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富士通のグローバルビジネスはどう変わる?―海外と日本をつなぐデザイン思考の可能性

2020年の富士通デザインセンター発足から4年。
デザイン思考の実践は、アメリカ・インド・ヨーロッパなどでの海外プロジェクトや世界中のメンバーの活動によって、グローバルな広がりを見せています。
その過程でチャレンジしてきたリージョンを超えて従業員同士がつながるプラットフォームづくりについて、また、グローバルビジネスにおいてデザイナーに求められる意識や行動について、センター長の宇田とデザインイノベーション部のフォンティンの2人に聞きました。

インタビューイー
富士通株式会社 デザインセンター センター長 宇田 哲也
富士通株式会社 デザインセンター デザインイノベーション部 マネージャー フォンティン 徳康 


2025年から3カ年で海外でのデザイン思考を広げる

発足から4年、デザインセンターの役割は社員向けのラーニング支援やマインドセット改革といったデザイン思考の全社浸透推進から、コーポレートブランディングやFujitsu Uvanceのオファリング開発支援、デザインセンターオリジナルのサービスやツール開発など、企業価値の根幹に対するデザインへと広がりました。
2025年からは海外リージョンに対して、サービスを顧客に届けるセールス向けと、サービスをつくるエンジニア向けの2軸で、デザイン思考を適用していく計画を進めています。

宇田 2024年は、2025年から始まるデザインセンターの3カ年計画の準備期間として、戦略策定と計画立案をしています。すでにアメリカ・インド・ヨーロッパなどのセールス、プリセールス、エンジニアに対するプロジェクトを開始していますが、費用対効果、スケールメリットが出るものにしていきたい。
今後、富士通が海外でサービスビジネスを拡大するためには、知名度と実績を上げ、顧客からの信頼を得ることが不可欠です。Fujitsu Uvanceの認知度を上げる闘い方をしっかりと考えなければなりません。

世界に散らばるデザイン実践者をつなぐ取り組みを企画

富士通の海外リージョンには、デザイナーの肩書ではなくてもUX/UIデザインや顧客開拓などでデザイン思考の実践者たちが各地におり、300人規模の共創プログラム実践コミュニティも存在しています。
そうしたメンバーたちをつなげ、海外のビジネスの実状を知るため、デザインセンターではオンラインワークショップ「やわらかセッション」を実施しました。また、富士通グループ全体のDX事例を共有する社内イベント「Fujitsu Transformation Now」では、国内外のデザイン活用の成功事例を共有するプログラム「世界デザイン会議」を開催。「やわらかセッション」では実践者たちが対話を通じつながり合い、「世界デザイン会議」ではデザイン思考をどう活かせばビジネスで実を結ぶのかという具体的な課題に向き合っています。

「やわらかセッショングローバル」での記念撮影

フォンティン 海外リージョンにも各国でローカルなデザインチームがあったり、デザインチームがなくてもデザイン思考を実践しているメンバーがいたりするのですが、これまでそうした人たちをつなぐ場はなかったので、やわらかセッションはとても刺激的な取り組みでした。
デザインセンターの人材リソースは限られているので、今後はプラットフォーム化などによってノウハウを活用可能な資源として提供することが重要になってきます。日本のデザインセンターを知ってもらうだけでなく、海外のデザイン実践者や事例といった情報を互いに発信してもらうことが、富士通でのデザイン実践を広げるために必要だと思っています。

宇田 富士通の事業変革には、デザインの要素が必須だと考える人が増えてきました。インドのチームもデザインの部分で確実に生まれ変わろうとしているし、アメリカのセールスの人たちも同様。ただ、デザイン思考の実践者同士のつながりはまだ弱く、実践者ではない人が圧倒的に多いので、効果的な使い方や成功事例を共有する場をつくって拡散していきたいですね。
形のないものを伝えるのは難しいので、コミュニケーションギャップを埋めるためにも、世界デザイン会議やコミュニティ、フォンティンさんが手がけているラーニングプログラムなど複数の手段を組み合わせて届けていくことが有効です。

