「作業」の20代、「労働」の30代、「仕事」の40代。30代後半が、右肩上がりの人生への分かれ目。(8月号対談記事再掲)
こんにちは。『Wednesday Style』編集部です。
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9月号のたらればさん対談記事は9月下旬に配信予定です!
藤村Dが現場で見てきた、テレビが視聴率を追うようになった理由。
藤村:
オレは大学受験で一浪して、入ってからも留年してるから、ストレートに進学・卒業した人より2年遅れで社会人になったんですよ。
カツセ:
じゃあ、24歳くらいですか?
藤村:
そうだね。それで、HTBに入社して、最初の5年間は東京支社に勤務してたのよ。ただ、番組制作とはまったく関係のない業務をやってたので、仕事に関していうと、20代は不毛な時期だったね。
カツセ:
当時は、どんな仕事をされていたんですか?
藤村:
オレが入ったのが『業務部』っていう部署だったんですよ。「業務部ってお前、営業も制作も全部業務じゃん」って思ったんですけど。
会場:(笑)
藤村:
そこで、『スポットデスク』っていう仕事をやっててね。
カツセ:
スポットデスク?
藤村:
みなさんご存知だと思うけど、テレビ局っていうのはCMで成り立ってるわけですよ。CM一本あたりいくらっていうお金が入ってきて、それがテレビ局の収入源になっている。
カツセ:
NHK以外はですね。
藤村:
そうそう。でさ、テレビ局は「視聴率、視聴率」って言うじゃないですか。これがなぜ大事かというとね、例えば視聴率10%の番組と、20%の番組があるとします。スポンサーの立場からすると、視聴率が高い方、つまり多くの人に見られている番組の方でCMを流したいわけですよ。
カツセ:
そうですよね。
藤村:
昔はね、「一本単価」といって、テレビ局によってCM一本あたりの値段が決まってたの。◯◯テレビで流すCMは一本いくらっていうふうに。つまり、視聴率は関係なかったわけです。
藤村:
でも、ある時期から、ちゃんとデータとして示して、公正にやりましょうっていう話が出てきてさ。そこで指標になったのが視聴率だったわけですよ。
どういう仕組みなのかというと、CM一本という単位ではなくて、「視聴率のパーセンテージ」っていう単位でCMの枠を売るんです。例えば、視聴率100%分の枠を売るとしたら、視聴率10%の番組ならCMを10本、20%の番組だったら5本ってことになる。そういう単位でCMの枠を売ってるんです、今のテレビは。
カツセ:
へぇー、面白いですね!
藤村:
テレビで流せるCM数って1日あたりの上限が決まってるでしょう。そうすると、視聴率が高い方が本数を出さなくて済むから、結果的に沢山の枠を売れるってわけ。これが、今のテレビで主流になってる「スポットCM」という考え方なんですよ。
20代は、仕事が本当にイヤだった。
藤村:
もうひとつ、テレビには「ご覧のスポンサーの提供でお送りします」っていう番組があるでしょう。あれは、視聴率が関係ないんです。
そのスポンサーが番組を提供してますよってことだから。『世界ふしぎ発見!』だったら日立とか、『おしゃれイズム』だったら資生堂とかね。特定のスポンサーが提供している番組っていうのがあるんです。
カツセ:
はいはい。
藤村:
オレはね、テレビ局はこっちをやるべきだったと思うんですよ。例えば、「うちはファミリーに向けた商品を作っている会社だから、子どもたちが喜んでくれるような番組を提供したい」っていうスポンサーがいたら、我々は視聴率どうこうじゃなくてね、子どもたちが楽しんでくれたり、学びがあるような番組を作ればいい。
化粧品会社が、「これからの時代、女性はこういうふうに生きていこう」みたいなメッセージを打ち出したいということであれば、そういうイメージを伝えられるような番組作りをやっていくっていうさ。
カツセ:
なるほど。
藤村:
だけど、テレビはそっちには向かわず、数字だけを追って、どんな番組だろうと視聴率で判断するっていうやり方に進んでしまったわけ。イメージではなく、数字を売るっていうね。
だから、高い視聴率を取るという目的で番組が作られるようになっちゃったんだよ。その場しのぎみたいな流行りものでも、視聴率さえ取れればいいってことに。
藤村:
でね、話を戻すけど、スポットデスクっていうのは、「スポットCM」のやりくりをする仕事なのよ。
そこでオレは、視聴率1%あたりいくらっていう金額を計算したり、日々変わる視聴率を見ながら複数の番組を組み合わせて、スポンサーが必要とするパーセンテージを提供するっていう業務をやってたわけ。
カツセ:
日々緻密な計算を。
藤村:
そう。
カツセ:
5年間ですか。
藤村:
5年間。
カツセ:
それをやっていた人が、番組の最終回が予定通りにならなくて、週をずらすって、凄いギャップですね。
会場:(笑)
藤村:
そうでしょう(笑)。そういうことをやってた20代の頃は、仕事が本当にイヤでね。なるべくギリギリに会社へ行って、誰よりも先に帰ってた。とにかく土日を楽しみにしてたね。
今思えば、仕事が一番面白くなかったのが20代だったなぁ。その代わり、私生活では一番よく遊んでたね。
カツセ:
時間があった時期だったんですね。
藤村:
そうそう。仕事の面白さなんか、ひとっつもわからなくてね。それが30歳になって、いきなり制作部に行ったわけですよ。
『水曜どうでしょう』の立ち上げは、一か八かの賭けだった!?
