「インパクト経営」の時代
株式会社UNERIが主催する「インパクトオフィサーの学校」に参加しています。昨日は、その第3回の講義でした。有料の講座、かつ、チャタムハウスルールが適応されるため、これまでの講義を経て、私自身が感じたことをまとめていきます。
1、これからは「インパクト経営」の時代
筆者はこれまで8年半ほど非営利法人の経営を行っていますが、「社会的インパクト評価」の言葉こそ聞いても、その重要性はあまり高くはなく、いつかどこかで手をつければ良いものだという印象でした。ロジックモデルがあれば、助成金の獲得に繋がるかもしれない、事業の関係者に説明できるかもしれない、とメリットを理解つつも、目の前の事業活動に注力する方が優先順位が高かったのが現状です。
しかしここまで3回の講義で、社会的インパクトは経営の根幹なのではないか。あればいいというものではなく、事業活動の中核に据えることが重要。もっと言えば、経営戦略として「社会的インパクト」を据えることが、今後の組織の持続的な成長に必要不可欠なのではないかと感じます。それを私の造語ですが「インパクト経営」と一旦呼びます。投資家などが「インパクト投資」などで新たな経済圏(インパクトエコノミー)を目指そうとするなかで、呼応するように、事業者側にも「インパクト経営」が必要なのではないか。それを強く感じている講義です。
上記の「インパクト投資」は世界的な潮流でもありつつ、一つ一つの事業者が「インパクト経営」を行うことで、世界に先駆け先端的なインパクトエコノミーを形成できるのではないか。そして、それを担う人こそまさに「インパクトオフィサー」であり、その育成が必要だというのが株式会社UNERIの問題意識なのだなと感じます。
2、「インパクト経営」とはなにか
インパクト経営とはなにか。そして、それを担う「インパクトオフィサー」の役割とは何か。これがこれからの講義で考えたい私のテーマでもあります。現状の到達点を一旦書き記しておきます。
①財務的な価値ではない非財務的な価値の言語化
一つ目は、財務的な価値ではない、非財務的な価値の言語化です。平たく言えば、売上や利益だけでない、「良いこと」の言語化です。
これまでの戦後日本の企業でも、「三方よし」や「会社は社会の公器」などと表現され、企業の持つ社会的意義が強調されてきました。資本主義的な、もっと言えば、株主資本主義的な経営だけではない、すべてのステークホルダーが意識された経営が実施されてきたのだと思います。
この非財務的な価値、ミッションやビジョン、顧客や地域社会への願い、事業への想いなどなどの定性的な価値を言語化し、数値化し、論理立て、なにがどう社会的に有意義なのかを言語化する作業が、社会的インパクトの出発点と言えそうです。
ただし、もっと踏み込んで言えば、そもそも経営理念を重視して経営していた企業が、その理念を数値化/構造化する作業と言い換えた方が良いかもしれません。社会的インパクトを生み出そうと思って生み出すのではなく、顧客や社会のありたき姿を構想し、そこに自社が果たす役割を描くこと(経営理念)こそ、社会的インパクトの出発点であると認識する方が正しいかもしれません。
経営理念を重視した経営を行うこと。その上で、その経営理念を言語化して数値化して、経営指標に組み入れていくこと。そのような作業を行うことがインパクト経営なのだと思います。
②事業そのものが持つ社会的意義の言語化
2つ目は、事業そのものが持つ社会的意義の言語化です。上記の経営理念の言語化に加えて、特に重要なのが事業の社会的意義の言語化です。
私の肌感覚で恐縮ですが、2011年代ごろから企業の社会的責任が言われ始め、CSRやCSVの議論が高まりを見せ、様々な企業が社会貢献活動を開始しました。本業とは関係ないものの環境保護の活動などの取り組みを行うこともあれば、本業とも連動しそうな戦略的CSRと呼ばれるような取り組みを行う企業もありました。
その中で、個人的に注目していたのは、「事業そのものに社会的意義がある」という考えでした。言い換えると、そもそも事業自体が、他者の課題を解決しており、他社から価値を集めており、それ自体に社会的意義ががある。だからこそ、社会をより良くするためにも、本業の事業活動自体に邁進する、という言説でした。
それがまさに「事業の社会的意義」です。つまり、本業自体が持つ、社会的意義に注目し、本業に邁進することが、誰かを幸せにする、誰かを豊かにする、誰かに価値を届けていくことに繋がるのだという事業観です。対比されるのは、市場規模やニーズがあるから参入しようとするといったような事業戦略的な側面でだけ見る事業観です。売上を伸ばすことは大事だけれども、そもそも顧客のために価値を提供する、顧客を通して社会に貢献する。やりがいとも言える社会的意義を果たすために事業を行うのだ、そのような事業観なのだと思います。
インパクト経営の真髄は、上記のような事業観を持つ企業が、事業成長に繋がり、かつ、社会的意義にも繋がる価値を定義すること。そのようなKPIを設定することにあるのだと感じます。そのKPIを追うことは、社会的インパクトも事業成長にも繋がり、関わる人々のエンゲージメントも高まっていく。そのようなKPIを設定し、その達成をモニタリングし続けることがインパクト経営であり、そのチャレンジングな役割を担うのがインパクトオフィサーなのだと思います。
