「ビビビ」を感じる才能

 果たして、俗に言う「ビビビ」は本当にあるのだろうか。この人生で一度だけ、その人を見た瞬間にとてつもない色気を感じ「ビッ」ときたというか、ノックアウトしたことはあったが、運命的なものを感じもしなかったし恋愛関係にもならなかった。あれは「ビビビ」の類ではなくただびっくりしただけだと思う。仮に今もう一度その「ビッ」の彼に再会したとて、そんな関係には絶対にならないだろうというほどに既に興味がない。ビビビを感じたとしても、タイミングが合わなければそのビビビに何の意味もない。

 そもそも「ビビビ」というのはいつ感じるものなのだろうか。出会った瞬間なのか? それとも初めて見つめ合ったとき? 初めて抱き合ったとき?

 出会った瞬間、その人の容姿を見た瞬間にくるビビビなんてものは、その人の容姿が好みだったからとか、抗いがたい純粋なイケメンだったからではないか? と思ってしまう。全然好みのタイプではなかった尾上松也を生でみたときでさえ、あまりの整い具合に四方八方から雷を撃たれたような衝撃を得たくらいだ。これはビビビと同感覚だろうが俗に言うビビビではないだろう。

 初めて見つめ合ったときに感じたビビビなんてものは、好意を持っている同士が見つめ合えば多少の鼓動スピードの増加は免れないもの。よってこれは偶発的なビビビなのであり俗に言うビビビではない。初めて抱き合ったときのビビビは言うまでもない、ただ緊張しているだけだ。

 あのビビビ、あまりにも想像がつかないので、それぞれが自分の選択や人生を肯定したいがためにつくられた「造作のビビビ」ではあるまいか、とそんなふうに思ってしまう。

 言い訳のためのビビビでないのなら、ビビビをもう少ししっかりと言葉で表現してほしい。どんな感じなのだろうか。出会った瞬間にその匂い立つ雰囲気、容姿、全てを無条件に受け入れてしまい、心の底までストンと「この人が好きだ」とそれはもう一瞬で一点の曇りもなく納得してしまうほどに引き込まれた、とか? 言葉にするとそんな表現であると仮定しても(恐らく違うのだろうが)、自分としてはビビビでも、相手もビビビでなければあの「ビビビ」は成立しないのであって、もし仮にこちらが「『ビビビ』って感じた!」と思ったとしても相手をよく知るにつけ、既婚者であったりとか相手が自分のことを全く視野に入れてないと知れば「あの時のビビビは嘘だったな、勘違いだわ」とビビビ冷めしてはしまわないだろうか。

 もしかしたらビビビというのは、こんな根拠や言葉は必要のない次元で、一瞬で深く結びつくものなのかもしれない。そんなことが本当にこの世にあるとするならば少し怖い。全てを投げ打ってまで、自分が感じた言葉にもできない、目にも見えない感覚をただひたすらに信じて突き進んでしまえるものなのだろうから。仮に自分がそんな感覚に陥ったとして、相手も同じように「実は自分もビビビを感じておりまして」と言ったとしてもそれが本当かも分からないではないか。こちらのビビビを姑息に利用し嘘ビビビでこちらの人生をはちゃめちゃにする恐れだってあるし、そもそもこちらのビビビと相手のビビビの感じ方が同等という保証もどこにもないので、価値観の違い的なアレで「ビビビの違い」的なことが起きてすれ違ってしまう可能性だってある。

 こんなことを考えて勝手に疑心暗鬼になっている時点で、私にビビビは一生来ないだろう。もし来たとしても「これは後付けだ」とか「あの時生理前だったので動悸が激しめだったのだろう」とか言って、なぜ結婚したのかとかなぜ好きなのかとかの理由を誰も聞いていないのにきちんと並べて、「ビビビって来たかはわかりませんがこれこれこういう理由で」とかしっかり答えて籍を入れたりするのだろう。本当にうるさい女だ。

「ビビビって来た♡」と可愛く素直に一点の曇りもなく言える女がこの世で一番愛されるし、相手も快く自分のビビビを差し出せるのだろう。ビビビとはなるほど、言うのにも言わせるのにも才能が必要なのかもしれない。少なくとも私に、「ビビビ」の才能はなさそうだな。

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