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一句《ボローニャの 絵と蓮がまだ 揺れている》板橋美術館「ボローニャ国際絵本原画展」へ行ってきました

2023年7月5日水曜日の午後、

東京・板橋区の川越街道から大仏通りへ入るという道のりで約1時間ほど歩いた先、板橋区立美術館の企画展「ボローニャ国際絵本原画展」へ行ってきました。


ボローニャ国際絵本原画展」とはいったいどういう展覧会か。


まず、イタリアのボローニャで毎年3月頃に行われるボローニャ・ブックフェアという催しがありまして。

このボローニャ・ブックフェア(英語では Bologna Children's Book Fair というので以降 BCBF と略します)は、児童書専門の見本市として1964年に始まり、出版社による版権の売買はもとより、展覧会、講演会なども行われ、児童書の新たな企画を生み出す場として世界中から大勢の関係者が集まる一大イベントです。

BCBFは今年で60回目の開催となり、スローガンは「 60回目、まだまだロック!(Still rocking at 60th)」、恒例の催しとなっているのが2つのコンクールです。

1つ目は、すでに出版されている作品でも未発表作品でも、誰でも応募できる「5枚1組のイラスト」を審査するコンクールです。国籍の異なる5名の審査員が実験的な試みや多様性を重視し、ドキュメンタリー映像を見た限り審査方法として、原画ではなくコンピュータのディスプレイ上で選考されてゆきます。

審査の結果、晴れて入選となった作品は「ボローニャ国際絵本原画展」に原画が展示され世界の出版界からも注目されることとなります。2023年の応募数は過去最高の4,345件で、審査の結果79名(組)が入選しました。応募数と入選数から入選率を計算してみますと 79 ÷ 4,345 ≒ 1.8% の狭き門。

その狭き門をくぐり抜けた79名(組)の作品が、今回の板橋区立美術館「ボローニャ国際絵本原画展」で展示されていたのです。

この「ボローニャ国際絵本原画展」を板橋区立美術館が開催し始めたのは1981年と古くて、それが契機となり板橋区とボローニャで絵本を通じた交流が始まり、2005年には姉妹都市協定を締結します。

そして、入選者のうち未出版、かつ、35歳以下の作者1名(組)に対して絵本を出版する機会と賞金が与えられます。それが「ボローニャSM出版賞」という賞です。

また、入選者のうち出版経験のない30歳以下の作者1名に対しては「奨学金」が与えられます。

2つ目のコンクールは作家やイラストレーターではなく出版社からの応募に対して出版済の「コンテンツ」を審査し、優秀な作品を表彰する「 ボローニャラガッツィ賞」てす。

フィクションノンフィクション、デビュー作のみが対象となるオペラプリマコミックという主要4部門からなり、2023年のみの特別部門として写真が加わります。

各部門に対して最優秀賞と優秀賞が贈られ、特に革新的と認められた場合には「ニューホライズン賞」が贈られます。

さらに、2021年から設けられたデジタル作品のコンクールが「ボローニャラガッツィ・クロスメディア賞」といいます。出版物、映画、テレビ番組、アプリなど、もはやブックフェアで扱ってよいのか?というような、「本」という枠を超えたコンテンツが対象となっています。

(ふぅー、やっとまとめられた)

それでは、各賞の受賞者や作品についていくつか紹介します。

(1) ボローニャ国際絵本原画展

79名(組)の受賞者と作品の一部は「ボローニャ国際絵本原画展」の公式図録「ILLUSTRATORS ANNUAL 2023」に収められていて、日本語版は板橋区立美術館で販売されていました。

その表紙をかざるのが2002年から自作をBCBFへ持参し高い評価を得ている韓国出身のスージー・リーです。(ウェブサイトはこちら

スージー・リーは自分を「イラストレーター」であるだけでなく「絵本アーティスト」と言っています。

それは、

自分の描く物語がどんな入れ物におさまるのかーーーこれは作家が考えることではないのでしょうが、絵本アーティストは違います。文と絵についてだけでなく、本の形、厚さ、手触り、ページをめくる時の向き、紙の色やにおいにも、同じくらい気を配ります。そうしてできあがるのは、小さな絵本かもしれませんし、大きな絵本かもしれませんし、じゃばら折りだったり、穴が空いていたり、開くと飛び出すしかけ絵本なのかもしれません。物語を匠に伝えるような、物としての本のたたずまいは、それ自体がメッセージになります。

2023 ボローニャ国際絵本原画展
(公式図録)より

というように、スージー・リーは「本」というオブジェクトを創作する「絵本アーティスト」なのです。

79名(組)の受賞者のうち日本人は5人で次の方々です。

(1) スペインでスローライフの
 あお木たかこさん
 ねこの絵が多いのにゃ

(2) 水彩のにじみ・かすれが心地よい
 木村友美さん

(3) モノクロの細かい切り絵
 さぶさちえさん

(4) オリジナルブランドを展開する
 スズキトモコさん
 ブラーさせた画質が優しい感じ

(5) フクロウの銅版画
 寺澤智恵子さん
(ウェブサイトはこちら


(2) ボローニャSM出版賞

2022年にボローニャSM出版賞を受賞した作品が出版されて本となっていました。アンドレス・ロペスの「Volver a mirar (Look again)」という作品です。


(3) ボローニャラガッツィ賞

国立国会図書館(国際子ども図書館)による2023年ボローニャ・ラガッツィ賞受賞作品決定の記事がありました。(記事はこちら

坂月さかつきさかなさんがボローニャラガッツィ賞コミック部門のヤング・アダルト枠で最優秀賞に輝き、その作品は、なんとnoteで紹介されています。


(4) ニューホライズン賞

2023年、ニューホライズン賞を受賞したのは「バッグ(El bolso)」というカラフルで点字にも対応した作品です。作者のマリア・ホセ・フェラーダはチリ出身、源氏物語のスペイン語翻訳に関する論文を執筆するくらい日本と日本文学に精通している方だそうです。


いかがでしたか?


ボローニャ国際絵本原画展の公式図録「ILLUSTRATORS ANNUAL 2023」には、応募を目指す人たちへアドバイスが書かれていましたので引用します。

まずは、リスクを取ることを恐れないこと。まわりにあるものについて習熟し、自分の考えを表現するための新しい方法を見つけて、それにチャレンジすること。展覧会に足を運び、自分の地域や世界のイラストレーターたちの作品をよく観察し、創造性という”筋肉”のトレーニングを怠らないこと。 

それから、毎年応募すること。

2023 ボローニャ国際絵本原画展
(公式図録)より


最後に、

板橋区立美術館の後に、お隣り乗蓮寺じょうれんじの東京大仏へ立ち寄りました。

東京大仏(乗蓮寺)
蓮の花(乗蓮寺)


蓮の花は風に揺れていました。
まだまだロック(Still rocking)!



読んでいただき、ありがとうございます。

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