【台湾は中国からの企業撤退を支援する、とは明言していない。 渡邉哲也氏の投稿をファクトチェック 】
渡邉哲也氏「台湾政府は中国からの企業撤退を支援すると発表しました。」
⇒ 以下、このご発言についてのファクトチェックです。
1 まず渡邉氏の情報源と思われるロイターの発信を確認しました。
・ロイター日本語版
「台湾の郭智輝経済部長(経済相)は7日、トランプ次期米大統領が中国に関税を課すと公約していることに絡み、影響を受ける可能性がある企業が中国から生産拠点を移転するのを支援すると表明した。」「できるだけ早期に台湾企業が生産拠点を移転できるような支援策を打ち出す」
・ロイター英文版
“Speaking in parliament, Kuo said the impact of any Trump tariffs on China for Taiwanese firms manufacturing there would be "quite large".
"We will as soon as possible come up with help for Taiwan companies to move their production bases," he said, without giving details.
⇒ ロイターは渡邉氏と同じ主旨のことを発信しているようです。
2 では、台湾の経済部長 郭智輝氏ご本人はどのように発言したのか?
中国語原文で見ていきましょう。
★7日の立法院(国会)での郭氏、
原文:「針對川普對產業面的影響,川普一向主張『美國優先』的單邊主義,勢必對全球自由貿易產生影響,川普研擬針對中國產品加徵60%關稅,對台灣或其他國家則是加徵10%至20%不等關稅,我認為應該是對我們在中國的台商,影響會比較大,至於台灣與其他國家則因為大家被課的稅都一樣,不太會有太大影響。」
日本語訳:「トランプ大統領の産業界への影響に関しては、トランプ大統領は常に『アメリカ第一主義』の一国主義を主張しており、これは世界の自由貿易に影響を与えることは必至であり、中国製品に60%の関税を課し、台湾やその他の国家に対しては10%から20%の関税を課すことを計画している。中国にいる台商にとっては、より大きな影響があると思う。台湾やその他の国に関しては、誰もが同じように課税されるため、大きな影響はありそうにない。」
★続いてインタビューに対し、
原文:「恭喜川普當選美國總統,經濟部不是只有等著接招,對於各種情況變異隨時都有掌握,且對未來川普各項經濟政策,都有各種不同的因應模式,請國人放心。」
郭氏「トランプ大統領当選おめでとうございます。経済部は大人しく待ってるわけではない。常にさまざまな状況の変化を把握しており、トランプ大統領の今後の経済政策についてさまざまな対応モデルを用意していますので、国民はご安心ください。」
★どのように対応?経済部は我が国の産業を強化するためにどのような重要なことをしているのか?との問いに対し、
原文:郭智輝表示,協助出口產業趁這個市場改變的機會,強化國際競爭力。
日本語訳:「輸出産業がこの市場変化を活用し、国際競争力を強化できるよう支援する。」
★記者の「トランプ大統領の当選で、中国に駐在する台商の台湾回帰が加速するだろうか?との問いに対し、
原文:「你的看法非常正確,並表示對於台灣與美國的貿易,他上任後不久就有推動『境外關內』,準備要把一些供應鏈帶到海外去,這些都是因應方式。」
日本語訳:「あなたの見方は非常に正しい。台湾と米国の間の貿易に関して、自分が就任(2024年5月20日)してしばらく経ってから『境外關內』(企業を海外へ)を推進し、一部のサプライチェーンを海外に持ち込む準備をしている。」
★そして、大陸委員会は7日の定例記者会見で、副主委兼スポークスマン梁文傑の発言、
原文:「這恐使台商評估是否撤出中國大陸,提醒台商做好市場分散、全球布局等規劃。」
日本語訳:「これは台商が中国大陸から撤退するかどうかを検討することを招く恐れがある。市場の分散と全地球的な配置の企画をするようにと念を押します」
⇒ 上記の他、台湾の行政院や経済部のページも見てみたが、台湾企業の中国撤退を積極的に支援をする、との主旨の発表は見当たりません。
3 結論
⇒ したがって、本件はメディア(=ロイター)の中国語からの翻訳ミスだと結論づけます。
最後に、番外編ですが、
前述の台湾の郭経済部長は、3週間前に実は、とんでもない発言をして翌日に慌てて撤回したという事件がありました。
「AIT(注)の協力を得て、フィリピンで発電所を作る話がありましてね」と郭氏は発言。
しかしながら、あまりにも唐突で、実行できそうにもない計画に対し、世論が騒然。
(注:American Institute in Taiwan。米国在台湾協会)
翌日、本人は慌てて「自分はまだ経験不足でして」「自分が時々今は社長ではないことを忘れて」と謝罪し、発言を撤回した。
しかしこの発言、裏の実情はどうであれ、
① AITを怒らせた可能性がある。
②台湾の電力不足の現状を公的に認めたとも捉えられる。
この発言の後、経済部長 郭氏は、近いうちに更迭されると噂されている。
以上、玉山のファクトチェックでした。
(多くのメディアや政府サイトを参考した。一部の参考サイトを貼ります。)
https://www.rti.org.tw/news/view/id/2226984
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