【小説】タイムマシンに乗って ①
ー序ー
ぼくにとってのこの場所は
小さなころからの憧れ。
この境界線を一歩越えたら
ぼくが密かに想ってきた
願いが叶う。魔法がかかる。
そう、信じているんだ。
さて。
今日はどんな願いを
叶えよう。
そうだ。
タイムマシンで、過去を旅しよう。
大丈夫。
あなたも連れて行くよ。
さあ。
ぼくと一緒に、あの日の僕に
会いに行こう。
-ぼくのはじまり-
あの日、ぼくの夢が壊れてしまった。
夢を叶えるだけの代償は
あの頃のぼくにはあまりにも、重すぎて。
掴むために必死で進んできた道は
あの日突然、目の前で崩れ落ちた。
それから。
ぼくはそれまでの僕を捨てて
仮想の海の中に身を潜めた。
ぼくのことを知られてはいけない。
時効を迎えるその日まで。
もう、あの世界には戻れない。
いや、戻りたいとも思わない。
でも。
ぼくは、ただ、歌いたかった。
新しい名前を名乗り
素性を隠して
小さなライブハウスの
ステージに立った。
それが僕の、今のはじまり。