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神様

私はいい子になれない。

いい子になれません。いい子じゃないんです。お勉強はサボってばかり。いっぱい寝坊するし、いっぱい大学休んじゃうし。この前落し物見つけたのに拾わずスルーしちゃいました。LINE送られてるのすぐ気づいたのに、わざとちょっと時間開けてから返信しました。親の前で「死んじゃいたい!」とか泣きわめいてたくさん困らせてしまいました。そしてそして、本当に悪いことは誰にも知られたくないのでこんな所に書いてません!

なんてことをいいつつ、でも、悪い子にもなりきれません。

タバコもお酒も飲まないし、万引きもしないし、違法なお薬も飲まないし、人を殺したことないし!!いっそのこと、悪い子になりきってしまえればいいのになぁって思うことがあります。でも、中途半端に真面目で不真面目で、つねに灰色。だからバイト先でお客さんに「ハッキリしてくれる?」って怒られちゃうんですけどね。そんなこと言われたって、自分に自信が無いから、発言に自信を持つことも出来ず…。

あー私はなんて中途半端な人間なんでしょう!!

あ、自己紹介し忘れておりました。ここでカメラがズーム。想像してください。バストショットで私が映し出されますよ。
私は、とある田舎に住んでる普通の女の子。19歳。ツインテールにフレームだけのアニメガネ。(ここからフルフィギュア→)メルカリで買ったフリルが可愛い半袖白ブラウス。セットで付いてた茶色?のワンピース。そしてそして大袈裟ちらーり白ニーハイ。(私がくるりと一回転♪)見よう見まねで下手くそなメイクをし、家を出る時は「何その変な格好!」ってばーちゃんとじーちゃんに大ブーイングされとーっても凹み、「じーちゃんとばーちゃんは時代遅れなの!都会ではこれが普通なの!」と言って家をとび出てきたがだんだん自信がなくなってきました。多分私は今とっても「イタイ」女の子なのです(涙)

2024年7月。私は今、憧れの都会、大阪にいます。全てを干からびさせてやろうか!ってくらい張り切ってる太陽が街を行き交うたーーーくさんの人達をあの世につれていこうとしている。あぁ、頭が沸騰しそうです。既に沸騰してるかも。日傘を持ってないのでとりあえず雨傘をさしているのですが、これは効果あるんでしょうか。あるような気もするしないような気もする。でも何もしないよりマシだよね!!

私は今日、大阪に「神様」に会いに来ました。そして神様に会ったあとは死んでしまおうと思っています。

私、もうすぐ20歳になっちゃうんです。大人になっちゃうんだ。だんだん少女でいられなくなっちゃうんだ。それが嫌で、10代で人生を締めくくりたくて、家を出てきたついでに、大阪で、ぽっくり死んでやろうと思っています。
まー本当は!10代で人生締めくくりたくてーとかじゃなくて、早起きするのが嫌だし、これから就職とか考えると頭痛いし、なんかもうどうしたらいいかわかんないしずっと寝てたいや、全部面倒臭いから死んじゃお!くらいの、怠惰の極みゆえの人生逃亡なのですが。でも私、白にも黒にもなりきれない中途半端な人間だから結局死なずにお家にノコノコ帰るんだと思います。ずっとそんな人生です。

早く神様に会いにいかなきゃ。でも、人が多いし暑いし、自分が今どこにいるのか分からない。あまり認めたくないですが、これはいわゆる迷子というやつです。Googleマップちゃん、しっかりして下さい。私の運命はあなたにかかっているんです!!さっきからGoogleマップちゃんは私が動いていないのに地図上をぐるぐる右往左往しています。

もうどうしたらいいんだよぅ。暑いしクラクラするし開場時間に間に合わないかもしれないじゃん!誰か助けてくれ~~!!

なんとなく、ぱっと前を見てみると目の前に地下に続く階段がありました。

『地獄↓』

Googleマップが無機質な声で喋ります。
「目的地に到着しました」

あぁ、私、暑さで頭が沸騰してもう既に死んでしまったのかも。神様に会う前に熱中症で死んじゃったのかもしれない。こんなんじゃ未練タラタラで成仏しきれないじゃん!!

せめて、天国がよかったな。私、人殺したことないし、いい子では無いけど悪い子でもないと思うんです。いきなり地獄って、あんまりじゃないですか。

暑さで頭がボヤボヤします。今私が本当に生きてるのか死んでるのか、ここがほんとに地獄なのか、ただ「地獄」という名前の何かなのかよくわからないですが、この炎天下の中まだ街中をさまよっていると本当に私が「終わる」気がしたのでとりあえず地獄に続く階段を降りていくことにしました。

階段を降りていくとだんだん涼しくなってきました。地獄に行ってるのに自分が生き返っていく感じがします。大きな扉がありました。多分これが地獄の門なんだと思います。

開けてみると真っ暗でした。あ、ちょっと嘘です。ぼんやりオレンジ色の明かりで照らされています。目が慣れてくるとだんだん周りが見えてきました。人が沢山居ます。お団子チャイナな女の子。赤髪ツインテの女の子。ぱっと見た感じ女の子の割合が多そうです。男の子もいます。みんな自分の意思で地獄に来たんでしょうか。それとも、さまよってここにたどり着いたんでしょうか。生きてるんでしょうか、死んでるんでしょうか。でも、なんだかよくわからないけど、ここが私の居場所のような気がしました。

