日経COMEMOテーマ企画『この5年で変化した働き方』
日経COMEMOのテーマ企画が「この5年で変化した働き方」ということですが、最近、ここのところ仕事の方向性が変わって(はっきり)してきたなあ!と感じていたところだったので、その変化について書いてみます。
大学を卒業後、何を血迷ったか演劇の専門学校に入ったのは、2011年。
スクールを卒業して、2012年に自分の演劇ユニット(mizhen)を立ち上げたものの、自主公演を打つだけやともちろん食べてはいけず。
自立してやってくためには周りに信頼してもらわんとあかん!と、コンペに応募して受賞歴を作るも、賞金は家賃に溶け、公演の収入だけで生活できるわけでもなく、生活と創作のバランスがとれへんまま、ひっちゃかめっちゃかに5年程があっという間に過ぎました。
学生時代はTV局に勤めたいな~深夜番組のディレクターとかやりたいな~と思っていたので、まさか卒業してから自分の演劇創作ユニットなんぞ立ち上げるとは、1ミジンコも想像してませんでした。うっかり入ってしまった演劇の専門学校の同期に「藤原は頭が散らかってるから(ひどい!)、書いて公演してみるのが良いのでは」と説得され、苦しいながら書きはじめ、苦しさが1000だとすると、その1000の中の一粒ほどの砂金のような、面白さというか、ヒリヒリするような体感を見つけてしまったせいで、そのまま、毎度苦しいなあ、でももう一度、苦しいなあ、でももう一度、と、続いて今に至ります。
そんな始まりやったので、こういうふうになりたい、という演劇の世界の目指すべき人もいなければ、具体的な憧れ、というのもないままでした。
ただ、言葉が歌になって……身体が舞になって……言葉と身体で時間と空間が変化する………自分が気になるそれは「演劇」としか呼びようがないけれども、じゃあそれを実際どうやって続けていく気……? 食ってけるん……?世阿弥教えて? と、相談する世阿弥はおらず、
生活するにはクライアントワークもやっていくやろし、それやったら自分が書いてるモノローグ(一人台詞)ばっかりの仕事なんてないやろし…………大きい仕事として可能性ありそうな脚本勉強したり、ライター仕事増やすか……など、モヤモヤしながら仕事をしていました。
そんな折、2017年。伊藤園さんのイベントのレポートライターをしていた時。イベントのファシリテーションをしていたuni'que Inc.の若宮和男さんが、佐賀県唐津市で開催したまちづくりのコンセプトを考える“コアバリュー”ワークショップの話をされていました。
《自分らしさ、というのは、本人には欠点と思っていたり、当たり前と思っているところにある》
この話にピンときて、
「チームの自分達らしさを一回ちゃんと考えたい!!」と、
聞きかじった話を興奮して持ち帰り、チームで“コアバリュー”を考える回をやってみました。居酒屋で。そしたら、途中から普段の溜まった鬱憤を晴らす罵り合い大会になり、大喧嘩しました。(居酒屋というのもあかんかった)
それで、こういうのは自分たちでやっててもあかん!と思い、意を決して
「mizhenのコアバリューをやってください!」
と若宮さんにご相談をしたところ、異例の演劇チームとしてコアバリューワークショップを引き受けていただくことになったんです。
詳細は企業秘密ということにしますが、
チームで大事にしていることは何かを、いくつかの問についてみんなで言葉を出しては取捨選択する、というのを繰り返し、“これをなくしたら自分たちではなくなってしまう”ような、チームの骨組み部分が見えるまで丁寧に話しあっていく時間でした。
その時、作品づくりで大事にしているキーワードとして辿り着いた言葉が、
“染み込んで揺らす”でした。
それまで言語化したことはなかったけど、確かに、この言葉は全員にとってしっくりくる響きで、以後、ふとした時に思い返しては「これ、“染み込んで揺らす”やん。」と言い合うようになりました。
なんとなくこの言葉に出会ったあたりから、自分に無理が生じることで仕事を作ろうとするのは辞め、既存の価値観に合わせんくても、自分がついつい気になってしまうことをトコトンやっていくっていうのでええのかも。と思うようになり、できひんとあかん、と思っていたことはすがすがしく諦めていくようになります。同時に「できひんことは人に任せる」、「自分より適任がいる場合のオファーは他を紹介する」ということも増えてきました。
そんなこんなで、ワークショップから2年後、2019年は、表参道の取り壊し予定のアパートでフェスをやり(uni'que Inc.さんにも企画運営で共同していただきました)、能楽堂で現代演劇を上演し、静岡のOMソーラーさんの経営者会議で演劇を創り、世田谷区で劇場機能を備えたスナックを経営し、主催することも、声をかけていただく仕事も、全てがフットワーク軽く様々な場所で “染み込んで揺らす” を創っていく方向に転がっていきました。
気づけば、色々できないと仕事にならないんじゃないか、と考えていた頃と打って変わって、精神的にはどんどん楽に、しかし知恵を使う体力はどんどんハードになってきたな、という体感です。
そして、2021年。今、mizhenは「モバイルシアター」を創っています。
2019年の表参道のフェスで関わってもらった、SAMPOのモバイルハウスを見て以来、いつか自分達専用のモバイルシアターを持ちたい、と思ってたんですが、やっと! 二年越しの思いを果たす形で、松本出身の建築家、柳沢大地さんと一緒に共同で設計中です。
シアターのコンセプトについて柳沢さんと打ち合わせしていたとき、
「“シアター”という確固たる価値をモバイルするっちゅうか、駐車した施設や場所に延長した一部になって、訪れた場所とこちら側が混じる、影響を与え合う場の重なりみたいなのを創りたいんすよねえ」
と話すと、
柳沢さんから、「つまり、場に“染み込む”てことですよね」と、
こちらが何も言ってへんのに、かのキーワードが返ってきました。
「そうなんです! 染み込んで揺らしたいんです!」
自分達がやろうとしていることは一貫してたんやな、と再確認しました。
場に擬態して、寄生して染み込み、場を揺らすシアターを創る。
シアターの構想を考えていると、そこから先に広がる予測と期待は、さらに自分たちにとっての生きやすさが待っている気がしています。
立ち向かうべき難易度はハードになり続けますが、この数年で働き方がしなやかになってきたのは、2017年のワークショップ以来、自分たち/自分にとって「はずせない骨組は何か」ということを思考し続けてきたおかげだな、と思いました。(若宮さん、その節は無理をきいてワークショップしていただき、本当に感謝です。)
ますます予測不可能なこれからの時代。
わたし(ら)がわたし(ら)であるために、大事な部分だけは抱きしめたまま、どんなダンスでも踊ったろう。
大変な状況が続きますが、これから先も、この変化した働き方の延長で、楽しんでいけたらと思っています。