【仁義なき戦い】自動車警ら隊と機動捜査隊は仲が悪い?!犯人の取り合いとは?
noteで5本目の記事となります。
私は都市部の県警で約8年警察官として勤務し、どうしてもやりたい仕事があったため退職、現在は別の仕事をしています。
警察人生のほとんどをパトカー勤務員として過ごしたため、数々の事件に対応してきましたし、それと同じくらいの検挙も経験しました。
警察署のパトカーに乗って勤務をしてきましたが、現場では自動車警ら隊や機動捜査隊といった本部所属の部隊とも一緒に仕事をする機会が多くありました。
そこで今回は意外と知られていない自動車警ら隊と機動捜査隊の関係性について紹介したいと思います。
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自動車警ら隊とは?
まず初めに自動車警ら隊について説明します。
自動車警ら隊とはパトカーに乗って管轄地域をパトロールし、最大の武器である職務質問を駆使して犯罪を検挙する部隊です。
基本的には職務質問に専念する部隊なので、一般的な事件事故などの通報事案には対応しませんが、重要事件には迅速に現場に駆けつけます。
自動車警ら隊は警察24時などのテレビ番組でも取り上げられることが多いですね。
総合的に見て、自動車警ら隊の強みとしては
・職務質問のプロ集団
・職務質問によって数々の犯罪を検挙する
・様々な場所をパトロールしているので、どこで重要事件が発生しても現場に急行できる
ということが考えられます。
【関連記事】職務質問ってなに?その要件は?元警察官がわかりやすく解説
自動車警ら隊は職務質問を主とするので、一般的な事件や事故などの通報事案には対応しません。
基本的には1日中職務質問に専念できます。
そんな中、殺人事件や強盗事件などの重要事件が発生した場合は自動車警ら隊も迅速に現場に駆けつけることになります。
自動車警ら隊はパトロールする地域を自分たちで好きなように決められるため、色々な場所をパトロールしています。
よって、どこで重要事件が発生しても「近くには自動車警ら隊がいる」という状況も多いです。
警察官の仕事の中でもこれだけ自由に勤務できるのは珍しいので、その自由さが自動車警ら隊の強みと言えるでしょう。
※詳細は割愛しますが、自由が与えられている分、検挙実績が伴わないと追い込みを受ける部署です。
自動車警ら隊は本部の地域部所属の部隊です。
警察署の所属ではありませんので、警察署のパトカー勤務員とは所属が違います。
そのため、自動車警ら隊は「午前中はA警察署の管内、午後はB警察署の管内」というような予定を組むこともできます。
職務質問が好きな警察官にとっては最高の部署だと思います。
重要事件については「C警察署の管内で強盗事件が発生」という指令が入れば、数多くの自動車警ら隊がC警察署の管内に入ってきます。
自動車警ら隊は1つの係で20~30台のパトカーが動いているため、重要事件が発生すればその中の10台程度が対応し、警察署と連携して事件解決に取り組みます。
今回はそんな重要事件への対応について、自動車警ら隊vs機動捜査隊の話を書いていきます。
機動捜査隊とは?
続いて、機動捜査隊についても簡単に紹介しておきます。
機動捜査隊は本部の刑事部所属の部隊で、普段は覆面パトカーに乗って色々な場所をパトロールしています。
自動車警ら隊と同じく警察署の所属ではありませんので、基本的には自由に行動することができますし、一般的な通報には対応しません。
よって、1日の仕事の流れとしては自動車警ら隊と似たような形になります。
余談ですが、機動捜査隊は一見すると警察官であることがわからないので、食事の際は色々なお店に行けるためグルメに詳しくなるそうです(笑)
機動捜査隊の強みとしては
・覆面パトカーなので犯人に気付かれないよう追尾ができる
・パトカーでは近付けない場所(犯人の自宅など)に行くことができる
・全員が刑事なので、犯人捜索の嗅覚が強い
ということが挙げられます。
両者の決定的な違いは職務質問をするかしないかです。
自動車警ら隊はとにかく職務質問での検挙実績が求められる部署ですが、機動捜査隊は刑事なのでそのような実績は求められません。
機動捜査隊に求められることは重要事件の検挙です。
機動捜査隊は職務質問を行うことがほぼない分、重要事件が発生した場合は現場に急行し、事件解決を目指します。
さらに覆面パトカーに乗っているのは刑事なので、重要事件が起きた際の現場指揮も求められます。(事件判断、擬律判断など)
そのため、自動車警ら隊と機動捜査隊の共通点としては重要事件の検挙ということが挙げられます。
お互いが重要事件の検挙に向けて協力していけばいいのですが、そこには意地やプライドのぶつかり合いがあり、必ずしも協力関係にあるとは言えません。
【関連記事】認知症の高齢男性を逮捕…警察人生で唯一後悔した逮捕事件とは?
重要事件の検挙とは?
