ディレクターが番組の中に入ったら、画面から嘘がなくなった。
藤村Dが熱弁していたラグビーの面白さ。
T木:
『腹を割って話すナイト』は、これまで1年くらいやってきました。ここのnoteさんの会場でも何度もやらせてもらってますし、大阪でも開催しました。
藤村:
札幌もね。
T木:
そうですね。前回は、ついにHTBの本社でやらせていただきました。
そうやって1年ほどやってきたことにかこつけて、今年を振り返ろうじゃないかというのが、今回の主旨です。
藤村:
おう、うん。今年ね。
T木:
『腹を割って話すナイト』でどんな話をされてきたのかって、藤村さんはおそらく覚えていらっしゃらないのではないかと思うんですが。
藤村:
まぁ、いいことは言ってるけどね。
会場:(笑)
藤村:
いいことは言ってんだろうけど、もちろん覚えてはおりませんよ。
T木:
そうですよね(笑)。実は藤村さんは、今のようにラグビーが盛り上がるだいぶ前、6月頃にラグビーについて熱く語るというコラムを出してるんです。noteのマガジンで。
藤村:
はい、はい。熱く語った覚えがある。
会場:(笑)
T木:
6月っていったら、今のようにワールドカップが盛り上がってもないし、大泉さんが出演されていたドラマ『ノーサイドゲーム』も始まる前です。
藤村:
ということは、今のラグビーのブームの先駆けは、オレだったってことだね。大泉さんが演じたGMではなく。
会場:(笑)
藤村:
利一くんでもなく。
会場:(笑)
藤村:
オレだ。なるほど。(プシュ)
T木:
6月の段階から、ラグビーっていうのは、切ないスポーツなんだという話をされていて。
藤村:
切ないって言った? オレ。
T木:
相手に囲まれて、倒されたら、ボールを差し出さなきゃいけないじゃないですか。
藤村:
そうね。そういうことね。
T木:
でも、それがちょっとでも遅れちゃうと、反則になっちゃうんだと。
藤村:
そうだね、確かに。
T木:
ここまで、やっと前に進んできたのに。
藤村:
前に進んだのに、常にボールを後に渡さなきゃいけないという、非常に矛盾したルールがあるわけですよ。要は、全員がバックアップに回るスポーツなんだよね。ラグビーっていうのは。
藤村:
ひとりだけボールを持ってて、あとの14人は全員バックアップに回るっていうさ。味方が前の方にいたって意味がないから。
それは他のスポーツにはない特徴だよね。サッカーにしたって、アメフトにしたって、前方で味方からのパスを待つってことをするけど、ラグビーだけはボール持ったやつを全員が後ろからバックアップしなきゃいけない。で、ボール持ってるやつはひとりで前に進めればいいけど、どうしても途中で潰されちゃうから、後ろにいる味方にボールを託すことになる。で、またちょっと前に進んで、後ろに託してっていうね。
T木:
前に進まなきゃいけないのに、後ろに託さざるを得ないというジレンマ。
味方がここまで運んでくれたという想いが乗っかってるから一歩でも前に進もうと思うんだけど、倒された時にボールを離さないと反則を取られてしまうと。
藤村:
そう。だから、あれはすごく巧みに人間の心理を突いてるんですよ。やっぱり、自分が倒れた時に、味方が運んできたボールを離すなんて、なかなかできることじゃないんですよ。
だから、実際、僕らなんかがやってた時はさ、ボールを離している体で離してねえっていうね。そういうことをしてましたよ。
会場:(笑)
藤村:
やっぱ、そうなんですよ。バカ正直に、倒れたからボールを離すなんてことをするわけがなくて。どれだけ審判の目をごまかして、「いや、オレはボール離してますよ」的な感じで、味方の方に出すとかね。反則にならないギリギリのところを、やっぱり突いていくじゃないすか。
でもさ、明らかに、見ててわかっちゃうっていうこともあるわけよ。こいつ離したくねぇんだろうな感が出ると、審判がちゃんと見てるから、「離したくなかった感強すぎましたよ」って言って、ピーっと笛を吹かれる。
会場:(笑)
T木:
そこら辺の駆け引きなんですね。
藤村:
そら、そうですよ。でも、今までは、ほとんどの人がラグビーのルールをよくわかってなかったわけだから。「なんで、すぐに笛が吹かれるんだ」とか、「すぐに倒れるぐらいだったら、もうちょっと後ろの足速いやつにパス回せよ」とかって思ってたでしょ。
でも、今回のワールドカップでみんながラグビーを見るようになって、何となくルールもわかったらさ、もう見る人全員が歯を食いしばって観戦するようになったよね。
T木:
見てる方も力が入っちゃって。もうお客さんも、すごい盛り上がりで。
藤村:
そう、そう、そう。
T木:
『ノーサイドゲーム』は、ご覧になっていましたか?
