見出し画像

「近くて遠い韓国を想う」~韓国現代戯曲『青々とした日に』創作メモ①~

日韓演劇交流センター企画・韓国現代戯曲ドラマリーディング『青々とした日に』は、『寂しい人、苦しい人、悲しい人』(演出:早坂彩)と併せて、1月25日から座・高円寺1で上演されます。▶詳細

昨年12月2日から2週間ほど韓国に滞在し取材を経て、今年1月13日よりチームで集って本格的なクリエイションがはじまります。
より多くの人に今回の上演を、そして韓国現代戯曲を楽しんでいただくため、上演のその日まで創作メモを更新します。ネタバレを一切気にせず、まとまらないものをポロポロ書いていきますが、気になるところから読んでいただければ嬉しいです。
そして、身体で知る、上演当日に立ち会っていただけたら。

『青々とした日に』演出 藤原佳奈

藤原です。
今日は、戯曲について紹介をします。
リーディングは、視覚情報が少なく、語られる言葉・そこにある身体を手掛かりにはじまるものなので、立ち会う人達のシナプスが発火するきっかけ(事前情報)はあればあるほど、
つまり、主題となっている光州民主化運動(光州事件)について、『青々とした日に』の戯曲について、知っていればいるほど当日の上演時間、密度が濃くなると思っています。

■『青々とした日に』戯曲について
今回、わたしが演出を担当することになった『青々とした日に』ですが、
原題は、『푸르른 날에』(プルルン ナレ)という戯曲。

【푸르다】[プルダ] ー青い
【날】[ナル]ー日
【에】[エ]ー助詞「に」

これは、정경진(チョン・ギョンジン)さんが2009年に書いた戯曲で、2009年第3回車凡錫戯曲賞(チョンさんと同じ木浦出身の車凡錫という劇作家・演出家を冠した賞)を受賞し、2011年に初演されました。
この初演で、大韓民国演劇大賞 作品賞・演出賞を受賞。以後5年連続で上演され、好評を博したそうです。

わたしは韓国取材でチョンさんにもお会いしましたが、『푸르른 날에』は上演した5年間でなんと5万人程の来場者があったらしいです。
光州を取材しているとき『푸르른 날에』を日本でやるんだ、というと多くの人が「あ~、知ってる知ってる」と反応してくれました。

『青々とした日に』あらすじ
修行中の僧ヨサン(俗名ミンホ)と、ヨサンに贈る韓服を縫うジョンへ。
舞台は2人の回想で過去と現在を行き来する。光州民主化運動により、ジョンへの弟ギジュンは命を落とし、ミンホは戒厳軍による拷問の後遺症と罪悪感で苦しむ。見舞いに訪れたジョンへは、ミンホに襲われ、身籠った。それを知らずに出家するミンホ。ミンホの兄ジンホは、二人を思い、ジョンへと娘ウンファを育てるが、ジンホも事故により死亡。
成長した娘ウンファの結婚式前後の数日間と、死者たちとの記憶。


あらすじに書いてある「光州民主化運動」、日本では「光州事件」と紹介されることが多いです。1980年5月18日から5月27日にかけて、戒厳令に抗議する学生や市民と、デモを鎮圧しようとした軍が衝突し、多くの市民を巻き添えにした凄惨な10日間を指します。韓国では民主化を目指した運動であったことを強調するため、「5.18光州民主化運動」と呼ばれています。

(5.18記念財団がまとめた5.18民主化運動の記録写真「5.18偉大な遺産」)

光州事件
1980年5月17日、韓国軍の全斗煥が非常戒厳令を布告して政府の実権を掌握したクーデターが勃発。それに抗議した光州の学生・市民と、民主化要求デモを鎮圧する軍が衝突し、5月18日から27日までの間、軍の弾圧により市民が多数虐殺された。その後も全斗煥の軍事政権が続いたが、民主化運動の原点の一つとなったと言われている。

韓国での取材中、「5.18光州民主化運動」の通称、“5.18”(オー・イッパル)と語ることがオーソドックスな言い方だったので、ここでも以後、5.18と表記すことにします。

日本では、ソン・ガンホ主演の『タクシー運転手』で5.18について知った人も多いはず。わたしは恥ずかしながら5.18のことは詳しく知らず、「タクシー運転手」も今回戯曲を取り組むことになってから観ました。
※これは、映画としても面白いのでおススメです。

