第2話 こうして私は、タバコ部屋からデザイナーズハウスへ引っ越すことを決めた
40代にもなって、タバコ部屋のような汚い18㎡のワンルームに住んでいた。壁はヤニだらけ、部屋はゴミだらけ、帰ったら寝るだけ。文字にすると完全に終わっている。
私はそのスペースを「寝るだけの家」と割り切って、8年も住んでいた。はっきり言って満足だった。なぜなら都心の超一等地だから。
21世紀にもなって、終電を気にするのは人類として間違っている…そんな想いを常々感じていたので、都会に住むことだけにプライオリティを置いてきた。
そんななか、2020年に世界中を襲ったコロナウィルス。外出を控えざるを得なくなり、自宅で仕事をし、終われば同じデスクでゲーム三昧の日々。外を歩いてもお気に入りの原宿のアパレル店舗は次々と空きテナントになっていき、寂しい気持ちになった。
おのずと家のなかに目が行くようになってしまった。いままでシャワーを5秒だけ浴びてすぐ出ていたゆえに気づかなかったのだが、浴槽がカビだらけ。タバコを吸いまくっていたから白い壁は黄ばんでいた。黄色すぎてポップアートの類いなのかと思った。薄汚れた天井をぼーっと眺めていて思った。
私の人生、こんなんでいいのだろうか。
パートナーは別の場所で一人暮らしをしていた。一緒に住めば超絶節約できてなおかつ広い場所に住めるはずだ。なぜ今まで思いつかなかったのだろうか。たぶん、このライフスタイルにそれなりに満足していたからだろう。
ていうか、都心に住む意味ってある?
原宿にあるショップがみるみるうちに消えて行く。それまで100%依存していた外食もあまりしなくなった。ライフスタイルを変えなければ。
仕事柄、部屋に雑誌やマンガが多すぎるというのも引っ越しが面倒だと思う理由のひとつだった。だからこんなゴミ箱みたいな部屋に長い年月とどまっていたのだろう。思い切って引っ越しさえすれば人生が変わるはずだ。
さっそくパートナーに「一緒に住めば安い出費で広い部屋に住めるよね」と話を持ちかけた。遅すぎた小さな第一歩であった。
おまる