③持続的なインパクト創造へ
3つ目は、上記2つの既存事業のインパクト定義ができた上で、その法人が持つ社会的インパクトを持続的に成長させていくための経営を行うこと(インパクト創造経営)なのだと思います。
まさに、価値創造経営のように、定量化されたインパクトを投資家をはじめ、ステークホルダーに開示していく。中長期的な目線でインパクトを高めていくための、投資家や顧客、ステークホルダーとの対話が行われていく。事業活動の成長と社会課題の解決(市場創造)が議論され、経営戦略の中核に据えられ、社会の持続的な発展を支えていく。
そのように決定された戦略が、投資家や採用で人々を惹きつけつつ、社内の評価制度にも活かされ、顧客への提供価値を高め、ひいては社会の持続的な発展を支えていく。そのような持続的な枠組みを作っていけることこそ、インパクト創造経営であり、最後はその役割を担うのがインパクトオフィサーではないかと感じています。
以上、ここまで「インパクト経営」という言葉を用いながら、社会的インパクトを経営戦略の中核に据えた経営のあり方が大切なのではないかとまとめてみました。そして、まさにそのインパクト経営を担っていくのが「インパクトオフィサー」なのだと思います。これから様々企業に「チーフインパクトオフィサー」が設置され、事業活動も採用活動も財務活動もあらゆる場面でインパクトが中核に据えられてほしい。そのような願いがUNERIの生み出すこの第1期なのだと感じています。
3、インパクトエコノミーの広がり
上記のような「インパクト経営」に加え、投資家内では「インパクト投資」が広がりつつあります。投資家側のインパクト投資については、様々な書籍等もあるので、これから深めたいと思いますが、社会の持続性なども含めて考慮しながら、経済的リターンも得て、かつ、社会的インパクトも目指していけるような、そのような事業への投資を行うような動きだと現時点では理解しています。
これまで非営利法人で事業経営に従事してきたので、私自身は投資家の動向には疎いのですが、講義内ではこれまでの金融の発展の延長線上にインパクトがあるのだと説明がありました。リターンだけを求めるのが19世紀、リターンに加えリスクを判断するのが20世紀、そして21世紀には、リターン・リスク加え、インパクトの軸が加わるのだと。つまり投資家のルール自体、いうならOSがアップデートしており、「お金に色がつく時代」を迎えていくのだという話がありました。
そもそも事業は、投資対象となることでその成長が加速します。そのため、社会的意義の大きい事業が投資対象となることで、その社会的インパクトもまた広がりを見せます。そのようなインパクト投資のあり方を投資家の方々が議論されていること、今後広がりを見せていくことは、個人的には希望でもありました。
私の所感ですが、資本主義批判に寄せられる声のうち、少なくない部分は株主資本主義/利益至上主義的なあり方のように感じます。利益が優先される企業経営、従業員や業務委託の人間性の疎外、経済的合理性から判断される選択と集中など財務的な目に見えやすい価値を利益の恩恵を受ける人が死守するような構図の中で、「なかなか目には見えにくいけど大事なこと」が見過ごされてきたような印象があります。その代表格のように見える投資家たちの行動が上記のように変容しつつあるのは、これからの企業経営のあり方を変えていくのかもしれません。
そして、上記のような投資家にインパクト投資が広がり、事業者側がインパクト経営を行う。様々な顧客や従業員等がインパクト(≒やりがい)を感じて事業に関わる。そのような生態系が生まれていき、様々な人に新たな動きを届けようとする活動こそ、インパクトエコノミーの広がりなのではないかと感じます。
4、残論点
上記までで、インパクトエコノミーの広がりと、インパクト経営、インパクトオフィサーの役割を考えていたのですが、残された課題は、では、どうすれば、社会的インパクトを可視化できるのか。ここが残論点なのだと思います。
次回以降の講義で様々な実践紹介があるのだろうと期待しつつ、ここまででも様々な示唆をいただいたような気がします。様々なステークホルダーと対話すること、自分自身のストーリーにも向き合いながら、そもそも自分の根底にある想いと向き合うこと、顧客や社会の理想的な状態を考え続けていくことを地道に重ねていくことなのだと感じています。
合わせて、上記のような問題意識を持つ参加者の皆さんや運営の方が、講師の皆さんとも、ディスカッションさせていただきながら、ブラッシュアップしていくものなのだとも感じます。その意味でも、株式会社UNERIの河合さんが最初の講義でおっしゃっていた「先進事例を生み出していくコミュニティー」と表現されていたのも、そういう期待感からだったのかもしれません。
最後に
上記、ここまで3回の一旦のまとめです。
ここまでの講義で感じたことを自分のためにもまとめたのと、これまでの講義への感謝とこれからの講義への期待、そして、受講者の皆さんをはじめとして社会的インパクトを重視した経営を学びを深めていきたい願いも含め、書かせていただきました。これからもよろしくお願いします!