第百一話:あっという間に時はすぎ二年目~最初から不穏~
無理に動いて「だったら私達を愛せ!」と言われて、全員と「愛し合う」のが終わり、そして私はフィレンツォにフルヴィオの事を共有した。
フィレンツォも独自で調査していたらしく、かなりきな臭いとのことだった。
ただ、こちらから派手な動きはできないので、向こうの出方を待つしかないとの事だった。
――歯がゆいなぁ――
『耐えるのも時には必要だ』
――ぐむぅ――
神様に言われたなら仕方ない。
とりあえず無理のない範囲で、今できる事をしようと決めた。
――……無理したらまた皆に叱られるしね?――
連休後、学祭の準備が始まり、三学院共同の学祭があって楽しかった。
めちゃくそ忙しかったけど。
下心で近づいてくる輩を追い払ったり、ロザリアさんと知り合いの女性のカップルとお茶をしたり、そのカップルの幼馴染の男女のカップルと、男性のカップル、女性のカップルともお茶したりと楽しかったが――
下心で近づいてくる奴らはうざい!!
その一言に尽きた。
なので、学祭が終わった日の翌日休日な事もありベッドで寝込んだ。
男性不信女性不信、ヒト不信になりそうなレベルだったが、エリアや、エドガルド、クレメンテ、アルバート、カルミネ、フィレンツォ、ブリジッタさんのおかげもあってそうならずに済んだ。
――これ薬無くても病むわ――
そう思った。
エドガルドはこれに薬を盛られて精神を病ませていたのもあるので、多分学祭は地獄だったのではないかと思った。
「エドガルド……」
「どうした、ダンテ。休んでいないと……」
「薬の所為で精神を余計に病んでいた貴方には学祭は恐ろしい場所だったでしょう……」
思わず言ってしまった。
「……ああ、恐ろしい場所だった。友人もいなかったしな……だから今安心しているのだ」
「安心?」
額を覆っている冷却タオルを取ってたずねる。
「お前がその恐ろしい場所で一人苦しまずにすんだことが」
「……エドガルド……貴方は優しすぎますよ」
「お前が言うかダンテ」
エドガルドにデコピンされて、悶絶すると慌てふためかれた。
ちょっとオーバーリアクションすぎたと反省。
学祭でそういうのがあってからフィレンツォの警戒――ガルガルモードが悪化した。
私に下心で近づいてきた奴には容赦なく追い払い、そうでなかった人も警戒を中々緩めようとしないのが大変だった。
そこの所を、エドガルドとカルミネがうまーくやってくれたので何とかなったけど。
皆を幸せにするハーレムから、なんか私がどうにか生きていくためのハーレムになってる気がしないでもないけれども。
『まぁ、そこら辺は気にするな』
――いや気にする――
『実際、お前と一緒で彼らは幸せなのだからいいだろう? 頼られているのも嬉しいようだし』
――うぐー……――
『というか、頼るのが大事だ。いいな』
――あい……――
幸せにしたいのに、頼るという個人的に矛盾を感じる行為。
『守り、守られ、頼り、頼られ、依存と愛は別物だぞ』
――それ位分かってますけど……――
神様のお説教のような言葉は続く。
『お前が不安になるのは分かるが、それで不安を一人で抱え込もうとすることがまず悪手だ』
――といいましてもねぇ……まだ翻訳魔術どう作ろうか悩んでるんですよ――
『あれか、元にするものを連想してからやると簡単だぞ』
――何をですか?――
『翻訳サイト、アレの上位互換で考えてみろ』
――はははそんなんでできるわけが――
できました。
ええ、翻訳魔術が完成しました。
どうしよう、あんだけ悩んでいた物がこんなにあっさり解決すると中々言い出しにくいので、皆に内緒にしつつ本を読んでいくことに決めました。
そんなこんなであっという間に時が過ぎ――
私達は二年生になった。
二年生になった日、街中の喫茶店で私達は談笑を楽しんでいた。
「無事二年になれ、ました……!」
「エリア、単位獲得数が最終的に考慮されるのは四年生の時ですよ」
「あううう……」
クレメンテが釘をさすように言うと、エリアはしょんぼりとする。
「大丈夫ですよ、フィレンツォに確認した所全員このままいけば問題ないと」
「それなら、良かったです……」
私はエリアの手を握りながら言うと、エリアは安心したような顔をした。
「エリアは頑張ってるよな本当に」
「ああ、その通りだな。試験でたまに爆発したりやらかすお前と違って」
「うぐ」
元主従とはいえ、幼馴染関係のアルバートとカルミネが軽く会話をしているが、わりとアルバートが心配なのは事実である。
本番で失敗してしまう可能性があるから結構フォローも大変らしい。
一方私は――
「それにしても視線が痛い……」
背後から感じる、ちょうど同じく婚約者といるベネデットの嫉妬と対抗心丸出しの視線が刺さるようで痛い。
一年時のトップ成績保持者が私なので、向こうからすれば目の上のたんこぶなのだろう。
――あ、ロザリアさんに叩かれて叱られてる――
――ざまぁ!!――
そう思いながらお茶を飲む。
「フィレンツォ、お茶のお替りとか頼んできてくれるかい?」
「畏まりました」
フィレンツォにそうお願いすると同時に、嫌な気配を感じて身構える。
「ダンテ殿下!!」
いつぞやの金髪碧眼の青年――フルヴィオ・アコーニトが私の目の前に現れた。
周囲には――どこか人形のような笑みを浮かべた、ロザリアさんのご友人たちがいる。
背筋がぞわりとした。
「どうか私も婚約者にしてください、ダンテ殿下!! 貴方様の事が忘れられないのです!!」
「ダンテ殿下、フルヴィオ様のお心分からないのですか?」
声の抑揚で一瞬で気づき、店から出てきたフィレンツォに視線を向けて合わせて頷く。
「ほほう、そうですか」
フィレンツォがフルヴィオの背後に立つと同時に私は、ソイツの首を掴んだ。
「なっ?!?!」
「雷撃よ!!」
「ぎゃああああああああ!!!!」
フルヴィオが悲鳴を上げると、一斉に「操られている」彼らが私に襲い掛かってきた。
「解呪!!」
声を上げて、彼らを操る術を解除すると一斉に地面に倒れこんだ。
「フィレンツォ!! 治安維持所の方々に連絡は?!」
「済ませてあります、もう少しで到着します」
「アメリア?! ベルタ?! 皆どうしたのですか?!」
「どうやら操られているようです、今その操術を解除しましたが、中身がない――」
「中身が、ないだと!?」
狼狽えるロザリアさんを抱きしめながら、ベネデットが困惑の声を上げる。
「……相当不味い何かが裏で動いてますね、これ……」
『想定よりも早いが、仕方あるまい――』
神様の声が聞こえた。
『――さぁ、ダンテ。彼らを救って見せろ』
――分かっていますとも――
私は決意を込めて答えた。