[カバー漫才] 夢路いとし・喜味こいしが金属バットの名作漫才「漫才師とコント師と落語家」をカバーしたら…
「漫才師は大変な仕事だ」と思い始めたいとしさんと,「どんな仕事でも大変だ」と教え諭すこいしさんとのやりとりをお楽しみください
オチの分類:拍子落ち/途端落ち
夢路いとし:我々見ての通り…
喜味こいし:はいはい
い:「車上荒らし」やらせてもらってまして…
こ:漫才師や
い:長いこと「車上荒らし」を…
こ:そんなもん長いことやったらあかん
い:1,2回ならええんか
こ:1回でもやったらあかんけどもやな。漫才師や我々は。長いこと「漫才」やらせてもろうてまして…
い:「漫才師」というのは,見ての通り立ち仕事でして…
こ:まぁまぁ,ざっくり言うとそやな
い:立ち仕事の,接客業
こ:ざっくり言いすぎや
い:立ち仕事の接客業というきつい仕事でして…
こ:どこがや
い:腰にくるんですわ
こ:あのなぁ,普通の「立ち仕事の接客業」はきつい仕事や。腰にもくるわいな。でも漫才やって「腰にくる」というやつはおらんやろ
い:それに比べて「コント師」は楽
こ:コント師は楽か?
い:イスに座っとる
こ:あれは設定や。コントの設定
い:僕も漫才師やめてやな,コント師なろ思うて
こ:そない簡単になれるか
い:もうコントの新ネタ思いついてんねん
こ:「新ネタ」というと?
い:コント「睡眠」
こ:寝るな。寝とるだけやないか
い:コント師なら疲れ溜まってきたらこういうコントもできるわけや
こ:疲れ溜まりすぎや
い:コント師は楽してんねん。楽から生まれる笑いなんてないのに…
こ:なんやその名言。コント師のみなさんも楽なんてしてないやろ。舞台でこない大きな荷物持って走り回ったりしとるやないか
い:大きな荷物を?
こ:あれは楽やない
い:運送業やないか
こ:ざっくり言うな
い:コント師もきつい仕事か
こ:仕事というのはなんでもそや
い:仕事の中で唯一楽なんがあれやろ?
こ:「あれ」というと?
い:落語家
こ:待て待て。「落語家」のどこが楽やねん
い:落語家さんが運ぶ荷物いうたら扇子くらいやないか
こ:あれは「荷物」とは言わんやろ
い:「荷物」とも言えん軽い物しか運んどらんのに,毎回座るやないか
こ:あれはシステムや。「座る」というシステム
い:しかも,大昔に誰かが作ったネタやるんですわ
こ:待て待て待て。あれは「古典落語」というジャンルや
い:あれ,大昔のどこの誰が作ったかも分からんようなネタやろ?
こ:まぁまぁ君が言いたいことはだいたい分かるわ。「漫才師は新ネタ作り続けるのが大変や」とこう言いたいわけやろ
い:分かっとるやないか。ほんまに大変なんですわ。新ネタ作り続けるというのは
こ:ネタ作りの大変さから言うたら,落語家さんは楽やな。大昔に誰かが作ったネタやれるから
い:しかも座れんねん
こ:君,そない座りたいんか。「座る座る」言うて
い:座りたい
こ:もう少しやから
い:「もう少し」て
こ:実は私も思うとることがある
い:落語家さんに対して?
こ:落語家さんはみなネタ中暑うなるんかな?急にジャンパーをお脱ぎになる
い:君は落語家さんのアウターのこと「ジャンパー」言うとるんか
こ:君こそ「アウター」言うとるんか
い:あれはアウターやないか
こ:インナーではないけども,暑かったら着てこんでもええのにな
い:あれは楽しとるんですわ
こ:何が?
い:我々は舞台出てきて,暑かろうが寒かろうが最後までジャケット着たままや
こ:あたりまえや
い:落語家さんは,「寒かったらアウター着よ」思うとるわけやろ?楽から生まれる笑いはないのに…
こ:その名言やめ。「いざとなったらジャンパー着よ」思うとるかは知らんけどもやな,楽しとるわけやないやろ
い:「座ってしゃべるだけ」てテレアポや
こ:落語を「テレアポ」言うやつがあるか。それに,テレアポはテレアポで大変な仕事や
い:それに比べて漫才師はたまにしか座れん
こ:たまに座ろうとすな。漫才師は縄文杉のように,最後まで立ち続けな
い:なんや「縄文杉」て
こ:縄文杉というのは,樹齢3000年以上ともいわれるりっぱな木や
い:漫才師を縄文杉と比べるやつがあるか
こ:最後まで立ち続ける様が似てるやないか
い:僕が漫才中何回ボケとると思うてんねん君は。縄文杉は3000年以上立ち続けてボケ0や
こ:あのな,縄文杉かてちゃんとボケとるやないか
い:何がや
こ:「何年生きとんねん」というボケやあれは
い:ずいぶんと壮大なボケやな〜
こ:我々も縄文杉目指して漫才やらんと
い:君の目標おかしないか
こ:「いつまでも漫才を続けたい」という気持ちの問題や
い:僕かて気持ちはありますよ。そうは言うても漫才師は立ち仕事やから,腰曲がったらやれなくなるやないか
こ:何を言うとんねん君は。すでに腰曲がっとるやないか
い:僕が?腰曲がっとるか?
こ:自分で分からんのか。腰が曲がっとるとういことも
い:君も腰曲がっとるから,自分が曲がっとることに気づかんかったわ
こ:あほなこと言うな
い:二人して腰曲げて
こ:その姿を金属バットという漫才師のお二人が見て,「二丁のピストルみたいでかっこええ」言うてくれて…
い:「かっこええ」とは言うてない。「バールみたいや」言うてはったけど
こ:人を釘抜きにみたいに言うて
い:でもこの歳になると,立ち仕事はほんまにきついんですわ
こ:それは正直あるな
い:だから僕,転職考えてんねん
こ:「転職」というと?
い:ジャンパー着てテレアポする仕事
こ:それは落語家や。いやいや…落語家は「ジャンパー着てテレアポ」する仕事違う
い:座れる仕事しよかと
こ:気持ちは分かるけども,落語家さんはただ座って独り言言ってるわけやない
い:おもしろい話するんやろ?
こ:おもしろい話もするけれども,そば食わんと
い:仕事中に?
こ:本物のそばやない。そばを食べる仕草
い:え?
こ:本物のそばを食べるような仕草をする
い:あ〜あれか。僕が得意とする芸の一つやないか
こ:君,そば食う仕草得意か?
い:得意や
こ:ほんなら見してみ
い:(そばを食べる仕草をする)
こ:シェイク飲んでる音やないかそれは
い:そばすする音や
こ:それにや,落語家さんは「座る」いうても正座や。君,正座できるか?
い:あれは正座か?
こ:あたりまえや。なんや思うた?
い:掘りごたつ違うか?
こ:掘ってるか
い:正座はきついですわ
こ:それから落語家さんは,大昔に誰かが作ったみんな知っとるネタでもちゃんと笑いとるんやから…
い:結構なプレッシャーやな
こ:君にできるか?
い:難しい
こ:そもそも君,正座できるか?
い:できまへん
こ:大きな荷物は?
い:運べまへん
こ:それやったらもう漫才しかないやろ
い:我々には漫才しかないか。でも…
こ:座りたいんか
い:座りたい
こ:ええ方法がある
い:なんや?
こ:漫才に腰をすえたらええ
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