登場キャラとそれを演じる俳優陣から見る「地面師たち」の面白さについて
ネットフリックス制作のドラマ「地面師たち」が面白い!!!!!
と今さら私が取り立てて騒がなくても、話題作なのでみなさんすでに十分ご存じのことかとは思いますが、今日は改めて「地面師たち」のどこが面白いかをまとめて行きたいと思います。
こないだの雑談配信↓でも散々喋ったのにまだ語り足らないよ…。もうしばしお付き合いください。
極力ストーリーに関する致命的なネタバレはないようにしたいと思いますがもうこの時点で「気になってるから見ようかな…」の人は何も聞かずに急いでネトフリで見てからここに戻ってきて!!!!約1時間×7話で見終わる!!
各キャラクターとそのキャスティングが良すぎる
「地面師たち」の良いところを一つだけ挙げて!!!と言ったら「キャラクターとそのキャスティングが良すぎる!!」これかなと思います。
全員の配役に納得感がありすぎる!!!!
全員「「ほんとにいそう」」感がすごい!!
純粋に物語のためにキャスティングされてるのがわかるし、人物に説得力があるからこそその人物たちが動くことで作り上げられる物語にも説得力が生まれるし、演者の持つパワーを如何なく発揮されてるのが「地面師たち」の面白さに繋がってるなと感じました。
せっかくなので細かく語って行きたい
地面師サイド
もうこの座組でそのまま本当に人をだませてしまいそうなぐらい全員説得力とダーティさがすごい(※全力で褒めています)
綾野剛/辻本 拓海
本作の主役。
20代後半ぐらいに溌溂とした感じに見える瞬間もあれば50代ぐらいに老け込んで見える時もあり、絶望の淵に立っている表情も無垢で自信なさげの表情も人を脅して凄む表情もできる演技の幅広さが、劇中での交渉役や潜入スパイとしての演技においても如何なく発揮されている!
本物の地面師も最も求められるところは頭の良さと共に演技力なんだろうな…ということに思いを馳せてしまう役どころでした。
豊川悦司/ハリソン 山中
本作のもう一人の主役。
とはいえ本作は基本辻本視点で進行するので辻本ほどの出番はなく、なんなら他にもハリソン山中よりセリフが多いキャラクターはいるかも…?だけど本作の主役といったらハリソン山中の名前は絶対外せない、なぜかといったらその圧倒的インパクト。
最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかさせていただきます。
というセリフを初め、ハリソン山中の一挙手一投足…というかハリソン山中そのものがネットミーム化して久しいけど、なぜそうなったかといえばハリソン山中の一挙手一投足のインパクトがすごいからということに尽きると思う。
原作小説を読んで「ハリソン山中は誰が演じるべきか?」でトヨエツが最初に浮かんでくるのは納得だし、ドラマ版ではさらに脚本やセリフがトヨエツにアジャストされている感じがした。(「最もフィジカルで~」のセリフも原作にはなかったはず)
本作で最も代わりがいない、「地面師たち」という作品のアイデンティティを司ってる役どころでした。
ピエール瀧/後藤 義雄
後藤は始終うさんくさくてゲスなおもろキャラって感じなのに自分的なここぞのタイミングでバリッっと恫喝して相手を黙らせるところのヤクザみがすごい
後藤はものすごく頭がいいタイプかというとおそらくそうではなく(もちろん""法律屋""になれるぐらいに知識量は豊富だと思うんだけど)、どちらかというとその場の感覚で嘘をついたり恫喝したりしてる人っぽい。でもそのスキルが高いから詐欺師として成り立ってしまってる…という後藤の"感じ"を具体的な言葉では一切説明せずとも、視聴者に自然と感じ取らせてしまえるところが本作の作劇・演出そしてピエール瀧さんのすごいところ。
