質の高い労働力を長時間働かせても儲からない日本
国際成人力調査は、各国の成人(16〜65歳)が持っている「成人力」を測定する国際調査です。ここで「成人力」とは、実社会で生きていく上での総合的な力のことであり、「読解力」「数的思考力」「状況の変化に応じた問題解決能力」の3つから構成されます。
2023年に実施されたこの調査によれば、日本は「読解力」および「数的思考力」において(ダントツで)世界一です。「状況の変化に応じた問題解決能力」においては世界一ではありませんが、それでもトップクラスに入ります。アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスといった主要先進国と比較しても圧倒的に得点が高く、成人としての総合力が世界屈指であることは間違いなさそうです。
この「成人力」の高低が労働力としての質の良否を直接示すわけではありませんが、控えめに「日本人が労働力として他国より劣っているわけではなさそうだ」くらいは言えるでしょう。もっと踏み込んで言えば、日本は「世界一質の高い労働力を持つ国」の一つなのです。
一方で、2021年における日本の全就業者平均の一人当たり年間実労働時間は、1607時間でした。これは意外にも世界平均(1716時間)より短いのですが、対象を「15〜65歳の男性」に限定すれば、日本人は世界で最も長時間労働しているとの結果が出ています。要するに、日本は世界一質の高い労働力を、世界一長時間働かせているのです。
それなら、日本人は世界一儲かっていそうなのですが、残念ながらそうではありません。2022年において、日本の労働者が生み出す一人当たりの付加価値(労働生産性)は8万1510ドルで、OECD(経済開発協力機構)加盟38カ国中29位でしかありませんでした。
これは、アメリカ(15万2805ドル)の5割ほど、イギリス(10万1405ドル)やスペイン(9万7737ドル)の8割ほどであり、主要先進国の間ではダントツの最下位です。ポーランド(8万5748ドル)やハンガリー(7万6697ドル)などの東欧諸国と同水準といえば、直感に反した奇妙な数字であることが分かるでしょう。
もちろん、労働生産性がその国の豊かさを直接表すわけではありません。GDP(国内総生産)で見れば、日本は世界3位の経済大国であり、国民はその経済的豊かさを享受していることは間違いないはずです。しかし、生産性と国民所得との間には強い相関があるため、日本人の所得は、その豊かさのわりに低く抑えられていると言えそうです。
質の高い労働力を長時間働かせているのに、日本人は儲かっていない。
これが、いくつかの調査結果が示唆する残酷な事実なのです。