レポート:力の主
私は権力のある家に生まれた。
そこでの生活は窮屈だった。社会的な人間であることを求められた。
何事においても正しさがあり、私はその範囲を逸脱しないようにしなければならなかった。
できるなら抜け出したいと思った。
抜け出さないようにする仕組みがあり、私はそれをどう誤魔化して抜け出すかを考えていた。
そのとき妙案に出会い、幸運にも抜け出すことができた。
だが、つらい事実を知ることとなった。
私は抜け出すことができ、幸福感に包まれていた。
生きる場所を見つけ、なんとか生き延びていた。
だが、そこでも苦痛はあった。
私に染み付いたもの。前の環境における正しさ。
それを逸脱することは嬉しいことなのに、自由に振舞う周囲の人を見ると違和感が拭えない。
それはあまりにも「間違って」いないだろうか。
不安になる。
ときおり前の環境に似た人と過ごすと、ほっとする。
なんだ、私は結局、前の環境のほうが合うんじゃないか。
いや違う。前の環境で私は苦しんだんだ。
二者択一であるからいけないんだ。環境の選択肢を増やせばきっと。
環境に習うことを必死でやった。
駄目だった。私は様々な人格をもつ奇妙な何かになってしまった。
他の人にできないことをしている。
それは誇りであったが、異端でもあった。
どこにでも属せる私は、どこにも属せない私だ。
ずっと留まって辛くなる前に、環境を変える。
ついたのは逃げ癖。耐久力はぐっと落ちた。あらゆる人から見捨てられた。
それでも私は、この選択を間違いだと思わない。
思えないんだ。私の人生がすべて間違いだったなんて。
あの妙案に乗っていなければ、私は幸せだっただろうか。
あの妙案のせいで。
いいや、せめてそこだけは自分の選択だと思わせてくれ。
すべてから逃げる私に残されたプライドだけは、折りたくない。
罪深い私が逃げないように捕まえていてくれ。私に責任を持たせてくれ。
私の力はあなた方に捧げるから。
私よ。
強くあれ。
女は2面性を持つ。
庇護の対象であると同時に、狡猾な詐欺師でもある。
私は良い女を上手く扱わないといけない。
それが関係を持つ条件だからだ。