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クリスマス

世の中の街中は煌びやかに飾られてクリスマスを楽しんでる。
今年の俺は生きてる事なんてどうでもいいやって思いながら一人暮らしの家に帰る道を歩いていた。
なんの取り柄もない俺だけど唯一声と歌が上手いって言うのが取り柄で声の仕事をする為に事務所に入って田舎から出てきた。それなのに長年結局夢も叶わず就職もしてなくて、就職するにはそろそろ限界の年齢にも関わらず就職難で仕事も無くて。
そんな状態でバイトで失敗して先週バイトをクビになった。
俺の不幸はそれだけで終わらず安い漫画の話みたいに彼女の二股を知って別れて、その上実家に帰ってない間に実家で可愛がってた猫まで昨年死んでしまった。
この状況なんて言えばいい?
「うわ~。まるで不幸のフルコースやぁ~」なんてどこかのタレントみたいに言えばいいの?そんな気持ちでもう生きる希望もなくて生きてるのも面倒だなって、自分の人生に嫌気を感じながら歩いていたら遠くの歩道の隅にダンボールが見えて その中に何か生き物がいるのが見える。
「こんな寒空の下に動物捨てるヤツがいるなんて!直接殺さなくても捨ててる事で殺すようなもんじゃないか!!飼い主くらい探してやれよ!!」
そんな独り言が出てしまう。
とりあえず見えた生き物を飼うつもりは無いけど飼い主を探すだとかどんな生き物か様子を見るだけでもとダンボールへと足を急いだ。

寒い寒いクリスマスの夜に私は捨てられてダンボールに入ってた。
こんな雪の日に捨てられるなんて私はついてない。マッチ売りの少女だったらマッチ擦ってる所なんだけど生憎生まれて間もない猫だからそれも出来ずにもうすぐここで死んじゃうのかなって思う。
私の前世は人間だったんだけど、自殺して死んでしまった為に長い間死んだ場所に地縛霊として放置された上にやっと生まれ変わりを許可されたかと思ったら自殺の場合は生まれ変わりの生き物を選べなくて人間には生まれなかった。
ただ前世の記憶を少し残して猫に生まれ変われたのをラッキー!!と思う間もなく今、寒さで命を尽きようとしている。
なんて短い猫人生だったんだろう。
次また生まれ変われるのかな?
それともまたここで気が遠くなるくらい長い時間今度は猫の地縛霊として過ごすんだろうか?

外は星が落ちてきたかのようなクリスマスイルミネーションの中で寒い外の気温に震える。これだけ人はたくさん歩いているのに私は空気みたいに誰にも気づかれない。
「このまま私はもうすぐここで本当に死んじゃうんだろうか?」この寒さじゃ私もそんなに長い時間もたないだろう。明日の朝まで生きてる気がしない。

そんな事を思い始めていたら1人の若い男の人が箱を覗き込んできた。
「こんな寒い中どうしたの?捨てられたの?酷いね。」と話ながら私を撫でてきた。
男の人の手は優しくて幸せをくれる暖かさだった。
長い時間寒い中での1人の空気みたいな状態でいた私にとって暖かな男の人のこの手は神様みたいだ。
私は神様の手を失わないようにほっぺたを擦り寄せ手に抱きつき寄り添った。
どうか暖かなこの手がもう離れませんように。

一通り私をよしよし撫でて落ち着いた男性は私の頭を撫でながら私に話しかけてくる。「もう俺ね俺の命も どうなったっていいと思ってるんだよ。俺もここで一緒に座って凍死でもしちゃわないかな?」なんて物騒な事を言い出す。なに言っちゃってくれてるの!!私やっと地縛霊解放してもらって猫に生まれ変わってすぐなんですけど!
それを一緒に死のうとかってイヤイヤ、そんなのいいから助けてよ!私を暖かな場所に連れてってよ「ねぇねぇ!ねぇ!!ってば」って言葉が通じないながらも必死に甘えて説得を試みた・・・。

横にいる猫はなんの力も無くて頼りにもならない今ここで死にたいとまで思ってる俺を真っ直ぐに信じて懐いてくれる。ひょっとしたら俺がすごい悪い奴で猫を殺すかもしれないなんて考えもしないかのように俺に甘えてくれる猫の温かさと柔らかさが心地よかった。ここで俺が死んだらこの猫も飼い主が見つかるとは限らなくて死んでしまうのかな?
このままこの猫を見殺しにするのか俺は?俺の人生は終わったように思うけどひょっとしてまたバイトで必死こいて稼いだらこの猫1匹くらいなら救えるんじゃないだろうか?俺自信がこの世に生まれた意味さえ見つけられないけど、この猫を救うために生きてきたとかくらい思ってもいいんじゃねえの?せっかく生まれてきたんだし、誰か人の為に何か出来ることは無かったとしても、この猫の為に生きる事くらい出来るんじゃないか?
そうだよ、きっとこの猫との出会いは神様かサンタがくれた俺の生きる希望だ・・・。

寒い中、男性が抱き抱えてくれてたおかげで寒さはだいぶんしのげた。温かさを失わないように男性に甘えているうちに男性に私の思いが通じたのか?
何か決心したように「今日はクリスマスだし僕の元にもサンタが来たみたいだよ。今日から君の名前は望みだよ。」そう言って男性はダンボールから私を抱き上げた。
私はクリスマスに名前をもらって野良猫じゃなくなった。

これが私が猫になっての初めてのクリスマスプレゼントなのかな?
世の中クリスマスで皆にサンタが来たように私の元にもサンタは来たようだ。

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