合評で傷つかないために
作品の合評をするというのは、なかなか難しいものです。
私の「小説創作演習」は、前期の授業では自分のオリジナル作品ではなく、『しあわせなハリネズミ』の世界観を使ったオマージュ作品を書いてもらっています。
これには、まず「自分から少し離れた作品」で「合評に慣れる」という狙いがあります。
作品と作者の人格は、べつのものです。
そのことを頭ではわかっていても、やはり、作品の悪いところを指摘するのは「相手の気持ち」を考えるとためらってしまうし、自分も批評されるとへこむのでしょう。
相手を「傷つける」ような言動は控える、場を乱さない、空気を読む……。そういう文化で育ってきたひとは、わりと「批評が苦手」だという印象があります。
合評の場においても、学生は「そっちの作品について悪く言ったりしないから、こっちの作品についても言うてくれるなよ」という空気を醸し出して、無難なコメントを述べ、褒め合うことで、痛みを回避するというか……。
しかし、成長のためには、いまの自分の「足りない部分」「改善すべき点」に気づく必要があるわけです。
そこで、私の授業では「気になるところ」を指摘してもらっているのですが、その意見に対して、不必要に傷つかないための防波堤としての「オリジナルではない作品」なのです。
世界観や主人公以外のキャラクターは『しあわせなハリネズミ』を使ってもらうので、いわば先生との「合作」みたいなものであり、作品の全責任を負ってはいないということで、自分自身が批判されているような感覚が薄れ、文章表現の巧拙を冷静に判断して、意見を受け入れやすくなるのではないか、と考えたのでした。
また、原作が児童文学なので、これまで自分の書きたいものを書いてきたひとも、「この世界観で、この言葉を使うのはどうだろう」とか、「子どもが読むと考えたときに、この表現はどうだろう」とか、読み手のことを考えるという意識を持つことになり、合評のコツをつかんでいくことができます。
合評は「慣れ」です。
繰り返すうちに、打たれ強くなっていきます。
学生時代に「致命的なダメージを受けない状況」で相手をきちんと批評をしたり、指摘されたアドバイスを受け入れたりする経験を積むことは、創作においてだけでなく、いろいろな場面で役に立つのではないかと思うのです。
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