人当たりのよさ+感覚的かつ効果的な恫喝の上手さで仕事して、あまつさえそれを「仕事が出来る」という評価に繋げてしまってる人って別に詐欺師やヤクザに限らずとも普通の会社とかにもぜんぜんいるよな……。
こういう人をカタギの社会に留まらせるかヤクザにさせるかの分かれ道ってどこにあるんだろうなとか考えてしまう。
ハリソン山中と真逆の方向性でゴリゴリにキャラが立ってる人。
小池栄子/稲葉 麗子
今作の地面師メイン集団の中で唯一の女性!でも隷属してる感じじゃなく対等に渡り合ってる感じがしっかり出せてるとこに小池栄子さんがキャスティングされた意図やその良さを感じる…。
なんか、いいよね10代20代の現役グラビアアイドルには絶対できないような役どころをかつてグラビアアイドルとして一世を風靡した小池栄子さんがやるっていうのが。人生の含蓄がある人が演じて初めて説得力を持てる役どころ。人生賛歌だ。
終盤の〇〇姿(ネタバレ防止!)の小池さんがまたびっくりするほど超絶に美しく、というかなんならさらにその容貌の美しさを際立たせていて、美しい人はどんな姿になっても美しいのだな…とため息をついた。
あの姿、あまりに美しすぎてもはや本来求められている役どころからちょっとかなり浮いてしまっているようなふしもあり、そのおもろさも含めてよかったな…。
北村一輝/竹下
薬物中毒者の演技が上手すぎてもし私が警察だったら「地面師たち」を見た後北村一輝さんを捜査してしまっていたね、警察じゃなくてよかった!!!(そもそも本物の薬物中毒者がどんななのかを知らないのに…)
ほかの地面師達に比べると出番は少なめなんだけど、後半の物語の展開のキーを握るめちゃくちゃイイ役どころ
アントニー/オロチ
劇中では20代前半ぐらいかな?と思わせるような無垢な下っ端チンピラ感だったけど実際のアントニーさんは34歳とのこと…!!
でも圧倒的に「ほんとに居そう」だし、ちょい役かのように見えて重要な場面で頻出しまくるとこも良かった
染谷将太/長井
廃ビルで暮らす猫好きでゲーマーのハッカー
この設定を聞くだけで「染谷将太の使い方が上手すぎる!!!!」ということがお分かりかと思いますが、そうなんです(誰?)
ダーティな環境に身を置きつつ無垢なとこもある青年の雰囲気を醸すのが上手すぎる~~
染谷さん、私の中でヒミズの時のイメージがいまだにかなり強かったので、本作を見て「目が死んでない青年の演技もできるんだ…」という新鮮な驚きも感じました。
長井に関しては原作小説の方が掘り下げがあるので、長井に興味がある人はぜひ原作も読んでみてほし~。
五頭岳夫/佐々木 丈雄
地主のなりすまし役として地面師たちから起用された一般人の佐々木さん という役どころ。
マ、マジで一般のお年寄りを起用したのか…!?というぐらいのリアルの「市井の人」感がすごくてすごいけど実際演じてるのはプロの俳優さん(それはそう)
佐々木さん演じる五頭さんは、数多の作品にホームレス役やお年寄り役などとして多数起用されている俳優さんでいらっしゃる模様。
なのにそれを全く感じさせない、変なこなれ感の一切ない自然な演技や佇まいがすごい。そういう方向性のプロもありえるんだな…。
なんなら本作出演の他の有名俳優陣全員を差し置いてでも「とにかくこの五頭さん演じる佐々木さんのリアルさを目撃するために『地面師たち』を見てくれ!!!」と言いたくなるぐらいすごいよ五頭さん&佐々木さん。
小林麻子/谷口 俶恵
「人柄の良い薄幸の女性、息子の治療費のため、『地主のなりすまし役をやって欲しい』という麗子の依頼を受けてしまう」というストーリーをこんなに説得力を持って演じることができちゃうの…!?という存在の説得力がすごい!!!!実話と見紛うリアルさ。
警察サイド
リリー・フランキー/下村 辰夫
地面師たちの主役は綾野剛&トヨエツだけど、警察たちの主役はこのリリー・フランキーと池田エライザコンビ!!
