たかが備品、されど備品。
「マシニングでお習字」に作品が決まり、早速盛本くんがマシニングで習字の動作確認をしていると、行く人行く人機械の前で立ち止まり、機械の様子を見ていく。
そのうち、
「機械が墨をすってたら面白いんじゃない?」
「どうせなら硯とか道具一式削って作ったら?」
「作品にするなら最後に印が必要だね!」
など、社内の数人がアドバイスや意見を言い始め、更にくだらない方向へ話が盛り上がっていった。
結局、習字だけではなく、
「墨をするところからはじめ、印鑑を押しておわりにする」
この一連の動作も機械で行うということになり、機械に墨を固定する「墨ホルダー」や「印鑑」など備品の製作が決まる。
私自身は習字の一連の動きのアドバイスと備品の製作を担当した。
経営企画のメンバーとして盛本君の考えた習字の動きをさらに面白くして優勝を狙いたかったこと、習字の動きは盛本君がメインとなっているので、その備品の製作を担当することで少しでも盛本君に習字に専念してもらうという思いから自ら進んで手を挙げた。
習字の動きのほうでは、「とめ、はね、はらい」の細かな動きのプログラムをアドバイスしたり、印鑑を押す動きの調整を主に行った。
特に印鑑を押す動きは一番最後なので失敗しないようにプログラムをかなり細かく調整した。
一番初めに押したときは強く押しすぎて紙が破れてしまい、次に軽くするとうまく朱肉がつかないなど印鑑を押すだけの操作に想像以上に苦労した。
考えた結果、押したその場でしばらく印鑑を停止させるという普段の仕事では使わないようなプログラムも組む羽目になった。
ただ印鑑を押すだけの動きだったけれど、本番でうまく押すことができた時には本当にうれしくて仕事より感動したかも(笑)。
↓ 機械に印鑑を取り付け、これから捺印するところ
↓ きれいに押せた印鑑
備品の製作で一番苦労したのはこれまた印鑑。
佐伯さんの持ってきたモデルはそのままでは加工できないモデルだったので、文字の間隔の変更と柄の部分の変更をお願いした。
文字の間隔の変更は間隔が狭すぎて工具が通れなかったこと、そして柄の部分のデザインの変更はその加工をするために必要なNC旋盤(注1)という機械が当社にないという設備的な理由だった。
(注1)NC旋盤
「旋盤」は材料を回転させながら加工する工作機械。丸い形状を加工するのに使われる。「NC旋盤」とは旋盤にNCという数値制御装置が付いている機械で、自動加工や複雑な加工はもちろん、高精度の加工が可能となる。
変更後も柄の部分はなかなかマシニングではキレイにしにくい形状(注2)だったが、ずれを極力なくすフジタの加工ノウハウを使いなんとか加工した。「一体何をつくってるんだろう」と変な問いかけを自分自身にしていたが、実際に一連の動きを見たときにはそんな思いはなくなり、ただ笑っている自分がいた。
(注2) マシニングではきれいにしにくい形状
今回柄がデザイン性のある円柱だったので、通常であればNC旋盤が必要なのだが、当社にはNC旋盤がないためマシニングで加工した。上記写真のオレンジが加工前の形。これをマシニングで削って緑の形にする。マシニングは材料を固定し、工具を回転させて加工するため、円柱の形状は1/4ずつ削る必要がある。そのため1/4の加工が終わるごとに材料の向きを変える必要があるのだが、その際に材料の位置がずれると、加工ずれが起こり、きれいな円柱にならない可能性があるため細心の注意が必要となる。
習字の動きを考えているときは「俺、何をやっているんだろう」。
印鑑をつくっているときは「一体何をつくってるんだろう」と変な問いかけを自分自身にしていたが、実際に一連の動きを見たときにはそんな思いはなくなり、ただ笑っている自分がいた。