自分の人生を生きる、とは。 リクルートで営業トップだった渡邉知さんが 「場づくり」の会社を40歳を目前に起業したワケ。
みなさん、こんにちは。ライターのさくらこです。沖縄の私立大学に通う4年次で、最近は外出自粛期間中の運動不足解消のためにハンドクラップにハマってます。今回、イベントレポートを書かせていただきましたので、ぜひご覧ください。
今回イベントは『場づくりという冒険(グリーンズ出版)』の出版に際して、著者である藤本さんが全国各地で「場づくり」に取り組んでいる方々のお話しを伺うという「座談会」企画となっています。今回のゲストは、株式会社ファイヤープレイスの渡邉知(わたなべさとる)さん。座談会では、彼が「場づくり」に至った経緯や、今考えている「場づくり」について語っていただきました。
インタビュアー:藤本 遼 (以下・藤本)株式会社ここにある代表取締役/場を編む人
1990年4月生まれ。兵庫県尼崎市出身在住。「株式会社ここにある」代表取締役。「尼崎ENGAWA化計画」発起人。「すべての人がわたしであることを楽しみ、まっとうしながら生きていくことができる社会」を目指し、さまざまなプロジェクトを行う。「余白のデザイン」と「あわい(関係性)の編集」がキーワード。現在は、イベント・地域プロジェクトの企画運営や立ち上げ支援、会議やワークショップの企画・ファシリテーション、共創的な場づくり・まちづくりに関するコンサルティングや研修などを行う。さまざまな主体とともに共創的に進めていくプロセスデザインが専門。代表的なプロジェクトは「ミーツ・ザ・福祉」「カリー寺」「生き方見本市(生き博)」「尼崎ぱーちー」「尼崎傾奇者(かぶきもの)集落」など。『場づくりという冒険 いかしあうつながりを編み直す(グリーンズ出版)』著(2020年4月)。
藤本:ファイアープレイスという会社を設立され、「場づくり」に取り組んでおられますが、どういった経緯で今の活動・仕事をされるようになったのでしょう?
渡邉:もともと自分は、人に優劣をつけてマウントをとる人間でした(笑)。生き方も働き方も稼ぎも、全部周囲との勝負ごと。結果の出るものは全て一番になりたい。自分のエネルギーを一点集中してその中でマウントをとる生き方をしていて。就職活動も同じです。どの会社に入社すれば勝ち組になれるのか、当時はそんなことばかり考えていましたね。
インタビュイー:渡邉 知さん
1975年仙台市生まれ。電通グループの人事部採用マネージャ〜経営計画室勤務を経て、2008年、リクルートへ中途入社。2010年、全社トップガンアワード受賞(トップオブトップ営業表彰)。2011年よりじゃらんリサーチセンターの研究員・プロデューサーとして、交流人口増加による地域活性に携わる。
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新卒で選んだ会社は「モテる・年収が高い・人に自慢できる」の3軸で決めた渡邊さん。その中でもトップの成績を収め、常に前線を走っていたにも関わらず40歳を目前に違和感を抱いたようです。
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藤本:社会人として成功されていたのに、どうして転職ではなく、起業に至ったのでしょうか?
渡邉:課題解決というボールが投げ込まれるバッティングセンターに立って、毎日毎日ボールを打ち返すことが仕事になっていると気付いたからです。バッターボックスに立って、会社や上司が投げてくれる課題という球を打ち返すんです。130キロを打ち返せれば、次は140,150って球速が上がっていく。これをきれいに打ち返して、打席を出れば周囲が褒めてくれるし年収や役職も上がっていく。けれども一方で、誰かが球を投げてくれなければ、目標を与えてくれなければ、なんのために生きているのか分からなくなっている自分に気付いてしまった。「自分が本当にやりたいことは何だろう。このまま自分の人生と向き合うこともなく終わってしまうのか」という恐怖感を感じるようになったんです。人からお願いされた仕事ではなく、何故働くのか、そこから自分で再定義したいと決めたとき、事業内容も定まっていないのに(苦笑)、「そうだ、起業しよう」と思ったことを覚えています。
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「仕事ができる人」とはよく言いますが、仕事ができる人と自分の人生を生きている人は、まったくもってイコールではない。そのことにどのようにして思い至られたのか、どのようにして自分の生き方を変化させていかれたのでしょうか。
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藤本:自分の中で生き方を変えなきゃという転機になったものはありますか?
