Virtual Luv feat.tofubeats/VaVa
「はぁ〜〜今日もマコちゃん先輩尊すぎるぅ〜」
水曜日のごった返した社員食堂で一際目立つ185センチの手足の長いスーツ姿。アーモンドアイにスッとした鼻筋。女子顔負けのきめ細かい白肌。爽やかな笑顔に視線がいかない女子はいない。
彼のチームが毎週水曜日に社員食堂でランチミーティングをしてることは周知の事実。普段は社外のカフェでランチしたりテラスでお弁当を食べる女性社員が一目彼を拝もうと食堂を利用するため、平常時の1.5倍は混雑している。と、私は見ているが、同期のミホからすれば「あんたの熱気のせいで人が多く感じるだけ。いつもこんなもんよ。」とのこと。「イケメンってだけで癒されるもんねえ、うちの部署にも誰か来ないかなぁ〜」呑気に蕎麦をすするミホ。社内恋愛なんて論外と豪語するミホでさえイケメンとして認知している。が、「ミホ、違うの。マコちゃん先輩はただ顔が良いだけじゃないのっ!!!」「はいはい、優しくて頼もしいデキる先輩ねぇ〜」そんな簡単な言葉じゃ表せない。20数年間の人生で、アイドルやモデルなんて全く興味のなかった私にとって、先輩は近くて遠い生きる偶像なのである。
単なる一目惚れではなく、こんな私にも奇跡的に先輩とは接点があった。新人の頃に勉強としてメンバーに入れられたプロジェクトに、アドバイザー部署としてマコちゃん先輩が参加していた。その頃私たちの部署にはいくつか同時進行しているプロジェクトがあったのだが、もちろん新人を投与するくらいには優先順位が低く、メイン担当者の先輩もモチベーションは低い。なかなか進まない検討事案に一人空回る新人の私へ、こっそりアドバイスをくれたのは、神様ではなくマコちゃん先輩だった。
プロジェクト解散後に勇気を出した結果、先輩のSNSのフォローリクエストはあっさり許可された。もちろん過去の最初の投稿まで遡り熟読。先輩が雑誌のスナップに載れば最低でも2冊は確保する。先輩と仲の良い同期とは月に1回飲みに行って情報をゲットする。先輩のお気に入りの飲み屋にはミホを誘って個室でこっそり飲んでいる。服装はシックな色味でベーシックなブラウスとパンツ、髪型はハーフアップでゆるく巻き髪、ネイルは桜色で、アクセサリーは小ぶりのシルバーで統一、ヒールは5センチ。情報収集した結果、先輩好みの隣にいても恥ずかしくないであろう私が作り上げられた。もちろん定時後に向かうヨガスタジオは先輩の通うジムの近く。料理教室は先輩の乗り換え駅の近くに位置する。期待はしっかり外れて未だに"ばったり"出会うことは無い。
ここまでしてるけど、私だって地に足をつけているつもり。そもそも先輩には同じくらい完璧で尊い女性が似合うのだ。自意識過剰も甚だしい、と勢いでマッチングアプリに登録した。イイネをくれる彼らには同じようなメッセージを展開してもコトが進んでいく。さながら恋愛ゲームの感覚で流れていき、空いた時間に食事を共にする。でもね。夜寝る前に思い出すのは先輩のことだけ。
覚えてる限り夢に出てくる男性は先輩しかいない。決まって毎回海辺を散歩する夢。優しい笑顔で手を差し伸べ、穏やかな声で名前を呼んでくれる。こんな先輩は現実にいないって分かってるのに、日に日に尊さが増していく。一目見ただけで疲れが癒され、挨拶ができたら嫌なトラブル処理も進んで対応できる。会話なんてできた日には一日中菩薩のような心構えで業務に取り組める。そんな日、一年に数回しかないけど。
「救われねぇんじゃねぇの、その気持ち。」同期の佐野と退勤時間がかぶったので、流れで大衆居酒屋にたどり着いた。乾杯早々、頓珍漢なことを言うので説明する。「先輩は存在するだけで私は救われてるの!先輩がいるだけで気持ちが昂っていつだって無敵になれるんだから。」佐野は何か言いたげだったけど飲み込むようにジャッキを空にした。
先輩への気持ちは到底カテゴライズなんてできない。誰にも名前なんて付けさせない。陳腐な恋愛と一緒にしないで。私を救ってくれる唯一無二の存在なんだから。お酒の勢いで捲し立てたが、帰り道には千鳥足になりしっかり佐野に抱き寄せられていた。
VaVa
「Virtual Luv feat.tofubeats」
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