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漫才論| ³⁷カバー漫才台本 「チュートリアルの『バーベキュー』を和牛がカバーしたら」

「カバー」と言いながら,カバーではなくコピーやモノマネになってしまうパターンが多いカバー漫才ですが,その原因についてはこちらの記事で書きました

原因が分かっても,コピーやモノマネではない「カバー漫才」がどのようなものなのかを見てみないとイメージが湧かないかもしれないと思い,カバー漫才台本を作ってみました

元ネタは,2005年のM-1グランプリ決勝で披露されたチュートリアル「バーベキュー」のネタです。今回はこのネタを,「和牛がカバーしたらこうなるのではないか」というイメージで書いてみました(読みやすいように元ネタよりも短くしてあります)

川西:明後日バーベキューに行こうと思ってましてね
水田:一人でね

川:みんなでや
水:みんなで!?
川:一人でバーベキューは行かへんやろ普通
水:なんで?
川:「なんで」って,一人でバーベキューは寂しいですよねぇ
水:寂しくないやん。一人やったら自分の好きなように刺せますからね
川:何を?
水:具材を
川:具材を串に刺すってこと?
水:自分の好きな順番で刺せるでしょ
川:みんないても好きなように刺したらええやんそんなん
水:文句言うやつおるやん
川:文句?
水:「刺す順番おかしい」とか
川:おらんてそんなやつ
水:ほんならちょっと刺してみて

川:何が?
水:賢志郎やったらまずどの具材から刺す?
川:「バーベキュー」言うたらまずは肉から刺すんちゃうの?
水:肉ね。次は?
川:次?次は〜ピーマン?
水:「ダサっ!」って言われるやんそれは
川:何が?
水:「肉→ピーマン」から刺し始めるのは80年代の刺し方やから
川:「80年代の刺し方」って何?
水:何事にも「流行り」というものがあんねん
川:あるけど,バーベキューの具材刺す順番に「流行り」なんてないやろ
水:2021年はピーマンからや
川:今年はピーマンから?
水:流行ってんねん。ピーマンから刺すのが
川:流行ってんの?聞いたことないけど
水:だから例えば,ピーマン→たまねぎ→エリンギ→ホタテとかや。な?
川:「な?」言われても
水:こういう流行りを踏まえて刺さんと
川:それほんまに流行ってんの?
水:一緒に行ったやつに文句言われるから
川:その「文句言うやつ」お前ちゃうの?
水:みんな言うてくんねん。流行りに乗っからんと
川:ほんならもうピーマンから刺したらええんやな
水:そう。まずはピーマン。次は?
川:え〜ウィンナー→鶏肉→
水:おぉ!
川:エリンギ?
水:ええやん
川:ええの?これが?
水:初めて?
川:何が?
水:自分で考えたん?
川:「自分で考えた」って何?
水:「ピーマン→ウィンナー」から入るのはニューヨークスタイルやから
川:ニューヨークスタイル?
水:雑誌かなんかで見た?
川:見てないわ!あんの?「月間バーベキュー」みたいなん
水:偶然かぶっただけ?
川:偶然や。適当に刺してるだけやから
水:ほんならビギナーズラックやな

川:知らんけど。バーベキューにそんなスタイルとかある?
水:トーマス・マッコイが得意とするのがニューヨークスタイルやないか
川:誰やねんそいつ。トーマス・マッコイって
水:近代バーベキューの父トーマス・マッコイですよねぇ
川:知らんて誰も
水:有名やん
川:なんやねん「近代バーベキューの父」て
水:まぁでも今のはビギナーズラックやから
川:ビギナーズラックとかもないやん。こんなんに
水:二本目いこう
川:二本目?
水:二本目の刺し方でほんまの実力分かるから
川:実力もなにも,適当に刺してるだけなのよ
水:何からいく?
川:ほんならもう〜ピーマン→
水:まずはね
川:エリンギ→
水:おぉ!
川:とうもろこし→とうもろこし?
水:お前やってたやろ
川:何が?
水:「とうもろこし→とうもろこし」はもう師匠の刺し方やから
川:師匠!?
水:バーベキュー師匠やないか
川:「ハンバーグ師匠」みたいに言うなよ〜
水:ホームページ持ってんの?
川:ホームページ?
水:バーベキューのホームページ
川:持ってるかそんなもん。バーベキュー専門のホームページなんて持ってないわ
水:師匠!
川:師匠じゃないのよ俺は
水:もう一本刺していただいてもよろしいでしょうか?
川:勘弁してくれ
水:師匠!そこをなんとかお願いします
川:ほんならもう〜ピーマン→
水:さすが!
川:ピーマンは流行りに乗っかってるだけや
水:お次は?
川:ほんならイカいこか?
水:イカいきますかここで
川:ええの?これで
水:めちゃくちゃいいです。お次は?
川:え〜次は・・・,たまねぎ→ベーコン→とうもろこし
水:出たとうもろこし!
川:よう分からんけどええの?これ
水:素晴らしい作品です!
川:作品?
水:早速その新作を披露されてはいかがでしょうか?師匠
川:「新作」とかあんの?こんなんに
水:明日のバーベキューで
川:「明日のバーベキュー」って何?
水:私明日バーベキュー行く予定なんで
川:俺は明後日バーベキュー行く予定やから
水:明日も一緒に行きましょう師匠
川:なんで二日続けてバーベキュー行かなあかんねん
水:明日のバーベキュー一人で行くの寂しいんで

川:お前一人で寂しいんやないか。もうええわ〜

これを読んで,「チュートリアルのモノマネ」という印象はなく,「和牛のネタのようだ」と感じられたら,「カバー漫才」として成功だと思います

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❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」

フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた


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藤澤俊輔 (漫才作家/小噺作家)
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】