渡邉:東日本大震災です。当時、社内でそれなりに成功体験を積んだタイミングだったんですが、この先何を積み上げていくか、どんなキャリアを目指していくか、閉塞感を感じていました。そうした悩みが粉々に砕ける感覚でした。自分の力ではどうしようもないできごとが人生の契機になる人って、多いんじゃないでしょうか。
藤本:会社では評価されていた。実績があった。そうした立場を捨ててまで起業することに対して、不安はなかったんですか?
渡邉:今歩んでいるこの先に、自分の人生をコントロールできる未来はないと思っていたんですよね。自分では何かを積み上げてきたつもりだったけど、東日本大震災をきっかけに、「そもそも何のために積み上げようとしたんだっけ?」と、スタート地点に戻ってしまった。けれども、どうしたら生き方を変えられるかわからない。
そんな話をある友達に打ち明けたら「同じような生き方、働き方をしている人としか話をしてないからじゃない?」と言われて、確かに、と。
それからは、できるだけ意識的に、これまで話したことがなかった人との飲み会、会話を増やしました。一番楽しかったのは経営者の方と話すことです。そもそも、会社って、つくらなくてもいいものじゃないですか。けれども、どの会社も、誰かが何かを自発的にしたいと考えたから登記されているわけで。なんで今の会社をつくったんですか?とか、やりたいことを見つけて起業するってどういうことですか?とか、たくさん伺いました。
藤本:ファイアープレイスさんは「場づくり」の会社だとありますが、どういう流れで「場づくり」に発展していったのでしょうか。
渡邉:まず自分の幸せってなんだろう?と考えました。こんなに頑張っているのに満たされていないのはなんでだろう、そもそも何のために俺は働いているのか、うん、幸せになるためだと。そこまでたどり着いて、じゃあ自分のとっての幸せってなんだ?となったわけです。働く目的は幸せになるため。幸せを言語化したら、豊かな人間関係・人とのつながりに行き着いたんです。豊かな人間関係を育む事業に挑戦したいと思った。そこから「場づくり」に取り組むようになりました。
藤本:なるほど。そのような流れだったんですね。会社の事業としてはどのように発展・変遷していったんですか?
渡邉:「まず、『場』と『場所』の違いについてお話しさせてください。場づくりの会社なんて言いながら、それを言語化するまでに4年もかかっています。
「空間」に機能を与えると「場所」になります。その「場所」につながりが付加されたものが「場」。「場所」と「場」は違う。私たちがしているのは「場づくり」。つまり、「場所」を「場」に変えていくこと。つながりが生まれ、深まるためのメソッドやアクションを提供している会社です。
藤本:とてもクリアに言語化されておられますね。勉強になります(笑)。加えて、今、事業展開されている「ロックヒルズガーデン」と「日本橋CONNECT」という場所についても詳しくお聞きしてもいいですか?
渡邉:「場づくり」をしたいんです、といろいろな人に言っていたら、不動産事業を行っている高校の先輩が、「お前の言う場づくりがなにかはわからないけど、俺の持っているビルで挑戦してみるか?」と声をかけてくれました。ビルの屋上と最上階をリノベーションして、バーベキュースペースやジャグジー、デザイナーズ和室なんかをつくったんです。バーベキューに興味があったわけではなく、「どんな場づくりをしたら、人と人はもっとつながりやすくなるだろう」と考えて。バーベキューは分かりやすいですよね。楽しいイメージしかないですし、上座も下座もないし。
藤本:バーベキューが大好きなのかと思っていました(笑)。
渡邉:試行錯誤しながらつくったロックヒルズガーデンは、私が初めて場づくりをした場所です。当時は言語化できていなかったけれど、約2年間、私自身、コミュニティマネージャーをしていたんだと思います。けれども、だんだん一人ですることに疲弊するようになって、仲間を求めるようになって。でも同世代には「場づくり」に興味のある人ははなかなかいなかった。そんな中、結果的に「場づくり」「コミュニティ」といった言葉に共感して集まってくれたメンバーは若者が多かった。だから、ロックヒルズガーデンは若者たちに自由に使ってもらって、彼らが「何者か」になって活動していく場所として活用してもらったらいいんじゃないかと思うようになって。
いつしか、それとは別に、大人が集い、つながる場づくりにも挑戦したいと思い、「日本橋CONNECT」という場をつくりました。
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コミュニティの存在意義や、集まる人たちの願いを汲み取るために事業を拡大している渡辺さんへ、参加者の方々からチャットを通じていくつか質問がありました。
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参加者:「コロナの影響下で、『場』の持つ可能性を教えてください。」