突然、パッと、会場が真っ暗になりました。何かが始まる。

白。スポットライトが光りました。目の前にはとても高いステージがあります。スーツを来た男性が4人。ベース、ドラム、ギター、キーボード、それぞれ楽器を持っています。
大きな音がなりました。空間が揺れています。周りにいる人達が拍手し始めました。私は周りに合わせて拍手をします。誰かが拍手に合わせてステージに出てきました。より拍手が大きくなりました。ステージには背が高い大きな人が立っていました。白いスーツ。サングラス。ややうねったボブカット。スポットライトを背に浴びて、その人はとても輝いていました。まるで神様みたい。

神様。そこには神様が立っていました。私が会いたかった神様がいました。目の前にいました。

神様がマイクを掴んで言いました。

「僕は神様じゃないよ」

神様がそう言って微笑みました。


暗転。

転換。

いつの間にか私は映画館にいました。映画館…というより、ホームシアター?ちょっと豪華なホームシアター。スクリーンに映画が流れ始めました。

大きな音。おばーちゃんと一緒に見た時代劇で聞いたような古めかしい音楽。わざとらしいノイズが画面をちらちら。タイトルが流れました。『松永天馬殺人事件』。

松永天馬。神様の名前。

映画の内容はこう。松永天馬が殺された。何者かに殺された。松永天馬を殺したのは誰だ、あいつか、お前か。あれが、こうして、あれが、こうだ。あれがああなって、アレがあれで、あれあれ。

結局松永天馬を殺したのは私でした。

上映が終わった。ぶっちゃけるとよく分からなかったです。でもこの映画は「よくわからなかった」で終わらせるのはもったいないと思いました。もっと、なにか、大切な何かを教えてくれている。

スクリーンの中で殺したはずの松永天馬がスクリーンの外をでてきて言いました。

「君の脚本は君が書くんだ。殺すのも生かすのも、君次第。君はこの続きをどう書きたい?」

私は、神様、あなたに会えたので割ともう満足しちゃいました。このライブが終わったらフラッと消えちゃおうと思っています。いや、そういえばもう地獄にいるみたいだし、死んじゃったも同然か。

「はは、君はもう死んでると思ってるのかい?君はまだ生きてるよ。地獄の中で生きてる。」

そう。じゃあ、ちゃんと死ななきゃいけない。私生きてるのが嫌です。生きていくのが怖い。どうしたらいいか分からない。大人になればなるほど汚くなっていく気がする。つまらない人間になっていく気がする。キラキラが消えていく気がする。だから、ここで止めてしまえばいい。今の私を、永遠にすればいい。今が1番輝いてる。輝きを閉じ込めておきたい。………それと早起きがいやです。将来が不安です。お風呂には入りたいけど入るのがめんどくさい、そういう小さなめんどくさいが積み重なって死んだ方がマシじゃんー、って思ってます。死んだら何もしなくて良いしね。だから私は今日神様にあえて満足したので死にます。

「何を言ってるんだ。そんなことで演じるのをやめてはいけないよ。君のカメラを止めるのはまだ早い。まだ上映時間10分ぐらいしか撮れてないじゃないか。」

そんなことは、とーってもどうでもいいんです!上映時間10分なら短編映画的には十分じゃないですか!ダラダラと長時間つまらない映画を流すより、短く、美しく、キラキラをつめこんだ素敵な短編映画のほうが素敵だと思いませんか?

「確かにそれも素敵だね。でも僕は君の映画はこれからもっと面白くなると思うんだけどな。もったいないよ、ここで止めたら。ほら、今もまだカメラは回ってる。演技を続けて。」


暗転。

転換。


場面が切り替わった。私は今さっきのステージ、ライブハウス、「地獄」にいる。

神様、松永天馬はいつの間にか白スーツから黒スーツに変わっていた。心臓の辺りに血のシミが付いている。

松永天馬は言った。
「いい子は天国に行ける。悪い子は何処へだって行ける。何処へも行けない君は、」

わたしは、何処へも行けない私は何処へ行けるんですか。

「ライブハウスへ行ける」

私はライブハウスに行ける。ライブハウスに来るとあなたに会える。神様に会える。

「僕は神様なんかじゃない」

あなたがなんと言おうと、私はあなたの事を神様だと思っています。

「僕が君のことを裏切ったとしても?」

信じるのもは救われる。あなたはそう言いました。

「君は君の神様が欲しいだけだ、それじゃあまるで僕は着ぐるみのピエロみたいだね。僕はそんなに都合のいい人間じゃないんだ」

「僕は君を救えない」


暗転。

転換。


場面が切り替わる。今度はさっきの映画館。
松永天馬は私から見て右側の髪の毛をまとめている。髪をまとめているゴムには松永天馬自身の顔がプリントされたアクリル板が付いていた。