藤村:
見たよ。
T木:
あれって、どのくらいが実際のラグビーに忠実で、どこら辺がドラマだったんですか?
藤村:
あれはもう、本物がプレーしてるから。すごかったよね。
T木:
昔のラグビードラマと比べると。
藤村:
『スクールウォーズ』なんてひどいからね、あれ。
会場:(笑)
藤村:
オレがラグビーやってる時に見てたけど、「これはひどい」と思ったもん。あんなパス回ししてたら、絶対に得点なんか取れねえよっていうさ(笑)。
それに比べたら、『ノーサイドゲーム』のラグビーのシーンはやっぱりすごかったですよ。
新作の中での『どうでしょう』班のブームは、『真田丸』真っ盛りの大泉さん。
T木:
今年、大泉さんは『チャンネルはそのまま!』にも出られて、『ノーサイドゲーム』もあって、映画にも沢山出演されて、『水曜どうでしょう祭』にも引っ張り出されてという……。
会場:(笑)
藤村:
引っ張り出されてね。
T木:
『どうでしょう』の新作も、もちろんあって。
藤村:
そりゃそうだろう。あいつの仕事だからね、それがね。
会場:(笑)
藤村:
ちょうど今、新作は4週目まで編集が終わったんだけどさ、やっぱり大泉は『水曜どうでしょう』をやりたくてしょうがないっていうか、やらなきゃっていう気持ちが非常に強いんだよね。これだけいろんな作品に出るようになってからも。
要は、あれだけ自由なプレーができる場所ってないんだよ。
T木:
あれは「プレー」って呼ばれてるんですね(笑)。
会場:(笑)
藤村:
『水曜どうでしょう』では、すごい自由なプレーができるわけよ、彼。しかも、責任を押しつけられるわけだよ、他のプレーヤーに。
会場:(笑)
藤村:
あの番組は、監督がいないから。誰も指示出さないから、勝手にすごいプレーをやり始めるわけじゃん。
T木:
全員プレーヤーってことなんですね。
藤村:
さっきまで卓球だったのに、今度はラグビーを始めちゃうような、非常にトリッキーな番組だから。でも、彼はそういうことができるだけのプレーヤーなんだよ。ファンタジスタだね。だけど、彼がファンタジスタとしての力を出せるフィールドが、他にはもうないんですよ。
今回はこの競技ね、今回はこういうドラマで、こういう役ねとか。映画だって何だってそうだけど、「こういうプレーをしてください」っていう指示が決まってるわけじゃない。
T木:
求められてるものを発揮するという。
藤村:
求められてるものがはっきりしちゃってるところでは、自ずとプレースタイルも決まってくるからさ。
藤村:
逆に、ものすごく乱暴な企画で、何をするかもわからない上に、昨日まで卓球やってたのに、今からラグビーやるぞって言って、ガンガン体を当ててくるような、怖い人たちが沢山いらっしゃる番組だから、『水曜どうでしょう』は(笑)。
あそこの中でやるというのは、彼は昔から言ってるけど「血湧き肉躍る」ってさ。「常に初陣のつもりで」っていうさ。その気持ちは、今でも変わらないですよ。
会場:(笑)
T木:
大泉さんは、常に初陣ですか。今なお。
藤村:
うん。あれだけの売れっ子の大泉洋に対してですよ、「大泉くん、そんなにスケジュールいらないわ」って返すのは、たぶん我々くらいですよ(笑)。
T木:
新しいフェーズに入りましたね。『水曜どうでしょう』。
藤村:
そうなんだよね。「あ、ごめん。そんなには、いいわ」って言う。そうすると、彼は「ちょっと待ってくれよ。藤村くん、君は自分が何を言ってるか、わかってるのかい?」って言ってくる(笑)。
そりゃあそうですよ。彼としてはやる気満々。人気絶頂。『水曜どうでしょう』をやりたいって言ってるのに、「いや、スケジュールは1週間もいらねえな」みたいな感じのことを言うっていうのは、完全に新しいフェーズに入ってきたよね。