定年が近く、持病を抱えていて、ものすご~く出世してる訳ではなくて、孤独に一人地面師事件の捜査を進める警視庁捜査二課の刑事。でも人望がない訳じゃなく、「辰さん」と呼ばれて若い人達から慕われてる感じ。
リリーさんが演じる役どころとして終始最高でした…。「リリー・フランキーが刑事を演じるならこういう脚本にしたいよね!!!」を徹底的にやりきってる作劇で登場シーン全部すごいよかった~~。
池田エライザ/倉持 玲
孤独なおじさん刑事と若手女性刑事…バディ物としての萌えが詰まってるコンビですごくよかった…。
実はドラマ版の倉持は原作にはないポジションなんだけど、でもぜんぜん「余計感」がない!存在の必然性が感じられた。
あと年齢層高めの「地面師たち」の中で倉持の(行動や思考も含めた)""若さ""が際立っていてよかった。
地面師たちのターゲット
マイクホームズ
駿河太郎/真木 悠輔
うわ!!スタートアップの会社社長っぽ~い!!いるよねこんな感じの人!!という雰囲気が如何なく出ててすごいよかった。でもそんな真木社長演じる駿河さんは鶴瓶さんの息子さんでwiki見た限りでもぜんぜん社会人スタート時点から今に至る芸能人なんだよな…。
なのにあんなにスーツが似合ってやり手ビジネスマン的空気感出せちゃうの、俳優ってすごいな…。
石洋ハウス
山本耕史/青柳 隆史
ある意味ではこの人がこの物語の真の主役とも言える。「地面師たち」のモデルになった「積水ハウス地面師詐欺事件」を知ってさえいれば、この人が最終的にどうなっていくのかは視聴者全員に最初から完全にバレている状態で進行していくし、この物語はある側面から見ると「青柳隆史が転落するまでを描いた物語」だ。
最初から全員にオチがバレてるのにそこに向かってひた走る様はややもするとコント感を帯びてしまいそうな役どころでもあるけど、そこを山本さんは見事に演じ切っていた…。
仕事はできるし出世競争も順調に勝ち抜いて社長にも可愛がられて、でもパワハラ気質の嫌な奴!を山本さんが完全にやりきれてるからこそ、終盤の怒涛の展開が面白く見られるわけで、もしも青柳に少しでも良い人の片鱗が見えてしまったらその時点でもう「地面師たち」はエンタメにならない。だから現実の地面師詐欺事件とフィクションとしての「地面師たち」を決定的に分かつ分水嶺的役割を果たしているのがこの青柳隆史なんだと思う。
松尾諭/須永
シン・ゴジラ「まずは君が落ち着け」の水ドンで有名な(?)泉修一を演じた松尾諭演じる須永は、青柳の出世競争&派閥争いの相手。
「イヤな奴っぽいけど結局この人が言ってることが正しいんだよな~」の会社員の感じを出すのがすごい上手い。
光庵寺
松岡依都美/川井 菜摘
貞淑な住職も演じながら40代のエロさを惜しみなく発揮していてすごかった…。「地面師たち」のレーティングが16+な理由の7割ぐらいは川井菜摘のあれらのシーンではないだろうか…。
出演者はまだまだいるし、今回題材になった地面師詐欺事件の方面からも色々語りたいことはあるけどけど今日はいったんこんなところで…!!
「偽物の土地の所有者」というフィクションを中心に据えて詐欺を働く「地面師詐欺」を題材に取り上げて作品を作るなら当然プロよりプロの演技をやらなければ、という気概や矜持を感じるキャスティングと俳優陣の演技でした…。
なんとなくトレンド感あってクリーンなイメージのタレントに静かに絶え間なくぐるぐると入れ替わり続けるテレビのバラエティ番組、若さと"純"さのある人しか演じられない役柄だけで構成された映画やドラマとかを見ているとたまに「年齢や経験を重ねることはまるで全て悪なのか?」としか思えなくなるような瞬間があるけど、一方で徹頭徹尾悪の所業を描いた本作に出演し演じる俳優たちには「年齢や経験を重ねたあなただから演じられる/そんなあなたでなければこの役を演じることはできない」という、根源的な人間賛歌を感じるパラドクスがあった。