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[読むカバー漫才] おせつときょうたが夢路いとし・喜味こいしの名作漫才「ジンギスカン料理」をカバーしたら…

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しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる
●漫才における「相槌」はそのときの雰囲気で自然に入れるものなので通常漫才台本には書きませんが,本格的な掛け合いのしゃべくり漫才をイメージできるようあえて細かい「相槌」を書き込んでいます。それが「読む漫才」です。

おせつ:料理のレパートリーを増やしたいんですけどね
きょうた:料理のレパートリーね
お:いいメニューあります?
き:鍋なんてどうですか?
お:鍋ね
き:冬場はみなさんよく鍋食べますけどね
お:鍋を?
き:僕なんか年中鍋ばっかり食べてますからね
お:鍋なんて食べれます?
き:味変えればね,意外と毎日でもいけるんですよ
お:僕は鍋食べたことないんですよ。恐くて
き:何が恐いんですか
お:絶対硬いでしょ?
き:硬い?
お:鍋食べるんでしょ?
き:鍋の実ぃですよ
お:
鍋の実ぃ!?
き:鍋の中に入ってる肉とか魚とか野菜!
お:鍋ごとはいかへんの?
き:あたりまえでしょ
お:みんな「鍋食べる」言うから
き:そういう言い方するんですよ
お:僕は恐くてね,これまで鍋パーティー全部断ってきましたからね
き:「みんなで土鍋かじるパーティー」やと思ってたんですか?
お:違ったんですね
き:鍋料理のことですからね
お:鍋料理ね。おすすめがあるんですか?
き:珍しい肉を使った鍋料理があるんですよ
お:それはええね。レパートリーの幅広がって
き:ぜひ覚えてください
「珍しい肉」というのは?
き:え〜肉の名前をど忘れしてしまったんですが
:「覚えてください」言うて,自分が覚えてないやん
き:確か3文字です
お:何が?
き:肉の名前の文字数
:なんで文字数だけ覚えてんねん
き:名前が3文字の肉なんですけどね・・・
お:肉の名前ってねぇ,2文字が多いんですよ
き:牛,豚,鳥,鴨,馬,鹿,熊,ワニ。全部2文字ですからね
お:それで全部ちゃう?肉の種類
き:間違いなく3文字の肉があるんですよ
:あ〜そういうことね
き:分かった?
お:「かしわ」とかそういうことでしょ?
き:かしわ?
お:ニワトリ
き:ニワトリ?
お:ニワトリがかしわで
き:うん
お:かしわがニワトリ
き:どういうこと?
:生きてる間がニワトリ
き:え?
お:死んだら戒名がかしわ
き:戒名!?
お:「戒名」って分かります?
き:亡くなった方に付ける名前ですよねぇ
お:ニワトリもお亡くなりになられたら
き:「お亡くなりに」て
お:戒名つくんですよ
き:「戒名」ではないでしょ
お:亡くなったニワトリに付ける名前やから戒名でしょ
き:でも「かしわ」じゃないんですよ
お:ほかに3文字の肉なんてあんまないよ
き:生きてる間が3文字
お:え?
き:死んだら戒名が2文字
お:だからなんで文字数だけ覚えてんねんて
き:文字数さえ覚えておけばなんとかなりますからね
お:なってないのよ。ほんならもう先に作り方教えてくれる?
き:鍋料理の?
お:覚えてます?
き:覚えてますよ
お:教えてください
き:鉄板を火にかけて
お:鉄板!?鍋料理ちゃうやん
き:鍋やけど鉄板でやるんですよ
お:どういうシステム?
き:珍しいでしょ?
お:珍しいけど
き:鉄板で肉を焼く
お:完全に焼肉やん
き:焼肉なのに鍋料理なんですよ
お:破天荒な料理?
き:破天荒ではないです。肉を焼いて,タレをつけて食べるだけですから
お:ほぅ。それで?
き:それだけです
お:それだけ!?作り方の説明終わり!?
き:はい
お:「はい」じゃないんですよ。その説明で何を作れって言うんですか
き:ほんとこれだけなんですよ
お:あなた慣れてるからでしょ?

