極私的アニメ名画座 第1回
2003年に出版された単著『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)のための書き下ろし原稿を、分割して掲載する。7月発売の文庫『増補改訂版「アニメ評論家」宣言』(筑摩書房)からは惜しくもこぼれてしまったので、こちらにアップをする。
書籍掲載時の前口上
本文で触れることができなかった作品を中心に、お薦め作品を二十本選ぶ。本稿の趣旨だ。
だが、あらゆるアニメの中から二十本を選び出すということは非常に困難だ。また、選者の価値観を如実に反映してしまうという点では、厄介ですらある。だいたいこういう時は、お薦めなのだから「見れば絶対おもしろい作品」でなくてはいけないのだが、だからといって“皆さんご存じの傑作”ばかり並べれば、それはそれで野暮のそしりをまぬがれない。こういうリストはある程度、マイナーあるいはカルトという“わさび”を利かせるか、そこが重要なのだ。だからこそ、どんな基準で選ぶかがポイントとなる。ああ、難しい。
いろいろ考えたが、というわけで今回は「名画座の特集上映」をイメージしてセレクトすることにした。具体的には「ややマイナー」だが「たまたま見たら結構面白かった」と言ってもらえるような作品であること。それが(かなりアバウトな)基準だ。だから今回は「アニメ史的に重要」とかそういう、啓蒙的要素は一切なし。
選んだ作品は、「特集上映」らしく適当なテーマごとにまとめてみたが、そのテーマにはあまり意味がないので気にしないように。そのほか「個人的に好きなのでどうしてもプッシュしたい」という作品については、メジャーなものであってもリストの中に紛れ込ませたりもしている。まあ、好きなんだからしょうがない。勘弁していただきたい。
ちなみに、いわゆるアートアニメ、それからディズニーを含む海外アニメについては、最初からエントリー外にした。いくつか入れたいもの(『詩人の生涯』とか『サウスパーク無修正映画版』など)はあったのだが、それぞれの作品の持つ背景や文脈などについて、ここで取り上げた作品ほどには詳しく知らないので、僕のような半可通が薦めてもしかたがないと考えた。
自分がいろんな雑誌のベストテン企画をどんな風に楽しんでいるかを思い出せば分かるとおり、あれは「作品を評価している選者たちを値踏みする」ことが一番愉快だ。このリストもそんなふうに楽しんでもらい、ついでにレンタルビデオ店などで作品を選ぶときの参考にしてもらえたらありがたい。
第一部 血潮は燃えているか?
まずはSF・メカものから5本。
『銀河英雄伝説 わが往くは星の大海』は、同名の大河SF小説の番外編を劇場アニメ化したもの。一歩間違うと指揮官中心で戦術、戦闘の描写ばかりになってしまうところを、新兵と先輩のキャラクターを設定して、英雄ではない普通の人の視線を加えた脚本がまずいい。六十分と短いが、原作の複雑な設定も、ドラマも、戦闘も過不足なく消化しているので物足りなくは感じない。特に譜面が読める監督、石黒昇の面目躍如というべきであろう、ラヴェルのボレロが全曲流れるクライマックスの戦闘シーンは圧巻だ。ちなみにボレロは『デジモンアドベンチャー』(劇場版第1作)でも印象的に使われている。
『マジンガーZ対デビルマン』は、どうも『マジンガーZ対暗黒大将軍』と比べるとどうも贔屓のファンが少ないように感じるのだが、僕は結構好きだ。なによりシネスコの横長の画面を生かしたダイナミックな画面構成とカメラワークにしびれる。さらに不動明と兜甲児の2大主人公の競演により、『暗黒大将軍』にはない、キャラとキャラのぶつかり合いによって生まれるうねりが、作品を息づかせている。特に不動明の不良っぽさは、兜甲児と比較すると一層際だってなかなかいい。確かに世界観という点からするとかなりハチャメチャなのだが、その破天荒さもまた、今見るといい味わいだったりする。
『Z.O.E Dolores,i』は一歩間違えば、新鮮味のない「ガンダムもどき」になりそうな世界観でありながら、そこと一線を画し、「泣いて笑って喧嘩(バトル)して」というエンターテインメントの王道を行く作品となったところがいい。なにしろ、子供とうまくいっていないガテン系中年男が主人公なのだ。これ一つとっても、スタッフのチャレンジ精神が伝わってくる。この設定が作品に人間味を与え、物語を地に足のついたものにした。この地盤がしっかりしていたおかげで、言葉を喋り主人公のことを「運命のオジサマ」と慕う巨大人型機動兵器ドロレス(声は桑島法子)というキワ物的なキャラクター(メカ)も、きちっと作品の中に収まっている。アメリカのコメディのような小道具(主人公の愛読書『HOW TO BE A DADDY』)の使い方なども巧みだった。
『超時空世紀オーガス02』は『超時空世紀オーガス』の続編として制作されたOVA。髙山文彦監督といえば『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』をベストに挙げる人も多いし、それに異論はないのだが、ここはやはりマイナーさと、オリジナル度の高さでこちらをプッシュ。対立する二大国リブリアとザーフレンが舞台だが、ザーフレン側は架空の外国語を話し、内容は字幕で表示される。これがスパイ・シーンや敵地脱出シーンに大きなスパイスとなって効いている。このように、“段取り”をちょっと工夫することで、日常感を醸したり、アクションを魅力的に見せるのが高山演出のポイントだ。気の強く肉付きのいいナタルマと、地味だが強い意志を見せるトリアという、二人のヒロインの対比もまた楽しい。
『宇宙海賊ミトの大冒険』。突如深夜に現れて、Aプロダクション的フォルムを持つキャラクターとユニークなSF設定で、ファンを驚かせた1作。アニメというよりも、漫画映画を現代風にアップデートしたと言ったほうがよいおおらかな雰囲気が魅力なので、オトナも楽しいけど、小学生男子あたりをこういう世界にハマってくれるといいんだけれどなーと思わずにはいられない。ベランメエな口調のミトは極めて壮快だし、ヒロインである年賀睦月のけなげさと、ミニスカートから伸びる足もまた非常に魅力的。