モテるのもモテないのもつらいよ byまみむめも

「そう、僕だけを見ていればいい。他の奴なんて気にするな」
 私が首を左に回すと、大人びた高校生男子と目が合う。彼は満足げににこりと笑う。

「違う、よく聞け。俺の方を向くんだ。お前が人生を捧げるべき相手は俺だ」
 私が首を右に回すと、パワーあふれる中学生男子と目が合う。彼は満足げにニヤリと笑う。

 その隣では、高校生男子が鋭い目で中学生男子を睨んでいる。
「くっ……、血迷うんじゃない!僕の方がイケメンだし、頭もいい。キミは僕のものだ」
 首を左に回す。

 中学生男子が悔しがる。
「いや、俺の方がスポーツ万能で友達も多い!お前は俺のものだ」
 首を右に回す。

 何度かこんなやり取りを繰り返していると、突然、2人の背後の扉がバン!と勢いよく開く。
「ちょっとお兄ちゃんたち!何やってるの!」
 2人の男子は、その声の主を知っているので振り向かない。「邪魔者が来た」とでも言うようにあからさまに顔を顰めている。
 そこにいたのは頭に桃色のリボンをつけた小学生女子。彼女は2人の兄につかつかと歩み寄り、間に割り込んだ。
「ずるい!この子はわたしのものだよ!」
 ……首を真ん中に回す。

 3人の混戦が繰り広げられる中、再び背後に影。
 今度は40代くらいの女性だ。3人を呆れた表情で見ている。
「あんたたち、何やってるの。3人でそんなに固まっていたら、余計に暑いでしょう」
「おかーさん!だってあついんだもん。エアコンつけてよ」
「そーだそーだ!俺も賛成!」
「僕も」
 3人の意識が私から逸れ、お母さんと呼ばれた女性に集中する。
 彼女は困り顔でため息をついた。
「そうね、エアコンの電気代もバカにならないんだけど、仕方ないねえ。今日は少しエアコンをつけてあげるよ」
「わーい」
「やったー」
「ナイス」
 あっという間に3人は私のもとから離れていく。
 私は寂しく首を左右に振り続けるしかない。

 女性が近づく。
「昔はあんたも随分と活躍してたけど、最近の暑さは尋常じゃないからねえ。こんなに暑くなると、世はもう扇風機じゃなくてエアコンね」
 女性は独り言のようにポツリと言うと、私の電源ボタンをポチッと押して、コンセントを抜く。
 私の首は停止した。

あとがき

 こんにちは、まみむめもです。オチまで読んでくださりありがとうございます。
 今年の夏も暑かったですね。皆さんも、家に扇風機があれば、ほどほどに愛してあげてください。
 では、またお会いしましょう。