Spinoza Note 08: modeは測れるもの

様態 mode について考える。定義5となる。

Per modum intelligo substantiae affectiones, sive id, quod in alio est, per quod etiam concipitur.

畠中尚志の訳は次の通り:様態とは実体の変状、すなわち他のもののうちに在り、かつ他のものによって考えられるもの、と解する。
高桑純夫は次のように訳す:様態によって私は実体の諸変容、もしくは他者のうちに在り、それを通じても実体が把握されるもの、を理解する。
George Eliot は次のように訳す: By mode I understand the affections of substance, or that which exists in something else, through which it is conceived. 
Elwesは次のように訳す:By mode, I mean the modifications of substance, or that which exists in, and is conceived through, something other than itself.

"substantiae affectiones" から解釈を始める。「実体の諸変容」という高桑訳が正確である。変容(もしくは様態)は複数形でなければならない。mode は少なくとも二つあるからである。EliotとElwesもそれぞれ 'the affections', 'the modifications' と複数形にしている。
(後で読むべき)補足説明:modeが少なくとも二つなのは、無限が自己を分別し始めるとまず二分するからである。

17世紀、"mode" がどのような意味だったか。今日ではすでに日本語になった「モード」であるが、「Android デバイスでダークモードまたはカラーモードに変更する」という用法は元来の意味から離れている。

Chris van Rompaeychris は次のように述べている:古典ラテン語で modus には複数の意味があるが、様態(way あるいは manner)というのは最近の用法である。元来は「ものを測る尺度、すなわち大きさ、長さ、外周、量など」を意味する。ここから補足的な意味、すなわち「限界や制約を超えない尺度」という用法が現れた。

In classical Latin modus has several meanings, only the most evolved of which has the sense of “way” or “manner.” Its primary denotation is “a measure with which, or according to which, any thing is measured, its size, length,  circumference, quantity.” From this it acquires the supplementary sense of “a measure which is not to be exceeded, a bound, limit, end, restriction.”

cited from Charlton T. Lewis and Charles Short, A Latin Dictionary. Oxford: Clarendon Press, 1879, s.v. “modus,” 1156.

「測れること」「有限であること」が mode の原義である。「実体の諸変容」を「有限で、測れること」と名付けるSpinozaの意図はどのようなものか。「実体が諸々に変容する」とは、無限であるものが限定され、把握できるようになること、と思われる。

「実体の諸変容が測れる」を「実体の諸変容が数えられる」と言い換えてみる。ものが数えられるということは輪郭を捉えられることを意味する。つまりそれらのものが形を持つと解釈できる。それ以前は無限であり、捉えどころがなかった。

「実体の諸変容が測れる、数えられる」のは「神の顕現」である。(「顕現」という表現が畠中尚志の解説にある。)絶対無限(=神)は人間の認識を超えているから知り得ない。神が自らを現すとは、自己を限定し、自らを形作ることである。神が形をとったとき、ようやく我々が知り得るものとなる。

先に進む。「もしくは他者のうちに在り」とは「他者に依存する」ことであり、実体以外のものが該当する。これまでのところ Spinoza の宇宙には実体 substance と属性 attribute だけがあるから、これは属性を指す。 
後記:mode を指すようだ(2024年7月9日)

「それを通じても実体が把握されるもの」とは「属性を通じて実体が把握できる」の意である。Spinoza は mode の例として属性を挙げているのだ。Spinoza の属性とは物体と精神である。無限である神が自らを物体と精神とに限定し、この世界を作った。Spinoza はその世界を「有限で、測れるもの」と定義した。
後記:属性ではなく mode と考える(2024年7月9日)

まとめ:mode とは「有限で、測れること」である。実体が自らを限定し、姿を現したものは mode である。属性も mode である。
後記:属性は mode ではない(2024年7月9日)

参考文献
Language and meaning in the ethics. or, why bother with spinoza's latin?, Chris van Rompaey, parrhesia 24 · 2015 · 336-66

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