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お手洗いの前の列

先日、ある方とお話をしていたときに、話題が転じて、お手洗いに女性の人が並ぶ背景についてお聞きしました。お手洗いの前の列は見慣れた景色で、最初は何気なく聞いていたのですが、たいへん示唆的だと感じるお話でした。

その方のお話によると、「女性用お手洗いと男性用お手洗いは、面積が同じ。また、各地の女性用お手洗いで設計者の多くが男性だったために、面積が同じ場合女性用に列ができる結果になるという問題に気がつきにくかったと言われている」ということです。

興味を持ったので検索してみて、「J-CAST ニュース」サイトにある「女子トイレには、なぜ行列ができるのか 真面目にTOTOに聞いてみた」の記事に目が留まりました。その方にお聞きしたお話と、同記事も参照しながら、女性用お手洗いに列ができる理由についてまとめてみます。(ただし、お聞きしたお話については出所が不明ですので、その点はご了承ください)

・女性用お手洗いは器具数が少ない:女性は全個室化が必須だが、個室は男性の小便器に比べて面積をとる。お手洗いが男女同じ広さで割り当てられた場合、女性用お手洗いに設置される器具数はおのずと少なくなる。男女同じだけの人数が集中した場合、器具数の差によって女性用お手洗いの回転率が下がる。「利用実態と器具数のアンバランス」が存在するということである。

・女性用お手洗いは滞在時間が長い①:たとえば小用の場合、男性はファスナーの上げ下げをする程度で用を足すことができるが、女性の場合は手順が多くある。女性のほうが荷物の置き場所にも手こずることが増える。結果として回転率が下がる。

・女性用お手洗いは滞在時間が長い②:個室は用を足す以外のことがしやすい環境でもあるため、携帯電話、メイク、さらには居眠りなど付随の用途で滞在時間が長くなる。このような行動は一部の人だけなのかもしれないが、ネット上に、「なんで駅のトイレの個室でメイクするの?」「お腹的にピンチのときに、女子トイレの個室で寝てる女子はお願いだから出てきて」などの書き込みも見られ、事象としてはある程度存在すると考えられる。

・男性が設計者であったことが多い:女性用お手洗いの列ができることで不便さを感じる直接の当事者でない人が設計を担当したために、このことを深くは想定せず設計に当たっていた可能性がある。「男性用・女性用で面積が同じなら平等」と考えることは悪くないが、その先の思考までは限界があった。

・他の影響とのバランスが求められる:器具数にゆとりをもって設置することが一番の解消策になるが、器具数を多くすれば、施設の中でお手洗いが占める面積が大きくなる。清掃作業などのメンテナンスの負荷も高まるため、一概に器具数を増やすという解決策もとりにくい。

改めて整理してみると、作り手側と利用者側の、双方の要因がありそうです。利用者側のモラルにも改善の余地がありそうです。

作り手側については、上記から2点考えました。ひとつは、「平等と公平の観点」をどのように考えるかです。

「平等と公平」については、以前も取り上げたことがあります。
平等のほうは、シンプルにみんな同じに扱うということです。公平のほうは、義務履行や貢献の結果に対して平らに扱うということです。

適当な例ですが、ある製造工程でAさん、Bさん、Cさん、Dさん、4人の労働者がいるとします。その日の製造計画は全体で10個でした。Aさんは4個、Bさんは3個、Cさんは2個、Dさんは1個作りました。作られたもの10個は、品質がどれもまったく同じで、基準を満たしたものでした。全部で10個製造できたので目標達成です。そして、10個の製造によってその製造工程で得られる利益が1万円だったとします。

この1万円を、2500円ずつ同額を4人が受け取るのが、みな等しく扱う平等です。

一方で、生産活動に対する貢献の大きさに応じて、Aさん4000円、Bさん3000円、Cさん2000円、Dさん1000円を受け取るのが、公平という観点です。

男性用と女性用と、お手洗い全体で同じ面積にするのは、平等だと言えます。そのうえで、それが公平と言えるのかどうかは、検討の余地があると思います。平等の結果として、「どこのお手洗いも女性が列をつくる」という事象につながっているからです。

例えば、女性用の面積を男性用より広く設計するようにすれば、「平等ではなくなるが、列が男女で分散されて公平に近づく」という別の結果に変えることができます。平等であるべきか公平であるべきか、「こっちのみが正解」というのはないと思いますが、公平のほうが妥当という考え方もありかもしれません。

ただし、男性用お手洗いでは数少ない個室の順番待ち時間が長いという別の現状もあります。面積が縮小して個室が減ってしまうと、この問題は大きくなると想定されます。対策を打つなら、こうした周辺領域への影響も考慮したうえで行う必要があります。

もうひとつは、企画者が広い視野を持つべきだということです。

企画者(この場合は男性設計者)が、利用者に関する一部の情報(男性側の状況)しか把握・想定できていないことが、上記の問題でひとつの要因となっています。

いろいろな角度から検討したうえで、「面積は男性用女性用で(公平よりも)平等をとる」と意思決定したのならそれはひとつのあり方ですが、意図しない不公平な結果や不便な結果をもたらしたとするならば、検討プロセスに改善の余地があったということになります。

そうはいっても、自分にない属性に関することをすべて網羅的に想定するのは、どんなに幅広い思考の持ち主であっても難しいことです。そこで、「自分にない属性の持ち主の意見を聞く」ということ、聞いたことからの気づき力が大切になってきます。組織活動における多様性の利点は、このような角度からも説明することができると思います。

平等と公平についてどのように考えるべきか。
広い視野を持って知見を集めた上で意思決定しているか。

私たちの身のまわりの組織活動で、応用できる視点だと思います。

<まとめ>
平等ではなく、公平の観点からも考えてみる。


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