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ぬちぐすい。それは命の薬。【4月沖縄旅行物語】Vol.3

「よーし、ついた。ここが道の駅か。なんて読むんだろう。きょだ、かな?」

那覇でレンタカーを借りて沖縄自動車道の西原ICから高速道路に乗り、
渋滞に捕まることもなく、終点の許田ICまで約1時間。
里央と隆はインター出口からすぐの場所にある道の駅許田に到着した。

「最初の食事は沖縄の郷土料理にしたいなぁ。」
「私は沖縄そば〜楽しみだなぁ〜♪」

4月上旬に二泊三日の初めての沖縄旅行に出かけた里央と隆。
沖縄北部の名護市にある道の駅許田へ、ある目的を持って到着したのである。
それはこの旅での初めての食事と、もう一つ。
ある重要なアイテムを手に入れるために。


予定をしたのは1月。付き合って2年以上経った二人は、未だ本州から出たことがない。
その事実に気づいてしまった里央は、隆に有給休暇の取得をねだった。

「沖縄に行きたいの。」
行ったことがない沖縄、何がどこにあるのかもわからないのは不安だが、
それこそがこの二人の関係に刺激を与え続けてくれている。
「よし。いこう。」

隆は次の日には有給休暇の申請をして、二人分のフライトを確保した。
1日目の金曜日はレンタカーを借りて高速道路を使って県北部に向かった。
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少し早めの昼食をとることにした二人が選んだのは、観光センターの裏にある沖縄料理の店「ぬちぐすい」だ。
沖縄の方言で”命の薬”という意味らしい。

店の中に入るとすでに二組のグループがメニューを見ながら悩んでいた。
時間は11時を過ぎた頃。ランチにはまだ早い時間帯。
だが地元の会社員と思しきグループが、慣れた雰囲気で料理を注文して行く。

地元の人がランチを食べに来る店だ。これは間違いない。
隆は心の中でガッツポーズする。
店内は奥に座敷席と、手前にテーブル席がある。

「わー、すごい!いい雰囲気。ご飯なににしようかなぁ。」
「沖縄そばにするんじゃなかったの?」
里央はレンタカーの車内で沖縄そばを食べると宣言していたが、
食堂に入るやそのことを忘れたかのような言動をする。

「えー、だってこんなにたくさんメニューがあるのに!」
ぬちぐすいのメニューには定食がたくさんならんでいる。
沖縄そば系、沖縄郷土料理系、カレー、ハンバーグ、、、、
あれ、この店大丈夫か?
メニューのバリエーションが多すぎて隆はちょっと心配になる。

それでも隆は多くのメニューから、少しずつたくさんの種類を食べたい二人にぴったりの定食を見つけた。
「よし、それじゃあ俺はぬちぐすい御膳にするから、里央は沖縄そばにしたらいいんじゃないか?」

「うん、それ賛成。そしたら両方食べられるもんね!」
里央と隆はいつもこうしてなるべく多くの種類を二人で食べられるように頼んでシェアをする。
そうすれば常に一度で二度美味しい。

店内には手作り感が漂う物販コーナーがあり、島とうがらしを泡盛に浸けた調味料や沖縄のお茶、黒糖など、特産の商品が所狭しと並んでいる。
そのどれもがリーズナブルなお値段だ。

店内を見渡しているうちにすぐに料理が運ばれて来た。
ぬちぐすい御膳はいくつかの小鉢がおすすめで組み合わされており、
沖縄の混ぜご飯”ジューシー”とお味噌汁がついていて、お値段1350円。

里央の沖縄そばは700円だが、とても豪華なそばだった。
ソーキ、三枚肉、軟骨肉が乗っている。
「すごい!肉!」


「こっちもすごい、小鉢がいっぱい!」
二人は沖縄料理のボリュームに期待を膨らませる。
「いっただきまーす!」

ぬちぐすい御膳はおから、みみがーと昆布の和え物、
もずく酢、ラフテー、ゴーヤのサラダ、島豆腐、そして海ぶどう。
これらの小鉢が御膳の上に並べられていて、どれから食べようか迷ってしまう。