会場:(笑)
T木:
前作のアフリカの段階では、企画発表の時に、「今の大泉洋のスケジュールを、こんなに切ることはできないんだ」という話をされていましたよね。
藤村:
すごい文句言ってましたよ。だけど、今はもう、こっちがスケジュールを返しちゃう。
会場:(笑)
T木:
大泉さんは、忙しくなっているのに。
藤村:
忙しくなって、あいつは空けてくれているのに、こっちが、「いや、ちょっと、そんなにいいかな」なんて言って(笑)。
会場:(笑)
T木:新作をライブビューイングでご覧になった方も、沢山いらっしゃるでしょうが、まずは北海道で12月25日から放送されて。同時に、HTBオンデマンドでも放送されるんですよね。
藤村:
やる。同時にね。
T木:
だから、東京の方も12月25日になれば新作が観れる。
藤村:
ね。メリークリスマスですよ、我々の。
T木:
いいプレゼントとなるのか。
藤村:
いや、でもさ、祭やライブビューイングで放送されてるのに、見事にネタバレしてないよね。何をやったのかとか、どういうことなのかっていうのはさ、本当にみんなわからないままだもんね。
T木:
そうですね。なんか妙にラグビーで盛り上がってるなくらいの感じで。
会場:(笑)
藤村:
そうだよね。それだけしか言ってないもんね。
まぁ、それ以外は、「言ったところで……」っていう感じなんだけどさ。何をどう言っていいのかわかんねぇみたいな(笑)。
T木:
それも本当に新しいフェーズに入った作品だからこそだと。
藤村:
考えてみたら、今年は新作を放送しますっていうことを、頭っから言っててさ。結果的に、とりあえず『どうでしょう祭』で流しましょうってことになったわけじゃない。
今までさ、本当に不思議なことに、西表、アフリカと新作を放送するタイミングと祭が重なってさ。今回も、そうなったんだよ。
T木:
そうですね。
藤村:
でも別に、オレらはさ、新作の放送ありきで祭をやってるわけじゃないのよ。ただ、今回もタイミングが合って、これはちょうどいいかと思って。
ここでオレがまた、新作を先延ばしにしたら、さすがにな……と思ってさ。いや、これはもうやろうと思ったんですよ。
T木:
言っちゃいけないのかもしれないですけど、随分お若い大泉さんが登場してましたね。
藤村:
最初はだって、2017年だもん。
T木:
最初のロケは、2017年。
藤村:
2017年の1月だもん。
T木:
今よりも2歳くらい若い。
藤村:
そう、2歳若い。
T木:
「話題の『真田丸』」みたいな。
会場:(笑)
藤村:
そう、『真田丸』です(笑)。今回の新作の中での『どうでしょう』班のブームは、『真田丸』でしたね。
T木:
『真田丸』が放送されていたのが、2016年ですから、当時にしたってちょっと遅いブームですけどね(笑)。
藤村:
うん、遅かった。その前のアフリカで我々のブームになってたのが、『龍馬伝』でしょ。
T木:
アフリカで『龍馬伝』の話をしてたのも、遅いって言われてましたよね(笑)。
藤村:
アフリカ行ったのは、『龍馬伝』の翌年だからね。それでも、「藤村くん、遅いぞ」って言ったのに、今から放送するやつが、『真田丸』真っ盛りの頃の大泉さん。
会場:(笑)
T木:
それも、ある意味では貴重な映像ですね。
藤村:
貴重だね。そう言えば、『真田丸』盛り上がってたね、みたいな。もう、2年たっちゃったんだね(笑)。
T木:
そうなんです。でも、祭やライブビューイングでご覧になった方は、やっぱりさっきおっしゃったような、全員がプレーヤーなんだっていう印象はあったんじゃないですかね。もちろん、カメラに写っているのは、タレントのおふたりなんだけれど、ディレクター陣2人もプレーヤーであるっていうのは。