自動車警ら隊も機動捜査隊も一般的な通報には対応せず、重要事件のみ現場に駆けつけるということを紹介しました。
では、そもそも重要事件とはどのような事件なのでしょうか。
わかりやすく言えば、重要事件とは全国ニュースになるような事件のことを言います。
罪名で言うならば殺人、殺人未遂、ひき逃げ、強盗、空き巣、自動車盗、誘拐、放火などが重要事件に該当します。
このような重要事件が発生した場合は本部の通信司令部より「A警察署管内で○○事件が発生した。対応できる局はすぐさま配備体制に入れ」などという無線が入ります。
警察署の警察官はもちろんですが、本部所属の自動車警ら隊や機動捜査隊もこのような無線を聞いて一斉に動き出すことになります。
では、なぜ重要事件は多くの警察官が投入されるのでしょうか。
それは社会的な反響が大きく、迅速な事件解決が求められるからです。
重要事件が発生したのに警察官がすぐに動かなければどんどん事態が悪化していきますし、第二第三の犯行が発生する危険性もあります。
なにより重要事件を起こすような犯人を野放しにするわけにはいきませんので、事件が発生した瞬間から多くの警察官が事件に対応することになるのです。
また、事件発生から時間が経てば経つほど犯人は遠くへ逃げてしまうので、素早い捜索活動や事件対応が必要になります。
警察官側から見れば、重要事件を検挙することが警察官としての醍醐味であることは間違いありません。
警察官である以上は凶悪な犯人と戦っていかなくてはいけませんし、最前線で市民を守っていく必要もあります。
そのため、重要事件の現場に急行し、犯人を検挙することができれば大きなやりがいを感じられるでしょう。
こういった仕事ができるのは現場で働く警察官だけです。
重要事件を検挙したときの報奨
重要事件を検挙するのは警察官としての醍醐味でありますが、あくまでこれは表向きな理由です。
治安を守る、市民を守る、最前線で戦う…
どれも警察官として素晴らしい醍醐味でしょう。
しかし、表向きな理由がある一方で、実は重要事件を検挙する裏向きな理由も存在するのです。
その裏向きな理由とは重要事件を検挙したときに得られる報奨です。
警察官は重要事件を検挙すると特別な報奨を受けることができ、大きなもので言えば本部長からの表彰、ときには警察庁の幹部から表彰を受けることもあります。
私自身も重要事件を検挙したときは本部長から表彰を受けましたし、薬物事件を検挙したときは警察庁から賞状が届きました。
警察署によっては活躍した分だけ給料に反映される場合もあります。
頑張った警察官を表彰することは当然ですし、なにも悪いことではありませんよね。
重要事件を検挙し、治安を守った警察官が報奨を受けることは当然と言えば当然のことですし、命を張って働いた分、その報いがあることはむしろ良いことです。
では、なぜ報奨を受けることが裏向きな理由になるのでしょうか。
報奨が裏向きな理由になるというのはポイントが1つだけあります。
それは報奨を受けられるのは重要事件を検挙した警察官のみというところです。
先ほど、重要事件が発生すると多くの警察官が現場に投入されることを説明しました。
それこそ「コンビニ強盗が発生した」という場合であれば、その事件だけで40~50人の警察官が一気に動くことも珍しくありません。
もちろん、この事件の他にも多くの通報が入っている状況なのですが、重要事件は一気に警察官が投入されます。
しかし、もし犯人を検挙できた場合でも、これだけの警察官が動いている中で報奨を受けられるのは検挙した警察官のみです。
さらに言えば、検挙実績を得られるのも一番最初に犯人を確保した警察官のみです。
つまり、どういうことか。
重要事件が発生すると、一斉に報奨と実績を目指して犯人の取り合いがスタートするのです。
警察官にとって、重要事件はまさに宝探し(犯人探し)の一面も持ち合わせています。
仁義なき犯人の取り合い
重要事件が発生したという無線を確認した後は警察署の警察官だけでなく、自動車警ら隊や機動捜査隊も一気にスイッチを入れて犯人の検挙に向かいます。
事件現場の周辺には大量のパトカーが巡回しており、すべての警察官が宝(犯人)を確保するために鋭く目を光らせています。
犯人の検挙はもちろん事件解決のためです。
事件の解決をなくして報奨も実績もありません。
それでも自分の名誉のため、自分の実績のためという気持ちがあるのも事実。
重要事件の発生はまさに警察署vs自動車警ら隊vs機動捜査隊の仁義なき戦いのスタートの合図なのです。
コンビニ強盗が逃走した事件を例に解説していきます。
A警察署の管内でコンビニ強盗が発生し、犯人は現金を奪って逃走しました。
幸い、店員にケガはなく、すぐに110番通報も入りました。
店員によれば、犯人は走って逃げた・黒色のジャンパーを着ていた・赤色の手提げ鞄を持っていたとのことです。
犯人に関する情報はすぐに無線で流され、対応している警察官はその情報をもとに犯人を捜索します。
ここからはA警察署の警察官、自動車警ら隊、機動捜査隊がA警察署の管内に入って犯人の捜索にあたります。
