第九十七話:甘やかしたがる皆
とある日、エドガルドが薬の件でしょげていたので慰めたら、若干搾り取られまくったと言っても過言ではないので、エドガルドとの行為の翌日、私はちょっとげそりとしていた。
エドガルドはつやつやとしていて元気だった。
――漫画とかでよくある、受けがつやつやしてるのってこういう事か……――
と、黄昏る。
『まぁ、お前との性行為の場合お前との証持ち――伴侶と比翼副王はお前の体液をエネルギーとして吸収できるからな、そりゃそうなるわ』
――マジですか――
『マジだ』
神様からのとんでも発言に脳内で明後日の方角を見る。
「ダンテ様、ちゃんと食べてくださいね」
誰かと性行為をした翌日はめっちゃエドガルドに食わされる理由が分かった気がした。
もぐもぐとパンをほおばりながら甘く冷やされたミルク入りの紅葉茶を流し込む。
「ダンテ様、お行儀が……まぁ、今はいいですか」
フィレンツォが小言を言おうとしたが、止めた。
ぶっちゃけ食べてないと体が持たないので、お行儀が多少悪くても今は見逃してくれるのだ。
朝食を取り終え、ようやく活力を取り戻し、ソファーに座る。
「さて、今日は何をしようか……」
回復したとはいえ、性行為をした翌日はゆっくりすると今は決めている。
あの施設に言って、前世のゲームを遊びつくすのも構わないけども今はそんな気分ではないので悩んでいた。
「ダンテ様」
「どうしたんだい、フィレンツォ」
「今日はできれば屋敷に居てください」
「? 外出をしないでほしいということかい?」
「はい」
「……何があったのか説明を頼む」
「かしこまりました」
フィレンツォは理由を語り始めた――
「……」
再び頭痛が痛いと言いたくなる案件だった。
話を要約すると、厄介な相手に目をつけられた。
相手の名前はフルヴィオ・アコーニト。アウトゥンノ王国のアコーニト伯爵の次男。
自分の美貌を疑わず――まぁ実際美青年なのだが、そんな自分がダンテ殿下に選ばれないなんておかしい、あり得てはならない。
みすぼらしい輩が選ばれているのに、私が選ばれないなんて。
私なら他の誰よりもダンテ殿下に愛されるに自信がある。
他の連中など不要だ。
――と、エリアを脅してきたのでフィレンツォが対応。
エリアのあまりの怯えように、フィレンツォの父性が爆発。
徹底的に口撃して、追い払ったが、あの様子じゃ諦めないだろうと。
なので、可能ならしばらく外出は控えるか、全員で外出して絶対一人になる状態を作らないでほしいと。
そういう事だった。
「……面倒くさいなぁ」
「全く持ってその通りです」
「だって、彼私の身分しか目が行ってないだろう話聞く限り。私を愛している皆を一緒にしてほしくないな、彼らの場合は私の身分はおまけだよ」
「左様ですね。エドガルド様に至っては、身分や立場が枷でしたからね」
「本当それ」
私ははぁと息を吐く。
『フィレンツォの言う通りにしておけ、どっちにしろ奴はお前に接触を図るが、その時にちゃんと対応しろ、そして奴は敵だ』
――敵?――
『今は気にしなくていいが、それは覚えておけ』
神様の言葉が気になったが、今は頭の隅に置いておくだけにした。
「ところでエリアは?」
「お部屋におられます。怖くてしばらく外に出れないと泣いてまして……」
「よし、休憩は止めだ、エリアを慰める」
「それが良いかと」
「ところでどうしてそれを昨日言ってくれなかったんだ?」
私は咎める様にフィレンツォに問いかける。
「エリア様が、エドガルド様とダンテ様のお時間の邪魔をしたくないと」
「なるほど……分かった。でも今後はそのような事があったらすぐに言ってくれ」
「かしこまりました」
私は居間を後にして、エリアの部屋に向かう。
「エリア、いますか?」
ノックして問いかけても返事がない。
「エリア?」
ノックをするが返事がない。
私が慌てて部屋を開けると――
「全く、酷い輩がいたものだ」
「エリア、言い返せとは言わないが魔法を一発ぶち込むくらいしても良かったと私は思うぞ」
「それはもっと難易度が高いんじゃ……」
「すまない、気を使わせてしまって」
エドガルド達が、エリアを慰めていた。
「……あの、ノック音に気付いてくれませんか?」
「だ、ダンテ様!」
「ああ、すまないダンテ、昨日はまぁその……だったからお前は休ませたくてな」
エドガルドの発言に首を振る。
「お気になさらず。寧ろ私の大切な伴侶の一人を貶す様な輩は許すことができません」
エリアに近づき、髪を撫でる。
「怖かったでしょう……しばらく買い物の類はフィレンツォ一人に任せた方がいいでしょうね……何があるか分からないですから。もしくは全員で買い物を、その二択ですね」
「フィレンツォさんが何かあるとかは?」
「……アルバートはフィレンツォが本気で怒った時を見たことがないんですもんね……」
私は明後日の方角を見る。
忘れもしない、私がまだ幼い頃、別の国の貴族私を次期国王などと思いもせずに、いたずら……うん、ペドだったその野郎は私に手を出そうとして――フィレンツォの怒りを買った。
正直思い出したくない程の恐ろしい光景だった。
ちょっと漏らしてギャン泣きしてフィレンツォに土下座で謝られたのは忘れられない。
あのペド野郎、金色目に褐色肌のインヴェルノ王国の人物っていったら王様か次期国王って知らんかったらしい、アホすぎる。
「……本気で怒ったフィレンツォは……恐ろしいですよ、ええ色んな意味で……」
遠い目をする私の表情で何かを悟ったのか、皆が口を閉ざした。
「ふぃ、フィレンツォさんすごい、僕に優しかったですけど……すごい怖かったです……」
「でしょうね……」
エリアを抱きしめて背中をさする。
「……アレより怖いのか?」
「あー……多分そうですね。アルバートとカルミネへの印象があまり良くなかった時より比べ物にならない位怖いですよ……色んな意味で」
私はそう返すしかなかった。
ガチで切れたフィレンツォは正直思い出すのも恐ろしいレベルで、怖いのだ。
「……この話はやめにしましょう!! みんなでエリアの事を可愛がりましょうか」
「あ、それ賛成ですね」
「できれば私も甘やかされたい」
「なんだクレメンテ、そんなに甘やかしてほしいなら俺が甘やかすぞ」
「ダンテに甘やかされたいんです」
「分かってる」
冗談を言い合えるほどに、仲が良いのは有難い。
私が見ていない所で色々あっただろうに、それでも仲良くなったのは良いことだと思う。
最終的に五人と私が互いに甘やかし、甘やかされという形で収まり、その日は穏やかに過ごすことができた。
できれば、こういう日だけがいいなぁとは思うが、そうはいかないのだろうなという予感がして嫌な気分になったが。