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腱板断裂 -分類と病態を見極める-

どうも肩関節機能研究会の郷間です。
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今回は腱板断裂の分類と病態についてまとめました。
腱板は断裂形態やそのサイズによっても病態が大きく異なりますので、それらがどのように臨床に落とし込まれていけばいいのかを解説させていただきます。


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では早速ですが、腱板断裂は不全断裂(部分断裂)と全層断裂の2種類に分けられます。

部分断裂は斜位前額面(肩甲骨面上でみる前額面)からみて深層から浅層のうちいずれかが断裂している病態を指し、全層断裂とは深層から浅層まで全ての層が断裂していることを指します。


では、部分断裂についてもう少し細かく説明します。
部分断裂は副題にもあるように深層か、浅層か、層間かというところを注目してみます。
深層断裂はAST(Articular side tear)ともいい、関節面側の部分断裂を意味します。
次に浅層はBST(Bursal side tear)ともいい、滑液包面の断裂を意味します。
なかでもASTは内因性の断裂、BSTは外因性断裂が多いと報告されています。この辺りは後程紹介します。
そして最後にDelamination、層間剥離は文字通り深層と浅層の間が剥離してしまう病態です。こちらの発生機序は不明ですが、腱板の一次修復術後の再断裂リスクになる、と言われています。


続いて全層断裂の分類です。
全層断裂は斜位前額面(Oblique Coronal plane)で確認出来たら斜位矢状面(Oblique Saggital plane)に移ります。
全層断裂はSmall、Medium、Large、Massiveの4つに分けられ、それぞれ1㎝以下、1-3㎝、3-5㎝、5㎝以上と断裂のサイズで判断します。
ではなぜ腱板筋はほかの筋肉と比べて断裂してしまうのでしょうか?
ここからは腱板断裂の発生機序を解説していきます。

では、腱板はなぜ切れるのでしょうか?
腱板断裂の機序について解説します。


腱板断裂の発生機序は大きく分けて内因説と外因説の2つがあります。
まずは、外因説です。外因説はインピンジメントや転倒などの外傷、大結節骨折後の変形治癒などが挙げられます。
次に内因説です。内因説は応力集中による変性や喫煙などが挙げられます。


ちなみに内因性である応力集中は関節面側の断裂(AST)に生じやすいと報告されています。
内因性で多いASTは外転角度が増すにつれて応力集中が関節面側の付着部(黄色の部分)に移動すると報告されています。
臨床的には、棘上筋腱の関節面断裂の部位と一致することがわかります。
関節面側の腱板断裂が生じると、日常生活で肩峰下インピンジメントなどの外因性ストレスが生じていないとしても、挙上するだけで負担がかかっていることがわかります。


ここで重要なのが断裂の拡大機序です。
滑液包面断裂(BST)の場合は、内外転運動に伴う応力集中は見られません。
つまり、外因性の肩峰下インピンジメントなどの機械的なストレスによって拡大はしますが、衝突さえしなければあまり断裂サイズは拡大しません。
一方、関節面断裂(AST)は断裂の底に応力集中がみられます。つまり、内外転運動を行うだけでも断裂部に負担がかかることがわかります。
また、全層断裂の場合は、断裂部分の前縁と後縁に応力が集中するため、断裂サイズの拡大につれて徐々に応力も増大していきます。
このような徐々に前後で広がる断裂のことを断裂拡大、ジッパー現象とも言います。


では断裂サイズと病態についても解説します。
断裂形態や断裂サイズと病態、症状に関する報告は非常に多くあります。
上のスライドにあるように、断裂サイズと症状・病態は正の相関を示します。
様々な要素が関わりますが、断裂サイズが大きければ症状、つまり疼痛も強くなります。
これは全層断裂の断裂サイズとの関連になります。


ということで、ここまで腱板の断裂形態や病態について紹介してきましたが、そもそもどの部位のどの程度の断裂が多いのか?という点を確認していきたいと思います。
キムらの大規模調査によりますと、腱板の断裂幅は平均して16.3±12.1 ㎜(中断裂)が最も平均的な断裂サイズであると報告しています。
また、断裂好発部位は上腕二頭筋腱から約15 ㎜後方の部分が好発部位であるとも報告しています。
つまり、上腕二頭筋長頭腱の約15㎜後方にあたる棘上筋-棘下筋間の中断裂が最もポピュラーな断裂であるということがわかります。


ここまでで断裂の話がたくさん出てきましたので、さらっと一覧表にしておさらいしておきたいと思います。
全層断裂は小断裂、中断裂、大断裂、広範囲断裂の4つに分けられ、不全断裂は滑液包面断裂、関節面断裂、腱内断裂の3つに分けられます。


そして先程解説したように、断裂形態によって病態も変わってきますが、全層断裂と不全断裂によっても病態が変わります。
実際に、疼痛、肩関節痛に関しては全層断裂よりも不全断裂が、更に拘縮に関しても全層断裂よりも不全断裂の方が症状が強いとされています。


また、不全断裂である関節面断裂(AST)、滑液包面断裂(BST)、層間剝離(Delamination)の中でも多少病態が変わりますので簡単に紹介させていただきます。
ここで覚えていただきたいのが“被覆断裂”という用語です。
被覆断裂は浅層の腱板が覆い被さることで、深層で腱板が断裂しているにも関わらず、断裂が判断しにくい(判断できない)状態のことを言います。
では被覆断裂にはどのような臨床的な特徴があるのかをみていきたいと思います。
被覆断裂は他の断裂と比べて夜間痛や動作時痛、可動域制限が強い傾向にあると報告されています。
このように全層断裂か部分断裂か、全層ならどのサイズの断裂なのか、部分断裂ならどこの断裂なのかを把握しておくことが非常に大切です。
ではこれらの断裂の形態・特徴を踏まえたところで少し疫学的なお話をしていきたいと思います。


みなさんは腱板断裂がどの程度の割合で発生しているかはご存じでしょうか?
こちらのグラフを見ていただくとわかるように50代で10%、60代で約20%、70代で約30%が腱板を断裂していると報告しています。


私がよく患者説明で使うのが、70代の方でしたら、3人に1人が断裂していますので、
『Aさんが100人の同窓会をしたとしたら33名は断裂しています』と説明しています。
腱板断裂というのは決して“稀な病気”ではないことを説明することが大切だと思います。


ではここからも非常に大切なポイントをお話しします。

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