【エッセイ】サム・ゲンデル(「窓」2024年3月号)

※「私の味方」というテーマで書いたものです。

 この厳冬のような名前の音楽家は、季語で言うと八手の花のようで、飄々としながら幽玄な鼻歌のような音楽をスケッチやメモのように量産している。ゴールを決めず偶発性を楽しんでいるようで、録音物としての完成度はほどほどでいいと思っているのかもしれない。メインで使用するのはサックスだが、エフェクターやマックブックを使ってその音に捻りやリズムを加えている。エフェクターのつまみを足で回すために靴下で演奏することが多い。
 ぽんと存在するだけなのに、飾りたくなったり水切りをしたくなったり形や色が面白いと雑談したくなったりする石ころのような演奏。いろいろな所でいろいろな人と演奏し、さりげなく気になってしかたない石ころを置いていく。まさに神出鬼没。
 今回の俳句のうち、バナナの句(皮むいたバナナが胸のポケットに)は彼のアルバムのジャケット、とうもろこしの句(とうもろこし隠し他方の手でサイン)は彼の実際のふるまいを詠んだ。
 ヒーローやアイドルといった、治らない頭痛と肩凝りを抱えたような存在というより、味方くらいがちょうどいい。

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