アラム語聖歌の魅力

 僕は図書館でアラム語の聖歌が吹き込まれているCDを借りた。聴いてみると、とても心地よい。教会でよく唱えられる「主の祈り」がアラム語で歌われている。グレゴリアンチャントも魅力的だが、個人的な音楽体験としてはアラム語聖歌に軍配が上がる。

 アラム語とはイエス・キリストがしゃべっていた言語である。「タリタ、クム」「少女よ、わたしはあなたに言う、起きなさい」(マルコの福音書第5章41節)や「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」(マタイの福音書第27章46節)とアラム語で聖書なかでしゃべったことで有名である。ギリシア語にするとΤαλιθα κουμ/κούμι(Talitha kum/kumi)や Ελι ελι λεμα σαβαχθανι(Eli Eli lema sabachthani)となる。

 もともとアラム語は今のシリアを中心としてその周辺(レバノン、ヨルダン、トルコ、イラク)に住むアラム人の言語だった。しかし現代アラム語の立場は厳しい。現代のアラム語を話す住民の居住地として、シリアの首都ダマスカス周辺の村々が知られていたが、2011年に発生したシリア内戦を契機にアラム語を話す住民が離散。言葉を引き継ぐ世代交代が難しくなっていることに加え、シリア国内にいるアラム語の専門家の数も減り続けており、近い将来、シリア国内からは消えてしまう可能性がある。

 イエス・キリストがしゃべっているアラム語は「西方アラム語」であり、かつてアラビアのナバテア人、パルミラ人、サマリア人、パレスチナのキリスト教徒やアラム人ユダヤ教徒によって話された。イエスは西方アラム語の方言をおもに話したと言われる。現在は、シリアのマアルーラ (Ma'loula) 村など三つの村で話される現代西方アラム語を除いてまったく消滅している。

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