【地の果て】東京湾の最前線「令和島」に公共交通機関で上陸する
令和島。2019年に町名を与えられたばかりの、コンテナが支配する人工島である。人口は0人、南半分には荒涼とした更地が広がる最果ての島だ。
一定の知名度はあるようだが、ネット上にはアクセスに関する詳しい話が一切見当たらない。特に交通機関でのアクセスは少々困難であるが、本日学校の物好きを集めて上陸に成功したので、訪問記録も兼ねて紹介したいと思う。
令和島について
令和島は、東京湾にゴミを埋め立てて作られた人工島である。中央防波堤よりさらに外側に位置し、緯度においては大森や平和島と同じくらいである。
つい最近まで帰属未定だった場所であるが、2019年に大田区の一部となることが決定、元号をとって「令和島」の町名が与えられた。
今もなお東京湾埋立の最前線であり、定住者は存在しない。北側には有名企業のコンテナ基地が、南側には荒涼とした更地が広がり、印象の強烈な土地である。
昨年、羽鳥写真館さんのツイートで知って、当時から憧れていた令和島。しかし、車で行くには簡単なのだが、公共交通機関での上陸には入念な下調べと体力・精神力が必要なのである。具体的には、
・中央防波堤までの橋や海底トンネルは、どれも自転車・歩行者の通行が禁止(徒歩のみでのアクセスは困難)
・唯一のアクセス手段は中央防波堤行きの都営バス。ただし土日は本数が少なく使い物にならない(上陸できるのは平日に限られる)
・バス停から令和島に通じる道はいくつかあるが、歩道が使えるのはそのうち1本だけ。道路を渡るために1km以上の迂回を強いられる場面もある
といったような様々な障害がある。
本来人間が生身で立ち入ることは想定されていない場所であるが、そこを何とか攻め落としてやりたいものである。こんなことを考えているのは私だけだろう……と思ったのだが、私が学校で運営する「地域振興研究会」の雑談部屋で同行者を募ったところ、なんと4人の物好きが集まった。恐ろしい話である。
実際に行ってみると、下準備をすれば我々一般人でも十分到達可能ということが分かったので、ぜひ皆さんにも共有したいと思った次第である。
令和島の行き方
(1)バスで中央防波堤へ
自動車を除いた唯一のアクセス手段である都営バスは、東京テレポート駅・テレコムセンター駅から出ている「波01」である。土休日の本数はほぼ皆無であるが、平日にはそれなりの本数がある。
なお、令和島を含む中央防波堤周辺には自販機やコンビニは一切ない。出発の前に一通りの水や食事を揃えておこう。
令和島の最寄り停留所は、終点の中央防波堤ではなく、一つ手前の「環境局中防合同庁舎前」である。バスは第二航路海底トンネルを抜け、10分ほどで現地に到着する。
なお、いくら人気のない令和島とはいえ、その玄関口の中央防波堤までは通勤客も多い。特に朝夕は混雑するので、折り畳み自転車などは避けた方が無難だろう。
バスを降りたら後方に進んで突き当たりを右折する。続いて正面に現れる交差点を左に進むと、橋を渡った先が令和島である。
(2)令和島に上陸、臨港道路を渡る
橋の名前は中防大橋といい、袂の交差点には歩行者信号がある。1年ほど前のストリートビューでは、工事中で歩道が封鎖されているようにも見えたが、現在は両サイドに歩道がある。ただし、橋に向かって左側(東側)の歩道を進むと、先の交差点で八方塞がりとなるので、ここは確実に右側(西側)の歩道を選びたい。
橋を渡った先で、東京臨港道路という広い道路と交差する。自動車ならば何も考えずに真っ直ぐ進むところだが、流石はトレーラーのためだけの島、交差点に横断歩道がないのである。
無理な横断をすれば命の危険もあるので、ここは右に折れて大人しく側道を迂回しよう。
臨港道路は右折した先で海底トンネルに入り、その奥で側道がUターンをしている。距離にして往復1km、15分近く歩いて元の交差点に戻るのはなかなかに辛いものがあるが、この大迂回を終えれば晴れて大田区に入ることができる。交差点の反対側では、「令和島一丁目1」の真新しい標示が出迎えてくれる。
(3)枯草の中の2車線道路
再びもとの道に戻り、西側の歩道を10分ほど歩いていくと、横断歩道のある交差点が現れる。正面の「最果て感」も気になるところだが、まずは道路を渡って、左側に分岐する道から見ていこう。
左側の道は、原付及び軽車両の通行は禁じられているが、歩行者については何も記載がない。脇の草むらのような場所を歩けば、安全に奥まで進むことができる。
しばらくすると歩道らしきスペースが復活し、道路は左にカーブしてゆく。正面のフェンスの奥は現役の処分場の中。空が異常に広く、東京らしからぬ情景である。
何もない荒野を突き進む道路は絵になるが、この先に行っても何もない。頑張って端まで辿り着いても、臨港道路にぶつかって八方塞がりになるはずである(ストリートビューでのみ確認済)。
深追いせず、良い頃合いで引き返すことにする。
(4)東京湾の最南端、最果ての情景
さて、残るは先ほどの交差点の先、見るからに未完成の道路である。
広大な中央分離帯には草一本生えておらず、最果てらしい異様な雰囲気である。両側の歩道のどちらを進んでもよいが、マナーの悪い運転手がいるのか、歩道には結構な量のゴミが散乱している。
顔をしかめつつ進んでいくと、道路は強制的にUターンとなり、事実上の「終点」が見えてくる。
フェンスの向こうは文字通りの「荒地」で、地平線が見えるのではと思うほどである。遠くで実際に海面を埋め立てているらしい。
ここは一般人の到達しうる、東京湾の陸地の最南端。津軽や下北にも劣らぬ最果ての地である。
この景色を見るために延々歩いてきたといっても過言ではない。ひたすら印象的で、しかし虚無の景色である。
令和島はおもしろい
私はこの日、日本橋から霊岸島(新川)、月島、晴海、豊洲、有明と、東京湾の埋め立ての歴史を辿るようにして歩いてきた。それだけに、終点に辿り着いた時の達成感はひとしおであった(帰り道、例の大迂回で心が折れかけたのは言うまでもないが)。
そして、その「最果ての地」に停泊する貨物船、積み上げられた中国語入りのコンテナ、列をなすトレーラーなどを眺めていると、「ああ、日本の物流はこうやって動いているのか」と妙に感動的な気分になる。ゴミの処分場といい、よい社会勉強だ。
大田区の公式サイトによれば、令和島という名前は「空港臨海部の次代に向けて輝く未来を象徴するもの」らしい。何か活力が湧いてくるような場所である。
東京都大田区、令和島。
家族や友人、恋人と一緒に、一度行ってみてはいかがだろうか。
(記事は訪問時=22/07/22現在のものです)