たらればさんがゲストに来てくださった『腹を割って話すナイト』でも、編集者と作家という話になった際に、「どうやって編集するんですか?」という質問に、藤村さんは「『どうでしょう』は、全員が作家なんだよ」という話をされたんです。
藤村:
はい、はい。
T木:
だから、新作を見ても、旧作を見ても、全員がプレーヤーってことをすごく感じるし、それって普通のテレビ番組ではあり得ないよなって。
藤村:
あり得ないと思うよ。
T木:
だって、ディレクター陣はカメラに映っていないのに話すし、映ってる人達は自分で判断して動き出すっていう。
藤村:
そうだね(笑)。
カメラの存在を消すために、ディレクターが番組の中に入り込むという荒技。
藤村:
最近、日テレの土屋敏男さんと飲む機会が、やたらめったら多くなってさ。
T木:
『進め! 電波少年』のT部長ですね。
藤村:
そうそう。ダースベーダーのテーマ曲に合わせて登場して、すごい指令を出してくるっていう人ね。
T木:
有吉さんをユーラシア大陸に送った方。
藤村:
そう。その有吉くんをね、当時は猿岩石というコンビでしたけど、彼らをユーラシア大陸に送る時の話を聞いたんですよ。
『電波少年』の壮大な旅企画としては、あれが最初でね。その時、土屋さんが何をしたかというと、「香港で、番組の宣伝みたいなのを撮るから」って言って香港に連れてって。その場で、10万円だけ渡して、ここからロンドンまで行けっていう話をしたわけ。
T木:
はい、はい。
藤村:
その時に土屋さん自身は、別に番組に出るつもりはなかったんだけど、「ちょっと待てよ。彼らが行くってなったとしても、番組側がやらせてる感じになると、よくないんじゃないか?」って思ったんだって。
それで、「だったら、オレがちゃんと本人達の意思を聞こう」ということで、猿岩石に「やりますか? やりませんか?」って直接聞いたと。そしたら、「やります」って言ったわけじゃない。それはもう彼らの意思で行くってことだから、企画を始めようって思ったらしいんだよね。
T木:
出演者の意思を確認するために、香港まで行ったと。
藤村:
そうなんだよ。それで、土屋さんがずっとやってたのは、そうやって送り出した彼らの観察日記だったわけ。
だから、番組的には、カメラを回しているディレクターが2人の横にいるのに、彼の存在なんか一切見せないでしょ。本当は、カメラすらなしにして、鉛筆の先に仕込んだ隠しカメラくらいのもので撮影したかったんだって。
T木:
盗撮みたいな感じで。
藤村:
そうそう。観察日記だから。
T木:
カメラマンの存在が気にならないくらいの。
藤村:
そう。だから、猿岩石っていう男2人が旅していく素の姿を、ずっと観察してる。そのための装置として、カメラがあるみたいな。
彼は、その話を動物観察でもするように説明してたけどね。
会場:(笑)
藤村:
土屋さんは、猿岩石を送り出す時に、自ら現場に出向いて「やりますか? やりませんか?」って、本人の意思を確認したんだけど、「行きません」って言う可能性もあったわけじゃない。
その時は、どうするつもりだったのか聞いたら、「じゃあ、香港から日本に帰りましょう」って言って飛行機に乗って、そのままブラジルかなんかに連れてって、「いやぁ、ごめんごめん。行き過ぎちゃった」って言うところまで考えてたらしいよ。で、ブラジルから、また「やりますか? やりませんか?」って聞くって。
T木:
はぁ、なるほど(笑)。
藤村:
「そうか。この人、やりますって言うまで帰してくれないんだ」って状態なわけよ(笑)。