光州市は軍により完全に封鎖されていたため、5.18は“北朝鮮のスパイ”の企みで“暴徒”が暴動を起こしていると歪曲報道され、軍の弾圧で市民が虐殺されている事実は、当時光州以外の地域に広がる手段がありませんでした。
そんな中、ドイツ公共放送の東京在住特派員・ユルゲン・ヒンツペーターが、ソウルのタクシー運転手キム・サボクの協力で光州に潜入し、映像が記録され、光州の惨状が世界に配信されることになります。
その実際の出来事をもとにしたのが、この映画です。

光州で訪れた5.18旧墓地には、ユルゲン・ヒンツペーター氏の碑がありました。(※新墓地があるので旧墓地なのですが、この辺りについてはまた追って書きます)

ユルゲン・ヒンツペーター氏の遺言に基づいて、氏の髪の毛と爪を納めた碑。氏は、光州を愛し、死んだら光州で墓をつくってくれ、と言っていたらしい。

初めて戯曲を読んだときも、『タクシー運転手』を観た時も、本当にこんなことが1980年、自分が生まれるほんの少し前の隣国であったのかと衝撃を受けましたが、あくまでもその頃はひとつの「悲しい隣国の歴史」の出来事としてある程度の距離を持って受け止めていました。

実際に光州へ行き、正直戸惑いました。
5.18の当事者やその後の光州をよく知る方と直接お会いして感じたのは、5.18の傷は終わっていないといういことでした。
そしてその傷は、全く対岸の火事ではない。
ほんの一部でもその痛みが響いてしまったわたしは、“新しい戦前”の揶揄に納得してしまうこれからの日本で何を選択し、どのような態度で生きていくかのか、突きつけられています。
※光州の取材については、また別の回に書こうと思います。

『青々とした日に』は、
5.18のトラウマを抱え、仏門に帰依したミンホと、5.18で弟をなくしたミンホの恋人ジョンへの、過去と現在を行き来する物語。
ミンホの“仏教”、そして韓国伝統茶を営むジョンへの“お茶”の思想、生々流転する世界への眼差しと交差して人間の業が描かれます。人間ドラマに着地させず、この世界で生きるすべてのわたしたちに焦点が当たっているところが、いま、この戯曲を上演する意義だと感じています。

日本で『お茶』と聞くと茶道か、煎茶やほうじ茶など、訪ねた先でもてなしてもらうイメージがあると思います。
わたしも、取材に行くまで戯曲に登場する韓国の『お茶』を日本と同じように捉えていました。

取材初日・ソウルの伝統茶屋

韓国取材初日。一言に『お茶』と言っても、微妙な違いがあること、言葉では訳しきれないものがあることをさっそく実感。やらわかなカルチャーショックでした。

さて、この続きを書こうかと思いましたが、そろそろ上演台本の取り組みを進めなくてはならず、このあたりで。

次回は韓国取材のお茶の話の続きから書こうと思います。


■光州民主化運動について、『タクシー運転手』以外の参考になる映画も紹介します。

『光州5.18』
長らくタブー史されていた“光州民主化運動”について、商業映画として初めて正面切って映画化した作品。2007年製作。(「タクシー運転手」はその後製作)。5.18当時の兄弟を描く。

『ペパーミント・キャンディ』
1999年春、列車に飛び込み自殺を図る男が回想する過去が、断片的に描かれた作品。直接5.18を取り扱っているわけではないですが、1980年、兵役についていた男が、何の任務かも分からず光州に配属されたことが描かれています。

日韓演劇交流センター
韓国現代戯曲ドラマリーディング
『⻘々とした日に』
作:チョン・ギョンジン
翻訳:村山哲也
演出:藤原佳奈 
演出助手:平野鈴
翻訳監修:沈池娟

出演:
辻響平   廣川真菜美  二宮啓輔  石川朝日
はぎのー  坂口彩夏   渡辺香奈  鈴木歩己
湯川拓哉  岡本易代   富名腰拓哉 川喜田涼真 伊藤大晃

会場:座・高円寺1
日程:1月25日、27日、28日

『寂しい人、苦しい人、悲しい人』作:ユン・ソンホ演出:早坂彩と併せて上演されます。
「青」が「青々とした日に」の、「寂」が、「寂しい人、苦しい人、悲しい人」の上演スケジュールです。

ご予約、詳細などはこちら劇場HPにて。









いいなと思ったら応援しよう!