古典とPIXY

#忘れられない一本
私が高校時代、ものすごく字のきれいな古典の先生がいた。男性で、硬式テニス部の顧問でテニスの大会の賞状は彼が書いていたらしい。私が初めてその先生の字を見たのは高校1年生の中間考査。初めて見たときはあまりに整っていて一見するとパソコンやワープロで打った字で書体を変えられるのかと思った。その後それが人の書いた字だと知って本当に驚いた。それからテストの模範解答を見たり授業後の黒板を見てこんな字を書けるようになりたいと思って練習した。その後学年が上がって黒板やテストの模範解答を見る機会は増えた。それから思うようになった。「あの先生、どんなペン使って書いているんだろう?」ノートをとったりするときに一番使うものが多い筆記用具と言えばシャープペン。胸に挿していたペンを覚えておいてそのシャープを買ってみたり。でもそれを使い続けているわけでもないらしい。ユニ?パイロット?ゼブラ?色々と考えた。ある日進路指導室に行くとその先生は自席で現代文の評論の教材研究をしていた。そこで見た。水色のシンプルなシャープペンだった。ただ何も書かれておらずグリップの形は不自然だった。どこかで見覚えがあった。だが思い出せない。高校最後のテスト前、学校近くにある古い文房具屋に寄った。そこで見つけた。

「これだー」ぺんてるのPIXYだった。

グリップが不自然な形だったのは多分長年使い込んでチョークや皮脂で汚れ結局取ってしまったんだろう。記憶だとその先生と同じ水色が1本だけあってあと黄緑が数本あったはずだ。水色1本と黄緑を2本買った。これで書く古典のテストが楽しみだった。古典のテストの点数はよかったがそれ以上に、卒業前にそのシャープペンを見つけることができたほうが嬉しかった。その後思い出した。このペンのピンクを母が持っていたのだ。その時母は書きやすいシャープペンだと言っていた。

私もその後就職に失敗し「理転」したりその後勤めた会社では人員整理の対象になったりと生活はなかなか思うようにはいかなかった。だが今で文字を書くのは好きだし当時のその古典のテスト解答を見ながらPIXYで練習すると気が落ち着く。当時買ったPIXYはきれいな状態で残っている。このペン、また販売したらシンプルだしグリップも握りやすいし結構人気出ると思うんだけどな~。

このペンを手に入れられた喜びはあるが一つだけ心残りがある。それはその古典の先生に習いたかったのだが3年間その先生から現代文や古典は1回も習うことができなかったことだ。一度でいいからあのきれいな字の板書を見ながらノートをとりたかった。もちろんPIXYで。もし1回だけ私の憧れの先生から習えるチャンスがあるとしたら内容は古典なら「源氏物語」や「平家物語」ではなく鴨長明「方丈記」、現代文ならその先生が高く評価していた丸山真男『「である」ことと「する」こと』を習いたい。二度と叶わぬ夢だけど。

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