![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/110525170/rectangle_large_type_2_93e16336166cbb69f95e80dc0d00fe6e.png?width=1200)
第六十五話:「前世」からだって言えるわけがない!!(そういうお前だから言えないfrom神様)
相手が自分を「特別」だと思ってくれるのを、他の人はどうやって知るのだろう。
私には分からない。
創作物を書いていた、恋愛物も書けるけれども。
よく、分からないのだ。
――どうやって、相手の「特別な存在」が自分であると理解するのだろう?――
「……フィレンツォ」
「何でしょうかダンテ様」
「どうやって自分が立場とか関係なく相手にとって『特別な存在』だと言う事に、他の方達は気づくのだ?」
「……ダンテ様」
「……父上と母上にとって私は大切な『子ども』の一人、兄上にとっては大切な『弟』で、お前にとっては長年仕えている『問題ばっかり抱え込む主』だ。でも、他の方から見たら私は『愛想のよいインヴェルノ王国の次期国王』とかそういう類だろう?」
私の問いかけに、フィレンツォは酷く重い表情をしている。
「……確かにエリアにとっては私は『あの環境から救い出してくれた恩人』ではある、だがそれ以上は分からない。クレメンテ殿下も『自分を差別せず、味方になってくれる存在』という事以外分からない。アルバートさんや、カルミネさんが何故私に興味を抱くのか私は分からない……あの馬鹿男はまぁ、自尊心の高さから私に対抗心を燃やしてるのは分かるけど」
正直、神様に順調にフラグが立ってると言われても自分にはさっぱり分からない。
フィレンツォは重い表情から、何か別の……まるで自分の事を責めるような表情をしていた。
「……フィレンツォ?」
「申し訳ございません、ダンテ様。やはり私が過保護になってダンテ様に下心を抱く輩を排斥し続けたばかりにダンテ様をそう言った感情や事柄に、鈍くさせていたのですね……!!」
――はぁ?!――
――いやいやいや!!――
――コレ、元から、前世から!!――
――って言えるか、ちくしょう!!――
フィレンツォの発言に私は心の中で頭を抱える。
どうやらフィレンツォは、自分の「過保護」が原因で私が色恋沙汰……というかそう言う感情を受け取る感覚が鈍くなっていると思っているようだった。
――あ゛ー!!――
――くそ、どうやって言えばいい?!――
『面倒だからそれで通せ』
――は?!――
――それじゃフィレンツォが可哀そうじゃないか!!――
『正確には、生まれつきのもあったがフィレンツォの「過保護」でより鈍くなった、で通せ。以上』
神様の声が聞こえたと思ったら、何て残酷な発言。
――ちくしょう、神様って本当冷たいなもう!!――
『いいから早く対応しろ』
――もう!!――
神様とのやり取りを終えて「戻って」来ると、私はうつむくフィレンツォの方を見る。
「えっとその……も、元から……人の悪意とかに敏感だった分……その、そういう……好意? とかそう言った類のに……鈍かった気がするから……まぁ、その……うん、フィレンツォのは多分、駄目押し程度だから……気にするな」
こんなのでいいのかと思いながら言葉を口にする。
「し、しかし……あまりにもダンテ様はその……鈍すぎるのです……」
「……この学院での生活中に、少しは……良くしたいなぁ……」
私は苦笑いを浮かべるしかできなかった。
フィレンツォは食事を持ってくると言って部屋を出ていった。
しばらくの間一人か、と思いながらベッドに横になったまま天井を見る。
「……」
――確かに「彼ら」を幸せにしたいけど、私は彼らから愛されているかどうかなんて、分からない――
――エドガルドは分かっているけど、他はまだだもの――
少し恋愛の一つもロクに前世でしてこなかった自分の判断を恨めしく思う。
うだうだと前世の事と今の事で悩んでいると、ノックする音の後に、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。
でも、それらはフィレンツォの音(もの)ではない
「あの、ダンテ、殿下……」
「そのお話をしても、宜しいでしょうか……」
クレメンテとエリアだった。
「ええ勿論……」
そう答えて私が体を起こそうとすると、慌てて二人は扉を閉めて駆け寄り、私の肩を抑えて寝かせていようとする。
「ふぃ、フィレンツォ様から、だ、ダンテ殿下とおはなし、し、しても良いけれども、そ、その体を起こさせない様に、と、い、言われましたので……」
「……」
「ダンテ殿下、気絶するような衝撃を頭に受けたのですから無理をしないでください……幸い頭部に小さなたんこぶができた程度ですが……それでもです」
――あ、たんこぶできてたの――
と、今更ながら自分の状態を理解する。
「成程、だから後頭部が……」
「はい、ですから……そのままで……」
そう言われたら従うしかない。
「分かりました、すみませんこのような体勢で」
「い、いえ……むしろ、僕たちが……その……」
口ごもるエリアを見て、クレメンテはふぅと息を吐いて私を見た。
「エリアとも話をしました、ダンテ殿下――いえ、ダンテ。エリアがいる時も私の事は呼び捨てで呼んでください。そしてお願いがあります、エリアが貴方の事を名前だけで呼んでも良いでしょうか?」
クレメンテの言葉に目を少しだけ丸くする。
――私が居ない間に一体何が?――
「私は別に、構いませんよ? ダンテ殿下と呼ばれると少し距離を感じますので……」
「有難うございます。エリア、私が言った通りでしょう? ならば約束を守ってください」
そう言ってクレメンテはおどおどとするエリアを見た。
「待ってください、何を約束したのですか?」
思わずたずねてしまった。
「大したことではありません、もし貴方がエリアにも名前だけで呼んでいいと言ったならば、私の事も名前だけで呼ぶようにと」
――一体何あったんだこの二人?――
クレメンテの言葉にそう思ってしまう。
「あの……何故ですか?」
「その……対等で、ありたいからです。貴方と共に過ごす仲間として、身分に縛られたくないのです」
「そうですか……」
若干引っかかるが、多分深く尋ねると色々拗れそうな気がする。
『その通り、正解だ。それでいい』
神様からの言葉に頭痛がしたが、私はふぅと息を吐いた。
「エリア、大丈夫ですか?」
「……だ、だい、じょうぶ、です……ダンテ……様」
「エリア」
名前だけで呼べないエリアに対し、クレメンテが釘をさすように言う。
「クレメンテ、あまり無理をさせてはいけません。人は急に変わることなどできないのですから」
「ですが、約束は約束なのです。守ってもらいたい」
クレメンテはきっぱりと口にした。
――あーこれはちょっと不味いな――
――さて……うん身分的なものとエリアの性格を出すか――
『それでいい』
悩んでいると、神様からのいつものお言葉。
というわけで私はクレメンテの方を見て困った顔をする。
「確かに身分に縛られたくないという気持ちは分からなくありませんが、エリアは伯爵家の子息、私達は王族。それに、エリアの事はお聞きしていると思います。いきなり呼び捨ては難しいでしょう、彼の性格から」
「それは……そうですが……」
――あと一押しかな?――
「時間はまだあるのです、学生生活は四年。そしてまだ始まったばかり。急ぐ必要はありません、ゆっくりと立場などを気にせず話し合えるようにしていけばよいと、私は思うのです」
「「……」」
私の言葉に二人が沈黙する。
何となくやらかした感がある。
――あれ?――
『あーやらかしたというか、まぁお前だからそうなるわなって奴だ。今は気にするな』
神様からの何処か不穏な感じのする言葉。
――一体何が「私だからそうなる」なのだろうか?――
私にはさっぱりだ。