一つ一つは醤油ベースの味付けで、食材そのものの味を大切にしていると感じた。少し甘いものの、しつこくなく、油っぽいものは少ない。
普段、東京の外食に慣れてしまった隆には懐かしさを感じさせる味わいである。
「沖縄が長寿な理由がわかる気がする。」

里央の沖縄そばはそれぞれの肉の一つ一つが大きく、ダイナミックにそばの上に乗っている。
「チェンジする?」「OK」

いつものようにお互いの料理を交換し、隆もそばをすすった。
少し縮れた沖縄そばの独特の麺が、さっぱりとして、それでいてコクのあるスープによく絡み、食べ応え十分な肉が合間って口の中で一つのハーモニーを作る。うまい。

「私ね、もずく酢と海ぶどう大好きなの。ここの本当においしい!新鮮!」
里央がもずく酢と海ぶどうをそんなに好きだとは知らなかった。
嬉々として食べている。隆からすればそこまでテンションの上がる食材ではないのであるが。

「ねぇ、私これ、全部食べていいの?」
気に入った食材の小鉢を平らげてしまう里央。
「その代わり、肉食べちゃっていいよ。私もう食べたから。」

隆はそういわれて喜ばしかったが、それと同時にこんな風にも考えた。
(もう肉には飽きて、他の残った肉を食べさせたかったのではなかろうか。俺が肉を食いおわったらやっぱりそっちがいいって言いそう)

「ねー、隆、最後にそば食べたい。」
「はいよ。(やっぱりね)」
隆は自分のオーダーした料理も相手のオーダーした料理も、最後の一口を食べられないことが多い。

三人兄弟で育った隆はいつも食べ物の争いに戦い、時には勝ち、時には負けてきた。
戦略上、取るべき手段は「先手必勝」だ。
食べたいものは先に食べてしまう。食べられる前にだ。

それができなければ、食べられないことに不平不満を言っても後の祭である。
やらなければ、やられる。食べなければ食べられる。先に食べたものが常に勝者なのだ。

しかし、そうであっても料理の最後の一口とは、食事における儀式のようなものであるような気がする。
味噌汁を飲み干す時、最後に残った唐揚げを食べる時。
天丼で最も最後まで生き残ったエビ天よろしく、最後の一口は食後の余韻を決定づける大切なイベントである。

ぬちぐすい御膳は小鉢がたくさんあるため、何度かの”最後の一口”を経験できる。定食の幕の内弁当や。
頭の中でとあるグルメリポーターを思い出した。

さて、ひとしきり舌鼓をうち完食後、お茶を飲んで食休みをした。
このお茶がまたおいしかった。店内で売られているらしい。
商売っ気がたくましいと思ったが、見に行ってみると値段は良心的だった。
商売人としての気質があるが、余分なものまで取ろうとしないのだろうか。
沖縄人の心意気を垣間見た気がした。

「ごちそうさまでしたー。」「はい、ありがとね。」
食堂のおばちゃんも気さくで、ちゃきちゃきしていた。
隆が店から出て行く時、里央がおばちゃんと少しだけ話をしていた。
何を話していたかはわからないが、二人とも笑顔で良い表情だった。

大満足の1回目の食事を終えて、お腹いっぱいになった二人は隣接する建物へと向かう。
ここにきたもう一つの目的。
そう、美ら海水族館の割引チケットを購入するためだ。

サーターアンダギーやかまぼこなど特産品を売る屋台のようなお店が通路に所狭しと並ぶ。
「すごい!たくさんお店がある!なんか買って帰ろうっと。
 と、その前にチケットチケット!売り場はどこかなぁ・・・
 あ、矢印でチケット売り場までの順路がかいてあるよ!」

屋外から土産物を売っている道の駅の店内を通すあたり、
客導線をしっかり意識している。チケット売り場はみたところ、最も奥のカウンターに位置している。

さまざまな土産ものが売られている。
タコライス風味ふりかけ」なる珍しいふりかけもある。
ちんすこうを始め、甘いものにも事欠かない。
あれやこれやと肩を詰めあって並んでいる。

