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第六十四話:恋を禁じてたから、わからない

 フィレンツォの可哀想なものを見るような目で意味深な事を言われた後、寝付けないが根性で眠り、翌日を睡眠不足で迎えずに済んだ。

 食事も取り、ちょっとトラブルがあってちゃんと最後まで入れなかった講義と、まだ受けていない講義も受けて今日の講義はとりあえずこれでお終い。
 という流れで屋敷へ戻る途中の私達の前に、アルバートとカルミネが姿を見せた。
「ダンテ殿下昨日は助けてくださり有難うございます、そして申し訳ございません」
「私の家の不始末に巻き込んでしまい、何と謝罪したらよいものか……」
 謝罪する二人に、私は戸惑う。

――いや、その、これは二人は悪いとは思わないし……――

「謝らないでください、お二人は悪くない――」
「アルバート様、カルミネ様。カリーナ陛下からお話は既にお話は聞いております。何故、今日来たのですか?」
 私の言葉を遮ってフィレンツォが言った。

――へ?――

 その言葉に耳を疑う。
「ちょっと待ってください、フィレンツォ。どういうことです」
「はい、あえてお話いたしませんでした。もし聞いていたらダンテ様は今日この後の時間を全てお二人に割くでしょう、ですので明後日来てくださいと私はお二人にお頼みしたはずですが――」
 フィレンツォの眼光が鋭い、圧が強い。
「何故、来たのですか? 私はダンテ殿下はお忙しいとお伝えしたはずですが?」
 声がかなり怒気を纏っている。
 傍にいるエリアとクレメンテが明らかに怯えて、私の腕を掴んでいる。
 ブリジッタさんはクレメンテの事を落ち着かせようとしているけども、あまり効果がないようだ。

――ちょ、これどうすれば?――

 と悩み問いかけるが、神様からのお返事はない。

――え、ええ?!――

 どういう事か分からない。
 何故何も言わない、言ってくれないのだろうか?

――余計なことを言うなとでも??――

 ぐるぐると悩んでいる間に話は進んでいた。
 そして、疲労が残っていたらしい私は悩み続けて――

 ぐらりと視界がぶれるのを最後に後頭部に激しい痛みを感じた。

『――正解だ、下手に黙るという手段は悪手だ。口を出すのも不味い。ならば悩んでいるお前こそが正解だ、故に黙っていた』

 その直後、神様の無慈悲な言葉が聞こえ、文句を言う事もできないまま私の意識は途切れた。

 目が覚めると自室のベッドの上にいた。
 後頭部がまだ少し痛むが、鎮痛術が付与されている冷却枕のおかげで少し楽だった。
「「ダンテ殿下??」」
 私の顔を覗き込む二人の人物――クレメンテとエリアだ。
 不安そうな顔をしている。
「……すみません、二人とも……あの、何があったのでしょうか?」
「えっと……その……」
「それは……」
 私の問いかけに、二人は答えにくそうな表情を浮かべる。

――んー……これは――

 少しして扉が開き、聞きなれた足音が聞こえた。
 私は体を起こそうとする。
「ダンテ殿下、どうか今は無理をせずに」
 フィレンツォが素早くベッドに駆け寄り、私を軽くおさえる。
「……フィレンツォ……すみません、頭が混乱してて話も聞けていなかった上倒れてしまって……」
「いえ、ダンテ殿下に非はありません。どうかお気になさらずに」
 フィレンツォは本当に心配そうな顔をして私を見ている。
「……フィレンツォ、何があったのか分からないのですが、どうかあのお二人を責めないでください」
 私がそう答えると、フィレンツォは少しだけ表情を変えた。
 ほんの少し、だけ悲しみの色に染まった。
「――クレメンテ殿下、エリア様申し訳ございません、ダンテ殿下と話さなければならないことがあります故……」
「わ、わかりました……」
 エリアは言われるままに、すぐさま部屋を出ていった。
「……それは私達がいると話しづらいことですか?」
「はい」
「分かりました、それならば」
 クレメンテも部屋から出ていった。

 扉が閉まり、二人きりだけの空間になる。

「ダンテ様」
 フィレンツォの顔が酷く痛々しい。
 なんでそんな辛そうな顔をするのか理由が分からない。
「エドガルド様との事もあり、良くなったと思っておりましたが……やはり、こうなってしまうのですね」
「……どういう事だ?」
「――ダンテ様は、大切だと思われた方や気になる方との事となると自分の身を顧みず、無理をなさる傾向にあります。それをその方々が言うまで無自覚で行うのです……ダンテ様は無理をしていないと言ってますが、それでも無理はしているのです」
「……」
「今の状態がその証拠です」
 フィレンツォの言葉は理解はできたし、何となく納得はできた。

 前世ではそこまで大切な知り合いはできなかった。
 体を壊す程の無理をするような大切な存在はいなかった。
 仕事で体をボロボロだったから、SNS上の強いようで希薄な繋がりしかなかったから。

 だからそんな事考えもしなかった。

 でも今、これまでの自分の行動を振り返ってみたらそんな要素はいくらでもあった。
 幼少時からエドガルドとの事の為に必死に勉強をしてきた。
 エドガルドの件でも必死になってアプローチを続けた。
 あの未遂の後、エドガルドの為に薬を作り、そして寄り添った。

 エドガルドがある意味健康になって、そして初めて自分が無茶をしているのを理解した。

 フィレンツォに言われても、ピンとこなかった。
 でも、エドガルドに言われて漸く理解して、止めに母さんの言葉があった。

 フィレンツォは何となく過保護すぎるような気がして、彼の言葉をそのまま受け止められなかった。
 エドガルドは大切だから受け止められた。
 母さんは普段見守る事が多いからこそ、その言葉を発する重みが強かった。

――でも、どうやって治せばいいんだろう?――

 エドガルドの時に「断る」事を漸く覚えたのだ。
 もっと治しにくそうなこのことをどうやって治せばいいのか、分からない。

――性格の改善なんてかなり難しい事なのだから――

「ダンテ様……貴方は自分の事を疎かにしすぎています、生き急いでいるようにも見えます」
 フィレンツォが私の手を握る。

「ダンテ様。どうか御身を大切にしてください。でなければ、貴方様は貴方様の大切な方々を傷つけることになりかねません」

 大切な人と言われても、今エドガルドは傍にいない。
 確かにエドガルドに今の状態を見られたら叱られるだけではすまないだろう。

 でも――

 私は前世ではそういう性的な欲求、感情が一般的な人と異なる趣向なのが分かってしまったから、リアルで恋等をするのは止めた。
 創作物で、それを解消していた。

 創作物で書いた物は自分の創作物で書きたいものであり、現実の欲求はまた違うと嘯いた。

 嘘を塗りたくって生きてきた。
 我慢をして比較普通のフリをした。

 だから、相手を大切に、愛しいと思うけれども。

 相手が自分を愛しいと、大切だと思ってくれているのか、上手く理解できないのだ。
 エドガルドはあそこ迄思い詰めてたからわかったけど――

 他は?




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