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漫才論| ³人を傷つけない笑いを目指すべき❓
目指すべきだと思います
「『人を傷つけない笑い』や『誰も傷つけない笑い』など存在しないし,そんな笑いはつまらない」と思う方もいるかもしれませんが,私はそれを「目指すことに意味がある」と考えています
実際,"時代"はそれを求めています。でもそれは,単なる「流行り」ということではなく,人間が本質的に望んでいることなのだと思います。人をバカにしたり,人を傷つけて笑いをとるというのは,あまり気持ちのよいものではなく,「心から笑えない」と薄々気づいている人も少なくないはずです
「そんな綺麗事を言うんじゃないよ」と思われるかもしれませんが,「目指すことに意味がある」とはどういうことなのかを書きます
今 "時代"は何を求めている?
文春オンライン 「好きな芸人2020」 というアンケートで,サンドウィッチマン,和牛,EXITが上位3組に選ばれましたが,この3組が選ばれた理由の中にこのようなものがありました
1位:サンドウィッチマン
「穏やかな語り口が見ていて癒される」
「誰も傷つけない。嫌みがない。人へのやさしさが芸にも滲み出ている」
「嫌味なく真摯に生きている。その生き様が格好いいと感じる」
「地元,仲間,先輩,後輩,周りの人をとても大切にしている」
「彼らのネタやMCやコメントで嫌な思いをしたことがない。純粋に笑わせてもらえる」
「若手芸人に対してもロケで出会う普通の人達にも優しく敬意を持って対応している」
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「漫才もコントも抜群におもしろい。売れるとネタをやらなくなる芸人が多い中,毎年新ネタを作っていてハズレがない」
「伊達のツッコミは切れ味最高。さすが富澤が相方は伊達でなくてはと執着しただけのことはある」
2位:和牛
「前に出すぎない感じが見ていて心地いい」
「芸人はガツガツ前に出るイメージがあるが,謙虚な姿が逆にいい」
「穏やかで優しい雰囲気でいつも癒される。地に足がついたしっかりした意思を持っていて好感が持てる」
「うるさくない。あまり出しゃばらないけどやる時はやる仕事人。さんま・ダウンタウン路線ではなく,タモリ・ウンナン路線を継承できる芸人は今では貴重な存在」
「他人を押し退けることも絶対せず,所作や言葉のチョイスの端々に品がある」
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「漫才を愛し,笑いを深く追求している」
「漫才に対する愛や,細部まで手の込んだネタが大好き」
「演技力とネタの構成力はピカイチ」
「何十年先まで漫才の伝統を守っていくのは彼らだと思う」
3位:EXIT
「正直に生きている。この汚い世の中で,周りを傷つけず,自分たちの道を進む彼らは今の日本に必要」
「他の人のことを決して悪く言わず,自分の悪いところは素直に認めて,嘘偽りがない」
「性格の良さや忖度なしの真っ直ぐな姿勢が画面を通して伝わる」
「見た目はチャラ男なのに中身はまじめ」
「相方への感謝を忘れず謙虚。本当に人間がよくできている」
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「漫才がおもしろい。漫才以外で話題になっている事の方が多いがM-1でも上に行ける力があると思う」
「ネタの新しさ,しっかり練られた構成で唸らせられる正統派漫才師」
もちろんこれ以外にも,単純に「ファンだから」からという方の票がたくさん入ったからこその順位だとは思いますが,それでも,「人柄」と「漫才(ネタ)」を評価するコメントがこれだけあるという点を考えると,今 "時代"が何を求めているのかをうかがい知ることができると思います
「人を傷つけない笑い」など
存在するのだろうか?
「『人を傷つけない笑い』など存在しない」という方も結構います。その気持ちはよく分かります
「笑い」にかぎらず,日常生活においても,知らず知らずのうちに人を傷つけてしまうことがあります。「私は今まで誰のことも傷つけたことなどありません」と言える人など,たぶん一人もいないと思います。何に傷つくのかは人それぞれです。そして,笑いの好みも人それぞれで,自分では「おもしろい」と感じることでも,ある人はそれを不快に思うこともあります
だとしたら,「『誰も傷つけない笑い』を見つけることなど不可能だし,そんなふうに人の顔色をうかがうようにして『笑い』を作ろうとしてもおもしろいものなどできるはずがない」という気持ちになるかもしれません
それでも目指すことに意味がある
何に傷つくのかは人それぞれだとすると,誰が何に傷つくのかをすべて調査し,それを避けながらネタを作る必要があるということなのでしょうか?そうではありません。そんなことは絶対に不可能です
そういうことではなく,必要なのは,「漫才(ネタ)」と「話芸」を磨くと同時に,「人格」を磨くことです。これしかありません。人間としてもちゃんと成長していくしかありません
「人をバカにする笑い」をやり出すと,それとは逆の方向に進むことになります。できるだけ破天荒なことをしようとして,人をいじめたり,非人道的なことをしたりします。実際これまでにも,そのようなことがたくさん行なわれてきました
もちろん,気をつけていても,知らず知らずのうちに人を傷つけてしまうことはあります。だからこそ,「誰も傷つけない笑い」を目指し,人格を磨くべきです。これを目指すことなく,ただ自分が「おもしろい」と思うことをやるなら,ほぼ確実に"誰か"を傷つけることになるからです
実際には,「誰も傷つけない」なんて無理なことなのかもしれません。だからこそ,「本気で目指す」ことに意味があると思います。「人をバカにする笑い」をはるかに超越した,「人を傷つけない笑い」を本気で目指すことに,意味があるのです
このテーマに関する質問・意見・反論などは
「みんなで作る漫才の教科書」にお寄せください
「みんなで作る漫才の教科書」とは,テーマ別に分類した「漫才論」にみなさんから「質問」「意見」「反論」などをいただいて,それに答えるという形式で教科書を作っていこうというプロジェクトです
THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」
フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔 出演: おせつときょうた
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![藤澤俊輔 (漫才作家/小噺作家)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77838232/profile_c9960e93d122afc92f44a5ae3be39d6e.jpg?width=600&crop=1:1,smart)