犯人は走って逃げたということなので、時間的に考えればタクシーなどに乗っていない限りそんなに遠くには行けません。
よって、コンビニ周辺を重点的に捜索するのがセオリー。
犯人の特徴である黒色のジャンパーや赤色の鞄を持っている人を見かければすかさず職務質問を行います。
こういった重要事件の犯人を捜索できるのもパトカーに乗っている警察官の醍醐味です。
この犯人を捕まえれば本部長から表彰がもらえるかもしれない
検挙できれば来月の給料に反映されるかもしれない
こんな欲にまみれた考えを持つのは警察官のいやらしいところでしょうか。
事実、犯人の捜索というのはこれくらい宝探しに近い感覚なのです。
犯人の捜索をしていたところ、一本の無線が入ります。
自動車警ら隊B号車「犯人に酷似する人物を発見。犯行も認めています」
一斉にその他の警察官が肩を落とす。
「くそ!持っていかれた!」
見事に自動車警ら隊がお宝を発見し、事件も解決しました。
まず、このような場合にどうなるかというと、その他の警察官は一斉に捜索を中止します。
面白いくらい素早くみんな通常業務に戻ります。
なにせ、これからどれだけ捜索したところでお宝はもうどこにもないからです。
重要事件が発生すると警察官はアドレナリンが出て興奮するものですが、他の警察官が犯人を発見したとなると一気に冷めるものです。
あとは犯人を検挙した自動車警ら隊のB号車とA警察署の警察官で事件を処理することになります。
このような場合、頑張って捜索した警察官はなにも得るものがありません。
報奨と実績を手に入れるのはB号車の警察官2名だけです。(パトカーや覆面パトカーは2人1組で乗っている)
悪い言い方をすれば、時間と体力を使っただけです。
結果がすべての世界というわけですね。
いかに手錠をかけるか
検挙した警察官を認定するものは単純に犯人を見つけたという事実です。
「頑張って犯人を探していた」というだけではなにも意味がありません。
もっと言うならば、犯人に手錠をかけた警察官が検挙した警察官として認定されます。
よって、例えば自動車警ら隊と機動捜査隊が同時に犯人を発見した場合、どちらが手錠をかけるのかで揉めることもしばし起こります。
なぜなら手錠をかけなければ何も意味がありませんし、ただの無駄足になるからです。
手錠をかけたかかけないかで大きな分岐点になるので、同時に犯人を発見した場合は本当に仁義なき戦いへと発展します。
「うちがやるよ」
「いや、最初に見つけたのはうちですよ」
重要事件の現場ではこんな醜いやり取りすら行われることがあります。
よって、重要事件の犯人を見つけた場合は
①とにかく犯人を確保する
②犯人を自分たちの元から離れさせない
というのが鉄則になるのです。
だからこそ、特に自動車警ら隊と機動捜査隊は犯人の取り合いをする場面が多く、仲が悪い一面もあるのです。
お互い実績が必要であり、1つの実績を手に入れるかどうかで大きく変わるので、仁義なき戦いへと発展しやすい面もあります。
お互いが「機動捜査隊には負けない」「自動車警ら隊には負けない」と思っていることでしょう。
なぜみんなそこまで目の色を変えるのかというと、本部長からの表彰というのは警察官にとって最大の名誉といっても過言ではないからです。
警察人生で一生に一度ももらえないのが当たり前ですし、そう簡単に手に入るものでもないです。
なにより、警察官にとって本部長表彰より大きな賞はありませんので、それだけ誰もが手に入れたいと思うものなのです。
8年の警察人生で一度だけ本部長表彰を受けた私はとても運がいい方だと思います。
ときには犯人を横取りされることだってあります。
私自身も警察署のパトカーに乗っていたとき、重要事件の犯人を確保しましたが、いつの間にか機動捜査隊に持っていかれたということがありました。
それくらいみんな必死になるものですし、特に実績へのこだわりが強い自動車警ら隊と機動捜査隊はぶつかる場面が多いのです。
犯人を探すために大量の警察官が投入される裏側にはこのような事情があり、こういった目線で行き交うパトカーを見ていると面白いかも…?!
まとめ
今回は意外と知られていない自動車警ら隊と機動捜査隊の裏事情について紹介しました。
重要事件の検挙というのは治安維持や市民を守るためというのが大前提ですが、実は警察官にとって”犯人を検挙したい裏事情”が存在するものです。
そんな裏事情を巡っては自動車警ら隊と機動捜査隊がぶつかる場面が多く、ときには犯人を取り合う仁義なき戦いが勃発することも。
警察署で勤務しているとそんな仁義なき戦いに巻き込まれることがありますし、自分たちが犯人を横取りされる場合もあります。
それだけ現場で勤務する警察官は検挙に飢えていますし、実績を欲しています。
外部の人から見れば少し恥ずかしい話かもしれませんが…。
なお、これはあくまで私の実体験でありますが、すべての警察官に該当するわけではありません。
その点は誤解がないようにお願い致します。
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