「映画、撮り続ける気になった?」

ううん、もう満足したからいいんです。

「君は神様に会えて満足したから死ぬっていったよね?」

はい。

「でも僕は神様じゃない」

それはあなたが勝手にそういってるだけ。

「でも本当に僕は神様なんかじゃないんだ」

でもあなたは私を救ってくれた。

「君の脚本は君が書くんだ。だから君が僕のことをどう書いてくれたってかまわない。しかし、それは「君の中の松永天馬」の話であって、現実では違うんだ。松永天馬は、僕は、神様じゃない。そして、君を救えない。もし君が僕に救われていると感じたなら、それは勝手に君が救われていると思いこんでるだけだよ。」

それでいいんです。わたしはそれで満足しています。

「どうしても僕を神様にしたいみたいだね」


「信じるも信じないも君の勝手さ、好きにしたらいい。」


暗転。


転換。


場面が切り替わる。ここは「地獄」。

神様、松永天馬がステージの上にいる。衣装が変わっている。白のシャツに胸元に赤い薔薇の模様。薔薇の模様は血を流している。

松永天馬が言う。
「最後の1曲です」

これが終わると、私は現実に戻されてしまう。
そう思った。
歌ってはダメ。
あなたがそれを歌うと、私は、
私は。

考えるよりも先に足が動いていた。
私はステージに向かう。ステージに飛び乗る。神様のマイクスタンドを奪い取る。

歌わないで。

「いけないよ、こちら側に干渉しちゃあ。」
神様が言う。

神様がパチンと指を鳴らすと、ステージの下にいたたくさんの人たちが私をステージの上から引きずり下ろした。

「僕と君には壁があるんだ。ステージの上と下。それでこれは成り立っている。この壁があるから、君の中で僕が神様になれる」

背にスポットライトを浴びながら神様は言った。逆光で表情はよく見えない。

「僕は神様じゃない。君を救えない。でも僕は君の中では神様になることが出来る。それぞれが思い描いてる僕になれる。そして、ライブハウスで、「地獄」で歌い続けることが出来る。」

わたし、あなたが歌い終えてしまうと、現世に戻されてしまう。この地獄より地獄みたいな現世に戻されちゃう。わたし、ずっとここでいたい。ここでいることができたら、私は、私でいられる。

「この世は地獄。知ってるだろう君も」

「どこに行ったって地獄なんだよ。ここにいたって同じさ。だってここも現世なんだから」

そう言いながら神様はステージのツラに座る。目線が近くなる。

「僕を神様にしたいなら、君は生きていかなくちゃいけない。君は「僕が神様」という脚本を書き続けなければいけない。」

生きていくには、また、あなたと離れなきゃいけない。ずっと一緒にいられない。

「そうだね。でも生きていかないと君は僕に会えない。僕は生き地獄で歌っているからね。」

「また会いに来たらいいさ。僕はずっとここで「地獄」で待っている」

神様、松永天馬は私の背中を軽く押す。

「ほら、早く行かないと。次のシーンだよ」


暗転。


転換。


気づくと私は外にいた。周りにはたくさんの人が忙しなく行き交っている。すっかりお空は暗くなり、ピカピカとカラフルな光が街を彩っている。

地獄から出てきてしまった。私は生きている。

私の本来の予定ではこの後ぽっくり死ぬつもりだった。

でも、

「でも、ここで死んだら神様に会えなくなっちゃうんだ」

神様は神様じゃなかった。でも私があなたを神様にする。あなたがなんと言おうと、やっぱり私の中であなたは神様だった。

「神様…」

いい子は天国に行ける。でも私はいい子になれない。悪い子は何処へだって行ける。でも私は悪い子にもなれない。

「何処へもいけない私はライブハウスへ行ける…」

ライブハウスで神様は歌っている。また神様に会いたかったらライブハウスに行けばいい。

「…なら、生きていくしかないじゃない」

今の私の映画は上映時間10分ぐらいらしい。そんな短かったら、ポップコーン食べきれないもんね。

カメラが回る。ロングショットで私を映す。

この映画はまだ続く。面白い映画にはならないかも。小さな小さな映画館の隅でひっそり上映される。神様が私の小さな映画館の中でつまらない私の映画を見ながらポップコーンを食べているところを想像した。つまらなそうに観ている。だから言ったじゃん。キラキラ短編映画の方が素敵でしょって。でもなんだか神様は満足げな顔をしていた。………想像だけど。

白にも黒にもなれない灰色の私なのでこれからノコノコお家に帰ります。

生きてなきゃ会えない地獄の神様。生き地獄の神様、松永天馬。

あなたはまたどこかのライブハウスで、地獄にさまよってきた魂を現世に返してるのでしょうか。そしてまた、地獄で私たちを待ってくれてるのでしょうか。

「ほら、まだカメラは回ってる。演技を続けて。」

どこかからそう聞こえたような気がしました。



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※この物語は現実とフィクションが混じりまくった狂信者の雰囲気妄想夢小説です。

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