世界一くだらない習字の誕生秘話
くだらないものグランプリに何を出展するのかを決めるミーティングの中で本宮さんが言った言葉、
「人間がやったら簡単なことを機械を使ってやったら面白いんじゃない?」
でひらめいたのが、
「マシニングセンター(注1)に筆を持たせて習字をする」
というアイディアです。
(注1)マシニングセンター 「マシニング」、「MC」と略されることもある。工具を自動で交換できる装置が付いた工作機械。当社には6台のマシニングセンターがあり、材料サイズや加工形状によって使い分けている。
皆の反応もよくて、ほぼ満場一致でこのアイディアに決定!
この時点では雰囲気とノリだけで「これは優勝間違いないわ」くらいの自信でした。
とは言っても初の試み。
頭の中ではできるはずのことではあったけれど、実際はどうなのか試作をすることになりました。
まずは毛筆ではなく、筆ペンでテストしました。
「とめ」「はね」「はらい」といった書道の基本的な技法が全て含まれているという「永」という漢字を書いてみると、思った以上に綺麗な字が書けました。
(実際に筆ペンで書いた文字がこちら↓)
テストの結果から出展作品がこれに決まりました。
「これは楽勝だなー」と思いながら後日毛筆のテストをしたところ、今度は絶望的に下手な字が書き上がってしまいました。
(こちら↓)
・筆の先がまとまらない
・筆に染み込む墨の量が安定しなくて文字が潰れたりかすれたりする
・字がきたない
など、一瞬にして積みあがった課題の数々。
特に、この挑戦をしているころは残業しなければいけないほど普段の仕事が忙しく、動作テストの時間もなかなかとれない中でこれら課題をクリアし、作品を仕上げなければなりません。
そんな事態にそれまでの自信もどこかへとんでいき、優勝どころか、締め切りまでに形になるのかさえ分からない、そんな不安でいっぱいな気持ちになりました。
しかし自分が言った手前、投げ出すわけにはいかず…もうやるしかありません。
まず筆の先がまとまらない問題は、筆を手前に引く時の高さの変化量や速さを調整していましたがうまくいきませんでした。
実は人間が筆に墨を付ける時に無意識にしている「筆をねじる」という動作を再現しなければいけませんでした。
普段の加工では絶対に使うことのないようなプログラムコード(注2)を調べながら組み合わせて、筆が回転する時間をコンマ秒(注3)の単位で調整していった結果、筆を硯の斜面部分で一旦停止させ、筆を1回転ねじる動きを作ることができました。
(注2)プログラムコード 機械を動かすための指令
(注3)コンマ秒 0.1秒のこと
これで筆の先がまとまらない問題が解決です。
字の汚さはただひたすらにトライ&エラーでした。
線が太くてつぶれている所は高さを上げて筆圧を弱くして、「止め」の部分はただ止めても綺麗にならなかったので動画サイトで書道家の筆の動きを観察し参考にしました。
墨汁の染み込み方は最後まで安定しませんでしたが、習字プログラムを動かす前にあらかじめ筆に墨汁を染み込ませたり、その都度テストを行って墨汁の量を調整したりしました。
仕事の合間をぬってこのような調整を繰り返し、マシニングセンターの書く文字は徐々に綺麗になっていきます。
たくさんの練習を積んで習字が上手になっていくっていうプロセスが人間と同じで、どことなくマシニングセンターが愛おしくなってました(笑)
↓ だんだんと上手になる文字
そんな苦労をしながらふとした時に感じるのは自分がやっていることの「くだらなさ」です。
真剣になれば真剣になるほど増してくる「くだらなさ」を感じつつ「世界一くだらないであろう習字」が完成しました。
そしてこのマシニング習字で得たノウハウは今後の通常業務において生かされることはないでしょう(笑)