春
春ときくだけで、すぐ明るい軽いうす桃色を連想するのは、閉ざされた長い冬の間のくすぶった灰色に飽き飽きして、のどにつまった重い空気をどっと吐き出してほっと目をひらく、すぐにとび込んで欲しい反射の色です。白茶けた竹の葉の中央の緑が日一日と冴えて、少しずつ少しずつ緑の幅をひろげて来ます。杉は依然として緑褐色、松は古葉が半分風に落ちても半分はまだ世代の代りの緑にあこがれ、未練たらしく元葉となって枝にしがみついていて、遠目にも常緑樹とはいえない黄緑樹といったような半端な色合いで山を埋めているのが、何かしらふんぎりのつかないもどかしさで、ひとおもいにむしりとるような大風が吹きつのって、さっぱりと緑の一色に代えてくれたら----。
そして山の嶺々にすじを引いたり、点々とすわりこんだりしている白い残雪が少し位残っていても、その下から目醒めた紺色の山肌を却って鮮やかに話々させてみせ、爛漫の春は麓から里へと紅と緑を満たしてゆくでしょう。