フォンティン 現在、アメリカのセールス向けラーニングプログラム開発と展開を進めています。アメリカ以外のリージョンでも展開できるように、共通の基盤となる部分を意識したプログラムです。また、デザイン思考を業務の中で具体的な実践できるように、ターゲットの業務プロセスの中で活用しやすい形を考えています。
アメリカに駐在経験のある宇田さんからフィードバックをもらいましたが、日本とはビジネス環境が大きく異なることを意識してデザインしなければなりません。具体的な活動→共通基盤をつくる→広く波及する……という好循環を目指して、それぞれのフェーズを大切にしたいと思っています。

宇田 今、私たちがやっているのは2階建ての1階部分をつくること。デザイン思考のうち、日本と海外の共通の土台となる部分を1階、つまりビジネスリテラシーとして提供し、2階部分はローカルに適したプログラムにすることを考えています

地球と火星ほど違う? 日本とグローバルのビジネス感覚

富士通全体を見ても、デザイン思考の必要性は一層高まっています。海外においても、Fujitsu UvanceのようにDXによって企業間の連携を促し社会課題を解決するビジネスへと変化していますが、日本とは異なるグローバルのビジネス感覚を持つことが欠かせません。
海外でのビジネス経験が豊富な宇田と、海外とのコミュニケーションで長年インターフェースとなる役割を担ってきたフォンティン。
2人から見た課題や、社員に求められることについて語ってもらいました。

宇田 多くの日本人や企業は「グローバル=英語」ととらえがちですが、全く違うと私は思います。まず、ビジネスのスピード・マインド・進め方などが、地球と火星ぐらい違うという認識を持たないといけません。海外は、顧客・市場・文化だけでなく、ビジネス成果に対する貢献が日本よりも厳しく問われます。
デザイナーであってもビジネスセンスとロジカルシンキングを持たない限り、対等に話せません。海外に行って、向こうから見て日本に何が足りないのかを、日本を拠点とするデザイナーにぜひ感じ取ってもらいたいです。


フォンティン 富士通の社内でも、昔は日本と海外で仕事が分担されていたところもありましたが、今は違います。グローバルとは「日本を含めた海外」。地域差はありつつも、ボーダレスなんです。海外メンバーが含まれる打ち合わせもかなり増えました。自分からグローバルの仕事を目指していなくても、グローバル化は「勝手にやってくる」時代です。
英語力は大事ですが、チャレンジしたいというモチベーションやアイデアの方がもっと重要です。実践によってコミュニケーション力は身につくので、できるだけ多くの人にグローバルへ視点を向ける体験・実践の機会を提供することが肝要だと考えます。機会があればやってみたいというメンバーを巻き込んでチームとして力を発揮してもらえたら、グローバルでの活動を肌で理解でき、いずれ主体的に活躍していけるデザイナーの層が厚くなっていくと思います。

宇田 私は20代のころから、上司のカバン持ちで海外に同行して、その後も現地のお客様に単身で乗り込み、武者修行のようにボコボコにされながら経験を積んできました。
今、デザインセンターの若手は、私の海外出張に同行し、現地のお客様へのプレゼンを担当してもらうことがあります。そこでボコボコにされることもあるのですが、ボコボコの敗北感から生まれる「挑戦・やる気」が原動力になるはずです。会ったこともない海外のお客様に向けたプレゼンの準備やシナリオを考えるのは、日本では味わえない非常に厳しいトレーニングです。
日本で働くデザイナーが、海外で通用するようになるには、もしかしたら10年、20年ぐらいかかるかもしれません。すぐには結果が出ないかもしれないけれど、未来に必要な投資は今すぐ始めるべきだと考えています。

宇田と若手デザイナーが海外出張し、現地デザイナーとディスカッション