そんな店内を通って奥にあるチケット売り場に到着した。
美ら海水族館の割引チケット。
定価は大人1850円のところ、なんと1600円で購入できる。
二人分で500円の割引だ。素晴らしい。
ここの事を知らなければ二人分で500円多く支払うことになったのだ。
この500円は大きい。

チケットを購入したあと、いくつかのお土産を購入して、
二人はレンタカーに戻って来た。

少し眠い。
隆はお昼ご飯を食べて眠気を感じていた。
そういえば、昨夜は出発の2時間前まで仕事していたため、1時間半しか寝ていない。どうりで眠いわけだ。
だが、仮眠をとったら数時間でも寝てしまいそうだ。
今は時間が惜しい。

「よし、美ら海水族館へ向かおう!」
カーナビで美ら海水族館を調べる。許田から40分程度。
海岸沿いを走るルートだった。

少し走り始めると曇り空が雨を降らせ始めた。
曇り空でも海はエメラルドブルーだ。
白い砂浜と南国特有の立ち木が連なる。

隆の眠気は取れない。どんどん眠くなる。
外の雨は降ったり止んだりだ。
途中、あまりの眠気に隆は車を止めて砂浜に降りてみることにした。

「砂浜に降りてみよう。」
里央に心配をかけさせないように車を車道の脇に止めて砂浜に促す。
雨は幸いにもやんでいた。
降り立った砂浜は少し粒の大きいサンゴの砂浜だった。
水分を多めに含んだ海風が、隆のほほを通り過ぎて眠気を覚ましてくれる。

誰もいない砂浜に素足で降り立ち、波打ち際で足を入れてみる。
このとき、隆は初めて沖縄の海に入った。
これが沖縄の海か。隆は感慨深かった。

まだ少しひんやりとしている。4月の沖縄の海は、海水浴にはまだ早いらしい。広い砂浜で二人は写真を撮ったり景色を眺めたりしてひとしきり楽しんだ。初めての沖縄の海に少し興奮した隆は眠気が覚めて少しだけ頭がスッキリした。

「よし、いこう!」

カーナビに従って車を走らせていく。
看板が美ら海水族館に近づいていることを示している。
美ら海水族館は、国営沖縄記念公園海洋博公園内にあるようだ。
公園の中にある水族館だったとは。予想だにしなかった。

到着した時間は13時過ぎ頃。
駐車場には車がたくさん停まっていて、観光バスも大量に停車していた。
公園の入り口に門があり、シーサーが2匹門の柱の上に立っている。
正門は丘の上にあり、公園内が上から一望できた。

園内はバスで来た観光客で賑わっている。
外国からの観光客が多数だった。色々な言語が飛び交っている。
「まるで海外のリゾートに来たみたいね。」

海外のリゾートにしては綺麗すぎるかな。
隆はよく整備された公園内の美しさに驚いていた。
花壇の花、道にはゴミひとつ落ちていない。

海洋博公園はよく整備されたテーマパークのようだ。
”めんそーれ海洋博公園へ”と書かれた花文字が二人を出迎えてくれた。

公園内は広大だったが、人の流れができていたのでどこに水族館があるのかすぐにわかった。
階段を下り、平屋の建物を回り込むように歩いていくと水族館が見えて来た。
入り口には大きなジンベイザメの像があった。

「写真撮ろう!いえーい!」里央は妙にハイテンションだった。
隆は眠い。限界が近い。しかし、カメラを向けられるとどうだろう。
ちゃんと目が開いているのだから不思議だ。

水族館の入り口でひとしきり記念撮影をした二人は水族館の中に突入してく。
白い大理石でできたエントランスを通り過ぎ、機械の入場ゲートにチケットを入れる。
自動的にチケットの半券が切られた。近代的だ。

「おお!チケット半分切られた。」びっくりした顔でお互いの顔を見合わせる。
「すごいな、人がたくさんいるなぁ。建物けっこうおしゃれだな。」
隆は水族館に入って少しテンションが上がったようだ。そう、だが眠い。