会場:(笑)
T木:
断り続けたら、世界を1周する気だなみたいな(笑)。
藤村:
そう、そう。で、また香港に戻っちゃえばいいわけだから。すっごいな、この人と思って。
藤村:
で、土屋さんが言うのは、「『水曜どうでしょう』は、とにかく会話劇だから、『電波少年』とは丸っきり違う」って。
要するに、『電波少年』は出演者の観察記録なんだけど、『水曜どうでしょう』の場合はもう、4人の会話劇が素晴らしくて、その会話を回してるのがディレクターっていうのが、本当に信じられないって言ってたんだよ。
T木:
あー、なるほどなぁ。
藤村:
会話劇をタレントが回してるんじゃなくて、ディレクターが回してるのが、もう他では絶対にあり得ないって。
T木:
タレントさんがスタッフをいじる、楽屋落ちみたいなことではなくて。
藤村:
じゃない。もう、完全にディレクターが会話を回してる。だから、言うなれば、僕らはドキュメンタリーの中に入っちゃってるんだよ。
本来はドキュメンタリーを作る側の立場であるディレクターが、番組の中にガッツリ入り込んじゃってる。
T木:
はぁ、確かにそうですね。
藤村:
『電波少年』は、カメラの前に猿岩石とかドロンズがいて、それをディレクターである人間が持つテレビカメラが映し出すっていう構造なんだけど、『どうでしょう』はテレビカメラ持ったディレクターが、その中にガンガン入り込んじゃって、タレントと一緒に「つらいねー」なんて言ってる。そういう、非常におかしな構造なんです、あれは。
会場:(笑)
T木:
一緒にバスにも乗るし。
藤村:
乗るし。一緒にジャングルに行って、驚いちゃうし。
T木:
一緒に美味い物も食う。
藤村:
そう。これが他の番組ではあり得ないんですよ。
最初から、タレントの2人だけでドキュメンタリーを撮ろうなんて思ってなかったですから。これはきっと、嬉野さんもそうだったと思う。
T木:
最初の『サイコロの旅』から。
藤村:
そうだと思うよ。そういう気持ちが、たぶんあったと思う。
藤村:
最初から、我々が一方的にタレントの2人を撮るっていうこと自体に、白々さを感じてたんだよ。
T木:
白々しさ。
藤村:
うん、そういうのがオレの中にはすごくあって。テレビカメラの外側にいる人達が自分たちの存在を消して、タレントだけしかいないみたいな見せ方って、明らかに嘘じゃん。
T木:
そうですよね。カメラで撮影してるってことは、それを持っている人がいるわけですから。
藤村:
そうなんだよ。で、そのあたりの距離感をうまいことやってたのが、『ウンナンの気分は上々。』っていう番組だと思ってて。
あれはバラエティーなんだけど、カメラマンの存在を消してるっていうかさ。カメラマンが、物理的に遠くにいるっていう。とにかく遠くから盗撮みたいな感じで撮ってたんだよ。
T木:
あれこそ、本当に盗撮ですよね。
藤村:
そう。あれは盗撮だったの。でも、やり方は違うけど、『電波少年』も横にいるカメラマンの存在を、なるべく消すってことをやってたわけじゃない。
T木:
これをカメラだと思うなよと。
藤村:
そうそう。でさ、実際に猿岩石は、日本に帰ってくるまで知らなかったわけじゃない。自分達の番組が、あんなに高視聴率を取ってるなんて。
それは土屋さんが、彼らにテレビっていうものを意識させないために、「絶対に言うな」って言ってたんだって。「これは、一応撮ってるだけだから」って、本当に言い続けてたんだって。
T木:
一応の記録だよ、みたいな。
藤村:
そう。なすびとかも、ひどかったらしいよ。懸賞生活ってあったでしょ。あれも、「君、いいかい。そんなものをテレビに映して、誰が見る?」って言ってたらしいよ。
