アニメエッセイ『Anime喜怒哀楽』から「喜びの装い、ウェディングドレス」

今はなき「トルネードベース」というWEBサイトで連載していた『Anime喜怒哀楽』の中から、「喜びの装い、ウェディングドレス」の再録です。

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喜びの装い、ウェディングドレス
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アニメに登場した最も有名なウェディングドレスとは
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 ウェディングドレス。それは一生一大の晴れ舞台で着る最高の「衣装」だ。ライフスタイルが多様化したとはいっても、まだまだその意味や存在感は薄れてはいない。おもしろいのは、多くの女性がウェディングドレスに多大な関心を寄せるのに対して、大半の男性は極端に関心が薄いということ。
同じ「儀式」にまつわる服ならば、むしろ喪服のほうに多大なる関心を持つ男性のほうが多い……んじゃないだろうか。
 そんな冗談はさておくとして。
 アニメに登場した、最も有名なウェディングドレスといえば、やはり『ルパン三世 カリオストロの城』のクラリスのドレス、で間違いないだろう。
 まずなんといっても05年に結婚式を挙げた、紀宮清子内親王(現在は黒田清子さん)が結婚式で身にまとったウェディングドレスが、このクラリスのドレスを参考にしたものだったというのは有名な話。
 それから、そのニュースに上書きされてしまったけれど02年に結婚をした内田有紀も、「クラリスのドレスがどうしても着たくて友人に作ってもらいました」ということで、やはりクラリスのドレスを模した、オーダーメードのウエディングドレスを着ていた。まあ、彼女のほうは、奇しくも05年に離婚しちゃいましたが……。
 ネットで二人のウェディングドレス姿を検索してみると、当たり前のことだが確かに似ている。シンプルなAラインに、バルーンとよばれる膨らんだ肩部分。比べてみると内田由紀のほうが、ハイネックなのでより「本物」に近い印象に仕上がっている。
 さて、ここで賢明なる読者諸君ならもうご存じのことと思うが、クラリスは本編中で着ているドレスは二種類ある。果たして二人はどちらを参考にしていたのか。
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二種類のドレスの違い
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 クラリスのドレスをパッと思い出せない人のために説明しよう。
 まずひとつ目のドレスが登場するのは物語の前半。シトロエン2CVを操ってクラリスが登場する場面で着ているものだ。
 こちらのドレスは、Aラインで肩口がバルーンになっており、袖は半袖。そのかわりオペラ丈の手袋をしている。この長い手袋は正式には16ボタンと呼ばれる長さのもので、上腕部にまで覆うようになっている。この手袋が、ルパンを事件の中心へと導く、演出上重要な小道具として、実に自然に使われるのは、皆さんご存じの通り。
 そしてもう一つは、クライマックス、カリオストロ伯爵との婚礼のために着ているもの。こちらは一つ目の衣装とシルエットはそっくりだが、大きく違うのは袖。長袖になっていて、袖口が金管楽器のようにグッと広がったデザイン。もちろん、カリオスロと伯爵による拘束を暗示する頭を覆う大ベールも印象的だ。
 ちなみに、Aラインのドレスの胸元からスカートへと流れる縫い目を、プリンセスラインと呼ぶそうだ。それを知るとクラリスには、このAラインのウェディングドレスがやはり最適なのだ、と納得させられてしまう。
 さてその上で、改めて前述の二人のドレスを見てみよう(覚えていない方は画像検索してみてください)。
 二人とも。袖はどちらも長袖。つまり二人とも奇しくも、クライマックスのカリオストロ伯爵婚礼仕様のドレスのほうなのである。
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ウェディングドレスの歴史
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 さてここで、ファッション史を振り返ってみよう。
 ウェディングドレスもまた'60年代、'70年代、'80年代と時代の移り変わりを反映している存在だ。'60年代~'70年代のウェディングドレスは、自由や変革の気運を受けて、個性的なさまざまなデザインが生まれている。そして'80年代に入ると、'81年にイギリスのチャールズ皇太子と挙式を挙げた,
ダイアナ妃のウェディングドレスが大きな影響を及ぼす。'81年といえば『カリオストロの城』の公開から2年後のことだ。
 ダイアナ妃のドレスは8メートル近くもあるトレイン(ドレスの後ろ部分の延長)を持つゴージャスなもの。(当時は)「リアル・シンデレラストーリー」として話題を集めた結婚式だけに、この後、ウェディングドレスのトレンドは、ロマンティックでゴージャスな方向へと触れていくのだ。
  思えば『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』('84)でリン・ミンメイが披露するウェディングドレス姿は、ロマンチックに傾注した演出と相まって、非常にゴージャスなものだった。実はあの背景には、ポスト・ダイアナ妃のウェディングドレスのトレンドも少なからず反映していたに違いない。
 こうやってウェディングドレスの知識を頭に入れてからクラリスのドレスを見ると、クラリスのドレスはトレインもなく、とてもシンプルなものというのがわかる。
 Aラインのドレスというのは、そもそも'55年にクリスチャン・ディオールが発表したシルエットが原点。'また'50年代は、戦後の復興を反映してウェディングドレスが華やかになりはじめた時代ではあったものの、トレインのないドレスも少なくなかったという。 どうやらクラリスのドレスには'50年代ごろのクラシカルなウェディングドレスの雰囲気が色濃く反映されているようだ。
 そういえば『カリオストロの城』に登場する乗り物や銃器は、第二次世界大戦ごろのクラシックなものからセレクトされていた。そして実は、クラリスのドレスもまた、ウェディングドレス史的に見てもクラシックな位置づけのものが選ばれていたのである。
 シンプルでクラシックなものは古びず、長く愛される。だからこそ21世紀にもなって、20年以上前にアニメで描かれたウェディングドレスを実際に着ようと思う女性が現れたりしたのだろう。
 こんなところにも『カリオストロの城』がエヴァーグリーンである理由が潜んでいるのではないだろうか。

参考:『ウェディングドレス・ブック』(著:カーリー・ローニー、訳:沖野十亜子 クロニクル・ブックス日本語版 発行:フレックス・ファーム)

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