き:何が?
お:僕はその料理をまったく知らないのよ
き:はぁ
お:初心者やから
き:はいはい
お:1から10まで丁寧に教えてくれないとね,今のところ何をしたらいいかまったく分からないですからね
き:1から10まで?
お:最初から丁寧に教えてくださいよ
き:じゃあもうまずはテーブルに
お:テーブルに
き:新聞紙を敷いて
お:何新聞?
き:え?
お:何新聞敷いたらええの
き:何新聞でもいいんですよ
お:あなたは慣れてるから「何新聞でもいい」言うけど
き:何新聞かは関係ないから
お:
「初心者や」言うてるやん
き:自分がとってる新聞でいいんですよ
お:とってないのよ。何新聞か教えてくれたら買うてくるから
き:買わなくていいんですよ
お:「買わないとない」言うてるやろ
き:テーブルが油でベトベトにならんように敷くだけやから
お:新聞紙じゃなくてええやんそんなら
き:だから「買わなくていい」言うてるやん
お:「丁寧に説明してくれ」言うてるやん
き:それくらい分かるでしょ
お:「初心者や」言うてるでしょ
き:ほんならもう油でテーブルがベトベトにならないように敷物敷いて
お:敷物敷いて
き:鉄板に火をつける
お:はいはい
き:火のつけ方分かる?
お:そんなん誰でも分かるやろ
き:・・・・・・
お:それで?
き:火をつけたら油をこうしてジュージュージューと塗る
お:うぅっわっ
き:え?
お:ほんまに?
き:何が?
お:油を?
き:こうしてジュージュージューと塗る
お:あなたは慣れてるから手でジュージュージューと塗れるけど
き:手で!?
お:初心者は熱い鉄板に手で油塗るのは無理やと思うわ
き:手で塗るわけないでしょ
お:「こうして塗る」言うたやん
き:ボンボラさんで塗るジェスチャー!
お:「ボンボラさん」って何?
き:はけ
お:普通にはけで塗ったらええの?
き:あたりまえでしょ
お:「丁寧に教えてくれ」言うてるやん
き:だいたい分かるやん
お:「初心者や」言うてるやん
き:ボンボラさんに油をつけて
お:ボンボラさんに油をつけまして
き:油をジュージュージューと塗りますと
お:油をジュージュージューと塗りますと
き:やがて油が踊り出す
お:何っ!?
き:やがて油が踊り出す
お:そんなファンキーな油どこで売ってんの?
き:ファンキーな油!?
お:踊り出すんやろ?
き:「油がはねる」ということや
お:専門用語やめて。「初心者や」言うてるでしょ
き:専門用語ちゃうやろ
お:そんで?
き:そしたら鉄板に肉をのせて
お:肉をのせて
き:裏が焼けたら表を焼き
お:ほう
き:表が焼けたら裏を焼く
お:肉の裏表はどうやって見分けんの?
き:どっちでもいいんですよ
お:どっちでもいいわけないやろ
き:何が?
お:
裏が焼けたら表焼くんやろ?
き:そうですよ
お:
どっちが表でどっちが裏か分からんかったら,どっち先にのせたらいいか分からないでしょ
き:そんなん焼いたら一緒なんやからどっちからでもいいの。焼けたらタレをつけて食べる。これがこの料理の作り方
お:
完全に焼肉ですよ
き:だから,珍しい肉を使うんですよ
お:その肉は普通に売ってるんですか?
き:こないだ肉屋さんに買いに行きましてね
お:名前分からんまま?
き:まぁそうなんですけどね
お:よう行けたねぇあなた丸腰で。なんて注文したんですか?
き:原っぱでヒゲ生やしてメ〜メ〜鳴いてる肉ありますか?
お:なんちゅう注文の仕方してんねん
き:覚えてること言うしかないから
お:その肉の生前の鳴き声は覚えてたんや
き:「生前」て
お:ほんで原っぱでヒゲ生やしてメ〜メ〜鳴いてる肉?
き:はいはい
お:それはヤギやろ?
き:そうなんですよ
お:レパートリーは増やしたいけど,ヤギ料理はさすがに…
き:ヤギの肉ではなかったんですよ
お:違うの?
き:肉屋さんにも言われまして
お:何を?
き:「ヤギの肉はないけどこれならありますよ」と
お:ほぅ
き:僕も聞いたんですよ
お:なんて?
き:「その肉の生前の鳴き声分かりますか?」って
お:「生前」て
き:そしたら肉屋さんがね
お:鳴き声教えてくれた?
き:ひ〜つじ!ひ〜つじ!
:羊
き:思い出した!
お:「ひ〜つじ!ひ〜つじ!」はいとこい師匠が言うてるだけですけどね
き:いとこい師匠が漫才でよう言うてはったなぁ
お:実際には「ひ〜つじ!ひ〜つじ!」とは鳴かないと思いますけど
き:生きてる間が羊ですよ
お:死んだら戒名が
:ラ
き:「ジンギスカン鍋」という料理ですね
お:鍋料理なんですかね?一応
き:「ジンギスカン鍋」をレパートリーに加えたらいいじゃないですか
お:夕べ作った

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藤澤俊輔 (漫才作家/小噺作家)
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】