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野球観戦の多様化
6月30日の日経新聞で、「サヨナラ、野球観戦の常識 顧客目線の日本ハム新球場」というタイトルの記事が掲載されました。北海道日本ハムファイターズの新本拠地球場となったエスコンフィールドが、従来の日本にある野球場の常識を覆したと紹介している内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
プロ野球の観戦はとても刺激的だ。超人的なスピードボール、それをはじき返すパワー、高度な守備や走塁。野球独特の攻撃と守備の間があり、ビールやジュースなどを楽しみながら見るのに適したスポーツだろう。
しかし、球場に足を運ぶのをためらう理由もある。一つがトイレだ。座席が列の端でないと、他の観戦者に道を空けてもらわないとトイレに行けない。移動の面倒さにストレスを感じる人は多いはず。こうした利用者の「小さな」悩みと、これまでの野球観戦が抱える「大きな」課題を一気に解決しようとする巨大施設が今春、誕生した。巨大施設「北海道ボールパークFビレッジ」と、併設する野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」だ。
東京ドーム約6個分という32万平方メートルの広大な敷地に野球場のほか、宿泊施設、温泉とサウナ、レストラン、商業施設、子供の遊び場、グランピング施設などがそろう。まさに公園にして街のような空間。そこにあるのは野球観戦の常識を「否定」し、新たなスタイルを提示する「哲学」だ。
「(戦後の)人口増とともに野球人気が高まり、誰もが少年野球に参加したり、キャッチボールをしたりした。今は人口が減り、その前提が崩れた」。ボールパーク設立の立役者で、運営するファイターズスポーツ&エンターテイメント(北海道北広島市)の前沢賢取締役はこう話す。それなのに「野球場の欠点は野球を見る以外にやることがない」(前沢氏)。
そこで「野球以外でもファンになってもらうことが重要。違うコミュニティーを足し合わせ、もっとエンターテインメント性を高めないとダメ。あくまで『野球もやる』パークにこだわった」と前沢氏は言い切る。冒頭の従来型球場の課題は改善例の1つになった。
スタンドに足を踏み入れると、エスコンフィールドの座席前の通路幅が広く、座っている人がわざわざ立たなくても、そのまま通りやすい。この快適性を優先するため、本来は球場に3万~3万5千席を確保する予定だったが、あえて2万9000席に抑えた。その分、ペットとの観戦、ブルペンを見ながらの観戦を可能にするシートなども実現している。
既存施設と一線を画し、通常の野球場にはないサービスや機能をふんだんに目にする。代表例が温泉とサウナで「温泉に入りながら野球を見る。ワードだけでインパクトがあると思った」(前沢氏)。球場内のホテルも異世界の体験だ。
日本のプロ野球界で変革に大きな影響をもたらしたのは、2009年に開場した広島カープのMAZDA Zoom-Zoom スタジアムと言われています。2004年の球界再編をきっかけに巨人戦を中心とした放映権料収入の激減が予想される中で、強い危機感を抱いた球団が、それまでの放映権料収入中心のビジネスモデルからの脱却を図った結果とも言われています。
私は小学生時代の頃、実家が広島に近かったこともあり、当時の広島市民球場に親が時々連れて行ってくれました。当時広島カープは優勝を繰り返す強いチームでありながら、それほど球場の集客がなく空席も目立ち、巨人戦以外の試合は観客1万人強程度だったのを覚えています。
それが今では、どの試合でも常時3万人近い観客動員数なのに驚かされます。2006年に年間約100万人だった観客動員数は、2022年には倍の約200万人になっています。
これは、球場新設以前と以降とで、「顧客」と「提供するサービス」の定義を変えたことによると考えることができそうです。
以前から今への顧客像の変化は、(勝手な想定かもしれませんが、おそらくのイメージとして)次のような感じなのだと想定します。その後「オリ女」など他球団でも一般的となった女性客の取り込みを、「カープ女子」により先駆けて成功させたことでも知られています。
以前 ⇒ 今
・男性中心 ⇒ 男女問わない
・野球好き ⇒ 野球の初心者でもよい
・球団所在地近郊に居住 ⇒ 広島市近郊+全国
・球団の勝敗・優勝が最大の関心事 ⇒ 「一緒に応援する」という体験が関心事
そして、提供するサービスは、以前が「チームの勝利を目標に取り組む野球のプレー」でした。よって、試合前半で大きく点差がついてチームの勝利の可能性がほぼなくなった時点で、帰ろうとする観客も結構見た記憶があります。
しかし今では、野球の優れたプレーの観戦とチームの勝利の応援は変わらず重要な要素でありながらも、他にも付加価値の要素となるものがあり、各観客がそれぞれ求める付加価値に球場が応えているのだと想定されます。(以下、ダイヤモンドオンライン記事等を参照)
・食事を楽しむ
バーベキューをしながら観戦できる「エバラ黄金の味びっくりテラス」
・くつろぐ
専用スペースで50人までゆったりと観戦できる「ラグジュアリーフロア」
畳敷きの座面で観戦できる「鯉桟敷」
・変化を楽しむ
毎年数億円をかけて設備を少しずつ変える(ディズニー手法)
広島県を含む中国地方は、一部のエリアを除いて人口減少が進んでいます。90年代以降Jリーグをはじめとする野球以外のスポーツも盛んになりました。上記のような顧客と顧客に届ける付加価値の再定義がなければ、観客動員数2倍などは達成できなかったはずです。
北海道日本ハムファイターズの新球場も、今後野球の試合を中心としながらも、試合以外のエンターテイメント要素を取り入れた総合娯楽エリアとして発展していきそうな期待が持てます。
同球場の今後の展開に注目してみたいと思います。
<まとめ>
顧客と顧客に届ける付加価値を再定義できないか考えてみる。