渡邉:オン・オフに関係なく、そこで時間を過ごすことでどんなつながりが生まれるか、ワクワクさせることができるか、が場づくりをする人の仕事だと思っています。オンラインの「場」は増えると思います。一方で、オフラインの方が偶然の出会いはつくりやすいし、私たちは生きていて身体があるから、人に触れたいと思うし、直接会いたいと思うはず。
コロナによる長期戦の中で、人として一緒の時間や空間を過ごしたいと思えるのは「愛」だと思います。今後、オフラインで会うのは自分にとって愛の証明になっていくんじゃないでしょうか。オン、オフ、どちらも場の価値は変わらない。オフラインの場の価値は、愛情の確認、と今は感じ始めています。
参加者:「場所を持つことのリスクが高まる中、今後の場づくりをどのように考えていますか?」
渡邉:今回のコロナで、場所を保有することの経営リスクは多くの人が感じたでしょうね。オフラインの場づくりに対する、覚悟のレベルは間違いなく上がりました。けれども、場所を有してつながりを育んでいくお仕事に私は大きなやり甲斐を感じているし、この仕事をリスクとして感じて欲しくない。だから、国と組む、自治体と組む、企業と組む、など、リスクを分散する形で、今後、さまざまなパートナーシップが発明されていって欲しいなと強く思います。
たとえば、地域には、空き家とか廃校とか、使われなくなった場所がたくさんあるはずですよね。そして、「場所さえあれば」と感じている人たちも、同じくたくさんいるはずです。そうしたマッチングを誘発する仕掛けも作っていきたいですよね。
参加者:「おふたりは『ここで場づくりがしたい!』と思う場所の共通点はありますか?」
藤本:私はないですね。すべて人基点・人ベースでやっているので、出会った人や関わっている人たちと面白いことをしたいなと考えているだけかなと思います。
渡邉:藤本さんと同じかな。私や藤本さんの仕事である場づくりやコミュニティは人ありきです。だから、特に、場所に対するこだわりはなく、人との出会いを通じて場づくりに挑戦したいと思うことが多い気がします。
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参加者のみなさんからのたくさんの質問が飛び交ったので、あっという間に終了間近となりました。
最後は一人ひとことずつ感想をシェア。みなさん口々におふたりへの感謝を述べ、「どのようにしてつながるかの問いかけをもらえた場でした」「オンラインならではの可能性を感じました」「場づくりに関わる人のイメージが湧きました」など、それぞれに気づきを持ち帰っておられました。
わたし自身、沖縄で学生が利用できるコワーキングスペースの運営に関わっているのですが、「どうしたら新規利用者が来てくれるか」と目先の数を追いかけていたことに気づきました。改めて「学生がより利用したくなるようなワクワクした期待感をつくれているかどうか」、いわゆる「場」をつくれているのかどうかという気づきはとても大きかったです。
渡邉さんも藤本さんも共通して「なにかをつくる時は参加者も巻き込む」とイベント中にお話しされていました。来てくれる人たちをお客さんにするのではなく、メンバーとして迎え入れること。つながりを濃く、太くしていく上で大事なことを学ばせていただきました。
◯今後のオンラインイベントの予定
▷2020年5月8日(金)19:00〜
\ゲストは台湾で「空屋」を運営する鈴木宏明さん!/『場づくりという冒険』ゆる座談会
https://www.facebook.com/events/605289743667919/
▷2020年5月10日(日) 20:00〜
\ゲストは新潟で「場づくり」に取り組む小林さん・松浦さん!/『場づくりという冒険』ゆる座談会
https://www.facebook.com/events/622950431898520/
▷2020年5月23日(土) 14:00〜
ウィズコロナ時代の『場づくりという冒険』対談 著者・藤本遼×ハチドリ舎店主・安彦
https://www.facebook.com/events/159394998785489/
▷2020年6月8日〜13日
\オンライン開催!/生き博ウィーク2020kansai
https://www.facebook.com/events/545907382778526/
などあります。その他、随時イベント情報については更新いたしますので、関心のある方は「株式会社ここにある」のfacebookページをご注目くださいませ。
◯ライター紹介
新城 桜子(あらしろ さくらこ)沖縄国際大学4年次
1998年生まれ。沖縄県八重瀬町出身。「子どもの可能性の最大化」を求めボランティア・インターンを通して自分なりの幸せを創る場づくりをは何かを考えている。コーヒーとブラックチョコレートが大好き。大阪に行く時はだいたい雨。