「あ、今日の催しのスケジュール書いてある!ちょっとみてみよう!」
ほぼ1時間刻みで様々なところでイベントが催されているようだ。
里央は時間を入念にチェックしている。

隆は眠くて文字の内容が頭に入ってこない。
「オーケー!いこうー!」
里央が先導してくれる。ありがたい。

「ねー、見てみて!あそこ、タッチできるコーナーじゃない?」
入り口すぐには浅瀬の海洋生物を触って体験できるコーナーが展示されている。
ヒトデやナマコが浅い水槽に入っていて、上から手を入れて触ることができるのだ。
「里央、触っておいでよ。」
「えー、ちょっと、怖いなぁ。」

里央は人垣の後ろから入れ替わるようにして徐々に前へと進んでいき、
やがて最前列で独特の模様をした大きなヒトデと対峙する。
隆は正直、触りたくないなぁと思っていた。

「うー、こわい。」
恐る恐る手を入れてヒトデに触る里央。
「あれ?硬い。隆、このヒトデ、表面が硬くてザラザラしてる!岩みたい」

どうやら里央の想像していた触感とは異なる触感だったようだ。
隆は珍しそうに触る里央を動画で撮影していた。
意識は半分くらいは朦朧としている。
本当に眠い。

浅瀬のコーナーの次はサンゴの海、熱帯魚の海と続く。
サンゴ礁と色とりどりの魚たち。
アニメで有名な家族とはぐれた熱帯魚の友達の青い熱帯魚や、泳ぎが下手そうなカラフルな魚など、たくさんの魚たちが二人を迎えてくれた。

「すごいねー!ずーっと見ていられるね!」
里央は小さな子供たちに混じって最前列で上をみたり右をみたりしていた。
大きな水槽に所狭しと泳ぎ回るカラフルな熱帯魚たち。
本当に見ていて飽きない。

「ねーねー、写真撮ろうよ!」
人気がいなくなったところを見計らって大きな水槽の前で写真を撮った。
水槽から漏れてくる光は二人を青白く照らして、普段より少しだけ幻想的だ。

マングローブの海を模した展示や、水辺の生き物などの展示が続く。
薄暗い通路を歩いて行く。道は斜めにスロープになっており、下へ下へと進んで行く。
あたりは徐々に暗くなっていき、まるで深い海の中に入って行くようだ。
どんどん進んでいくと、もうほとんど通路に明かりがなくなった。

前をいく人たちのおかげで曲がり角があることがわかる。
暗い通路を曲がると、突然、視界が真っ青になった。
「うわ、これは、すごい。」
隆は思わず感嘆の声を出していた。

その空間はとても広く、そして青かった。
美ら海水族館でもっとも大きい大水槽。
黒潮の海の登場である。

たくさんの人がいる。それでもなお、広さを感じる空間に、まるで映画館のスクリーンのような大水槽が視界を埋め尽くす。
「すごい!でかい!なんてでかさだ!」
さっきまでまぶたを擦りながら写真を撮っていた隆はテンションが一気に上がり眠気が吹き飛んだ。

人間は本当にすごい光景に直面すると言葉が出てこなくなる。
大水槽の中では体調10m近くはあるであろうジンベイザメが悠々と泳いでいた。そしてマンタやエイ、マグロなど人間よりも大きな生物たちが隙間を埋めるように泳いでいる。
今ここで、目の前にいる魚たちが飼育されているとは信じられない光景だ。

「隆!すごい!ジンベイザメ2匹もいるよ!やっと会えた!」
この旅で1つ目の大きな目的であった、ジンベイザメとの対面を果たした。
旅に出る前からずっと里央は楽しみにしていたのだ。

青い光に照らされた彼女の横顔は満足気な笑みをたたえて、瞳がキラキラと輝いていた。
隆は里央の横顔を見ながら、沖縄に来られてよかったなと思った。

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道の駅許田
http://www.yanbaru-b.co.jp/

沖縄料理ぬちぐすい
http://nagonuchigusui.com/

タコライス風味ふりかけ
https://okiham.shop-pro.jp/?pid=17444550

美ら海水族館
https://churaumi.okinawa/











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藤木晋之助
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