藤村:
制作部っていったらテレビ局の花形なんだけど、オレは20代で仕事のことは諦めてたんだよね。もういいやって。だけど、30歳になって制作部に入ったら思い出したんだよ。「そういえばオレ、昔からテレビ好きだったなぁ」って。
それなのに5年間も、番組制作とは関係のない場所にいたからさ、やっぱり鬱屈した気持ちというのがあったんだよ。その反動なのかもしれないけど、制作部に来てからは平気で夜中の2時、3時まで働いてたね。
カツセ:
最初は、どんな番組を作ってたんですか?
藤村:
最初はね、毎週月曜から木曜まで放送がある『モザイクな夜』っていう番組を作ってたんだよ。ただ、番組を作るといったって、こっちは素人だし、編集機のことも教えてもらわなくちゃいけない。
そういうスタートだったんだけど、自分たちで企画を考えてさ、ああでもないこうでもないって言いながら作ってて、「あぁ、これは楽しいな」って思いましたよ。
カツセ:
仕事が楽しくなってきた時期だったんですね、30代のはじまり。
藤村:
そうだねぇ。
カツセ:
それって、1995年くらいってことですよね。1996年には『水曜どうでしょう』が始まってるってことは、制作部に異動してすぐの時点でもうディレクターとして活躍されてたんですか?
藤村:
えーっとね、『モザイクな夜』が終了することになったんだけど、水曜日の30分だけはバラエティ枠として残すってことになったの。それで、じゃあ誰にやらせるかって話になってさ。
カツセ:
はいはい。
藤村:
その時の裏話をさ、去年初めて聞いたんだよ。
カツセ:
20年以上前の話を、去年になって初めて?
藤村:
そうなんだよ。制作部にいた先輩がさ……。『どうでしょう』を知ってる方はわかると思うんだけど、オーストラリアへ行く時にソーラーパネルが付いたプラモデルみたいなのを持たせた人。
カツセ:
はいはいはい(笑)。あの方ですね。
藤村:
その方と、去年『どうでしょうキャラバン』の打ち上げで飲んでた時に、昔の話になってさ。「モザイクな夜が終わって一枠だけ残すってなった時に、部長から相談されたんだよね」って言うわけ。
藤村:
それでよくよく聞いてみたら、水曜日のバラエティ枠を、オレにやらせるか、もうひとりオールラウンドプレイヤーの同僚がいて、そいつにやらせるかっていうのを、部長が制作経験者に聞いて回ってたらしいんだよ。
カツセ:
いろんな人に相談してたんですね。
藤村:
そうそう。その中には、「藤村は制作部にきて1年も経ってないから、もうひとりの彼に任せた方がいい。藤村はやっぱり何やるかわかんないから」って意見があって。
カツセ:
既にそういう感じだったんですね、藤村さんは(笑)。
会場:(笑)
藤村:
一方で、「でも、どうせ新しい番組を作るんだったら、藤村にやらせた方がいいんじゃないの?」っていう意見もあったらしくてさ。それで、最終的には部長がオレに決めたらしいんだよ。その話を、去年初めて知ったわけ。
カツセ:
へぇぇ。その決断がなかったら『水曜どうでしょう』は生まれなかったんですね。
藤村:
そうだね。だから、オレはその先輩に聞いたよ。「先輩はオレと彼と、どっちを推したんですか?」って。「いや、もちろん藤村だよ!」って言ってたけどね(笑)。
カツセ:
はははは。そう言うしかないですよね(笑)。
31歳で『水曜どうでしょう』を立ち上げて、37歳でレギュラー放送を終えた藤村D。
藤村:
それが31歳の時で、そこから『水曜どうでしょう』のレギュラー放送が6年間。だから、終わった時が37歳くらいだね。
カツセ:
30代はまるまる『水曜どうでしょう』ってことですよね。
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