これからが正念場だ」と訴えた。小林氏は、党本部で開かれた自身が本部長を務める「経済安全保障推進本部」の会合において、日米首脳会談を含む日米関係の現状について議論した。
トランプ米大統領は、日本製鉄による買収をめぐり「少数株主であれば問題ない」と主張している。この会合では、サプライチェーン協力なども話題となったという。
このニュースに関して、石破氏は先日の日米首脳会談において、トランプ大統領とUSスチール買収について協議した。バイデン政権もトランプ政権も「完全買収は絶対に許さない」との立場を示しており、USスチール側はある程度同意しているものの、米政権側が強く反対している状況である。
そのような中、石破氏は「日本製鉄がどうしてもUSスチールを手に入れたいのであれば、投資という形ではどうか」と提案し、この方向で話がまとまりつつある。しかし、これに対して小林鷹之元経済安全保障担当大臣は「それはいけない。経済安全保障上のリスクがある。100%の完全買収でない限り技術が流出するリスクがある」と指摘している。
このニュースを見て、小林氏の考えが少し分からなくなった。いったい誰の技術が、どこに流出するというのか。文脈からすると、「100%完全買収しないと日本製鉄の技術がUSスチールに流出する」ということなのだろうが、非常に奇妙な話に思える。投資するだけでは技術は流出しないのではないか。
投資を受ける側は、少数株主であっても技術流出のリスクがある。少数株主であっても、財務諸表へのアクセスや、取締役の選出権など、さまざまな権利が生じる。そのため、リスクを負うのは投資を受けた側である。
その点を考えると、小林鷹之、コバホークはもう少し賢い人物かと思っていたが、今回の発言を見る限り、やや的外れなのではないかと感じた。もっとも、トランプ大統領も「少数株主であれば問題ない」と発言しているが、一定のパーセンテージ以上の持ち株比率を持たれると、それなりのリスクがあるのではないかとも思う。
そもそも、なぜ首相が大企業の利益のために動いているのかが理解できない。さらに、日本製鉄がUSスチールの買収にここまでこだわる理由も分からない。基本的に、日本企業が海外企業を買収して成功した例はほとんどない。そのため、日本製鉄が「完全買収したい」と強く望んでいる状況が理解できない。
ルネサスの事例を見ても、それは明らかである。ルネサスでは、出自が定かではない人物がCEOに就任し、アメリカの企業を実際の価値の10倍もの価格で買収した。その結果、ルネサスは資金不足に陥り、エンジニアを解雇する事態となり、企業として大きな打撃を受けた。今回のUSスチールの買収も、果たして日本製鉄にとってそれだけのメリットがあるのか、疑問に思う。
さらに、アメリカ側が経済安全保障の観点からUSスチールの買収を阻止しようとするのは、国家として当然の対応である。なぜなら、製鉄業は軍事産業の中心に位置するからだ。仮に、USスチールが日本製鉄を完全買収しようとすれば、日本政府もそれを阻止しなければならないだろう。同様に、仮にフォックスコンが日産を買収しようとすれば、日本の経済安全保障担当省がそれを止めるのは当然の対応である。
それにもかかわらず、現状の対応はちぐはぐである。特に、「100%完全買収しない限り技術が流出するリスクがある」という小林氏の発言は、論理的に矛盾しているように思える。詳しい説明がなければ判断が難しいが、現時点では「むしろ逆ではないか」と感じる。
なぜなら、USスチール側が日本製鉄から出資を受ければ、日本製鉄に技術が流出する可能性もあるからだ。投資を受けた企業は、一定の情報を株主に開示する義務がある。一方、日本製鉄はUSスチールを買収したとしても、自社の技術をブラックボックス化することで守ることが可能である。
このように考えると、日本製鉄が本当に技術流出のリスクを負うのか、また、そのリスクがどの程度なのかについては、より慎重な議論が求められるだろう。
それだけの巨額資金を投じるのであれば、USスチールを買収しなくても、アメリカに100%子会社を設立し、経営すればよい。それならば技術流出の問題も生じず、事業を進められるはずである。にもかかわらず、なぜここまで買収に固執するのかが理解できない。
それに、小林鷹之議員は経済安全保障を担当していたのだから、アメリカの立場も理解しているべきである。それにもかかわらず、このような発言をするのは非常に不思議である。我が国の国会議員が、まるでセールスマンのように「アメリカの企業を買いたい、なんとかしてくれ」と交渉しなければならないのか。これは極めて違和感のある状況である。
そもそも、日本の首相は企業の言いなりになって営業活動をする必要はない。国会議員は国民のために政治を行うべきであり、企業の代理人ではない。にもかかわらず、「どうしても買いたいからなんとかしてくれ」と国会議員が交渉するのは、明らかにおかしい。まずやるべきことが他にあるのではないかと感じた。
あまり知られていないかもしれないが、クロスボーダーのM&Aには必ず各国の審査が入る。自国の大企業や、国家の基幹技術を有する企業、通信、メディア関連の企業が外国企業に買収される場合、その技術が国外に流出したり、国内市場が影響を受けたりするリスクがある。そのため、各国は安全保障の観点から審査を行い、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」などを用いて自国の企業を守る。このような規制は、どの国でも当たり前のこととして実施されている。
さらに、それだけではなく、独占禁止法の観点からも審査が必要である。特に、同じ業種の大手企業が別の国の大企業を買収すれば、世界的に市場を独占してしまう可能性がある。そのため、独占禁止法に基づいて適切な審査が行われるのは当然である。
このような常識を踏まえれば、小林鷹之議員の姿勢には疑問を感じる。彼は経済安全保障を担当していたにもかかわらず、外国政府が自国の技術や基幹産業、軍事関連企業を守ろうとする際に、その立場を理解しようとしないのは不可解である。まるで誰かに頼まれて代弁しているかのように見えてしまう。
これは、国民のための議論ではなく、大企業や一部の特権層のための議論なのではないか。そう考えて彼の過去の発言を振り返ると、1年前に「NTT法のあり方を見直し、情報通信産業の国際競争力を強化するためにNTT法を廃止すべきだ」と発言している。このことからも、彼がどのような立場にいるのかが見えてくる。
彼のことを一定の評価をしていたが、知識があってもそれを正しく活かせない人物であれば、それは結局のところ国民の利益にならない。どれほど頭が良くても、その能力を権力者や特定の利益団体のためにしか使えないのなら、残念なことである。
この問題と関連して、TSMCのような企業こそ、独占禁止法の観点から各国が協力して規制すべき段階にある。なぜなら、世界の半導体製造のうち、特定の分野では9割以上を占めており、事実上の寡占状態にあるからだ。このような企業に対してこそ、各国が足並みを揃え、適切な規制を講じるべきではないかと考えている。
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