T木:
ひどい(笑)。
藤村:
「見るわけないだろ。こんなのテレビ企画でなんか、できないんだよ。でも、一応撮っておくから」って言って。
会場:(笑)
T木:
すごいな(笑)。
藤村:
だから、彼は、土屋敏男という人の力で、テレビカメラという存在をどんどん消して、番組を作っていた人なのよ。
T木:
『気分は上々』と、目的は一緒ですよね。テレビカメラという存在を消したいっていう。
藤村:
そう。僕らもね、テレビカメラを消したいっていうのは一緒。ただ、我々の場合は消し方が、ちょっと異常なんだよね。
テレビカメラ持ったやつが、そのままガンガン中に入っていくっていうさ(笑)。
会場:(笑)
T木:
「そうか、オレらもテレビに入ればいいのか!」っていう発想で(笑)。そうすれば、テレビカメラが消えるってことになるじゃないかと。
藤村:
消えるために、逆に中に入っちゃうっていうね。
T木:
そういうやり方があると気付いたというよりか、藤村さんと嬉野さんの性格、体質として、そうなったって感じもしますけど。
藤村:
そうかもね。オレらはもう、テレビカメラを持って撮ってるのに、カメラの外の人は喋っちゃいけないってことが、もう白々しくて、やってられないわけ。
カメラの後でカンペ出して、指示を伝えるとか、もうおかしな世界じゃん。「一緒に旅をしてるのに、カンペ出すか? だったら口で言えよ」って思っちゃう。普通に。「次の新幹線に乗りますよ。早くしてください!」とかって、やっぱり言っちゃうじゃん。
会場:(笑)
藤村:
「疲れたな」「腹減ったな」なんて言っちゃうでしょ。当たり前でしょうと。
T木:
旅ですからね。
藤村:
旅ですから。そういう意味では、『気分は上々』とも『電波少年』ともテレビカメラの消し方が違う。タレントから遠ざかるでもなく、カメラの存在自体をないことにするのではなく、自ら中に入るっていうね。
だからさ、まず嬉野さんのカメラの持ち方がいいよね(笑)。バッグを持つみたいにさ、雑にブラブラとカメラを持ってくるからね。
会場:(笑)
藤村:
で、普通に座っちゃってさ、普通に一緒にしゃべっちゃってさ。「おお、じゃあ、撮るかい?」なんて言ったりして。
完全に中に入っちゃってるもん。あの手法は、たぶん、うち以外にはないんじゃないかな。
T木:
嬉野さんは、こうやってブラブラと持ってるものの先に、何万人の視聴者がいると思わないんですね。それはもう、テレビカメラが消えたっていうことでしかない。
藤村:
カメラは消えた(笑)。
T木:
洞窟とかに行っても……。
藤村:
もう、カメラが邪魔だからね。
会場:(笑)
T木:
撮りに行ってるのに(笑)。
藤村:
撮りに行ってんのに、「持ちなさいよ、あんた」とか言って。それって、やっぱりおかしいんだよ(笑)。
だから、オレらぐらい、テレビカメラの存在を消してる番組はないんだよ。だって、邪魔にしちゃってんだもん、カメラを。
会場:(笑)
T木:
タレントである大泉さんが、ディレクターの藤村さんを撮ったりもしてますもんね(笑)。
藤村:
そうだよね。なんなら、ディレクターの様子なんてのも撮らなくていいからさ、「とっとと、これを受け取りなさいよ!」なんて平気で言っちゃうところがあるし。
「オレ達は、何のために来てんだよ」っていうのも、もうわからなくなっちゃうっていうね。
会場:(笑)
藤村:
そういうのは、土屋さんと話してて気付いたね。「そうか、オレ達は、ドキュメンタリーの中に入っちゃってるわ」って。絶対に、みんな思いつかない方法だなって。
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