就職氷河期世代活躍支援を成功させるために【中編】~集中支援プラン1年目の振り返り~
▶就職氷河期世代支援・集中支援プラン1年目!
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初職からほぼ一貫して就職氷河期世代支援にあたってきたわけで、この間、失われた10年、リーマンショック後の奈落の底と、就職氷河期世代にとって苦難の時代を、同世代として、支援者として、ともに歩んできました。
2019年度から、政府が就職氷河期世代支援の集中支援を行うことを決める中で、私も東京でさまざまなコミュニケーションを図ってきたわけでしたが、その活動の背景にあるのは、安定した職を得られず、その日暮らしの生活をしている人を見てきたこと、将来に希望を持てず結婚や恋愛にためらう多くの人を見てきたこと、いつまで健康で働けるか分からず老後の不安を口にする人たちと接してきたことです。議員活動中は、就職氷河期世代の本人というよりも、その親の方たちが自分の子どもの将来を不安に思い、「何か就職先がないか」とよく相談に来られました。
2020年から3年間、国・自治体をあげての就職氷河期世代集中支援が行われることになりました。現在、就職氷河期世代は、上は1993年大学卒業の場合は50歳になっており、下は2004年高校卒業の場合は35歳となっています。その中でも、もっとも就職環境が厳しかった1997年頃から2001年頃に就活をした方は42歳~45歳となっています。もう40代半ばですね。
ここからキャリアを再構築していくのは、なかなか至難の業ですが、ともあれ不本意非正規就労者(35歳~45歳)は、国の試算では約45万人。長期無業状態の方(同)は30万人とされています。さらに、ひきこもり状態にあると考えられる方(同)30万人の100万人前後が支援対象者として、国は捉えており、このうち2020年度からの3カ年で30万人を安定的な生活基盤(正社員)に就いてもらうことを目指しています。
私は2020年度から、故郷である滋賀県の就職氷河期世代支援に関わらせて頂くことになり、昨年度は半常駐のカタチで、現場でバリバリ支援に携わっていました。執筆現在の2021年度も非常勤ながらイベントの企画立案や企業支援に関わらせて頂いています。
しかし、前編の最後で述べましたように、2020年初頭から感染が広がった新型コロナウイルスの影響で、4月に緊急事態宣言が発令。滋賀県での就職氷河期世代支援(のみならず、就労支援全般にわたって)は、年度当初から、いきなり対面イベントの禁止、その前提となる対面での求職者相談や、企業開拓ができない状況になりました。5月、6月くらいにはリモートワーク環境も広がり始め、徐々にオンラインでのミーティングなども増えつつありましたが、電話やリモート会議では、なかなか就職氷河期世代採用拡大に向けた企業開拓は難しかったと思います。
私のチームで、2,3カ月で1千件ほどの企業にアプローチできたでしょうか。ようやく動き始められる体制が整いつつあったのですが、今度は逆に企業側が就職氷河期世代支援どころではなくなってきました。コロナ禍の影響で現在いる従業員を、雇用調整助成金等を用いながら維持するのがいっぱいの状態です。
実際に就職氷河期世代支援のイベントを打つことができたのは、企業開拓や企画準備等もあり、2020年秋になりました。しがジョブパークでは、10人~15人の就職氷河期世代の求職者の方へ計3回のセミナーを開催させて頂き、職歴には書けない自分自身の面白い経験や強みを、自己評価や他己評価を通じて、学ぶ機会を設けました。「ジョハリの窓」という専門ワードがあります通り、誰しもが、自分では気づいていない強みや弱みを持っています。得てして就職氷河期世代で苦難を味わってこられた方々は、自己評価・自己肯定感が低く、「まさかこんな経験が他人から評価されることもないだろう」と思い込んで、封印していることもあります。セミナーを通じて、自分自身も気づいていなかった、世の中で評価されうる経験を発見し、それを面接で生かすこと、就職イベントへつなぐことを私たちは目指しました。
2020年度はセミナーと連携した就職イベントを2回開催し、それぞれ3、4社に集まって頂きました。メーカー、警備業、介護福祉など。滋賀県は全国屈指のものづくり県で、第二次産業(工業)の比率が全国トップです。大手企業の関連工場や、関連会社、それに連なるパートナー会社が多数あります。メーカーも新型コロナウイルスの影響を受けない会社であったり、または逆手にとって新商品を開発して伸長しようとする会社もあります。そうした会社に集まって頂いて、就職イベント、そしてその後の職場見学・体験と、就職につながる一連の就労支援スキームをトライアル的に実施しました。
▶集中支援期間1年目を終えての感想
集中支援期間の1年目である2020年度を改めて振り返りますと、課題が浮き彫りになったということです。課題についてはいくつもありますが、優先度が高いものを3つだけ整理して記載したいと思います。
【課題1】採用メリットが伝わっていない、ネガティブイメージが先行している
一つ目は、企業側に十分に就職氷河期世代の採用メリットが理解されていないことが挙げられます。すでに就職氷河期世代というワードは一般的となっており、就職氷河期世代支援の必要性を訴えるフェーズからは、実際に就職氷河期世代を採用・活用して、どのようなメリットがあるのかを事例も交えて理解して頂くフェーズに入っています。
また、企業へのアンケート調査をすると、実際に採用して活用している企業と、これまで氷河期世代を採用したことがほとんどない企業とでは、就職氷河期世代に対するイメージが少し違っています。つまり、採用したことがある企業では、「ほかの世代とあまり変わらない」や「その人しだい」や「経験を生かしてがんばっている」などがみられる一方、氷河期世代を採用したことがあまりない企業では「コミュニケーションに難がある」や「扱いづらそう」といったイメージを持たれています。このネガティブイメージを払しょくすることが、採用機運を高めるために重要になっています。
【課題2】支援対象者自身が、自分の良さや経験を過小評価している
就職イベントなどを企画して私が感じたことは、支援対象者(氷河期世代で非正規歴が長かった方など)は、自己肯定感が全体的に低く、自分が持っている経験やスキルを過小評価している方が、多く見られることです。
例えば、外国人労働者と一緒に働いてこられて、英語もポルトガル語もネイティブ並みにできる方が、その語学力を生かさず、非正規で製造ラインで働き続けておられます。しかし、目線を変えればその語学力を生かして、安定的で処遇がよい仕事に就くことができるはずです。この方は結果的に、語学力を生かしてホテルに正社員で就職されました。
自分自身のスキルや経験は、自分で評価すれば低いのかもしれません。また職務経歴書にも表記しないことも多いかもしれません。でも、カウンセラーや他者がみれば、その経験・スキルは世の中で生かすこともあるはずです。そうした自分の価値を気づけていないことが、キャリアアップへの動機づけにつながっていないように感じられます。
【課題3】採用側に正社員採用のリスクが高いと認識されている
三つめは、採用側がこれまで非正規歴が長かった就職困難者をいきなり正社員として採用することにハードルを感じている事です。人事担当者もサラリーマンですので、入ってすぐに辞められたり、入っても活躍どころか職場の足手まといになってしまうのであれば、自分の評価を下げてしまいます。ときどき、企業側にお話を伺うと、「トライアル雇用助成金などもあるが、正社員として採用するのはやはり難しい。慈善団体ではないので。。せめてその人を見極めるために1カ月間、見ることができれば。問題なければ、正社員として採用しますよ」と。
日本の解雇規制は非常に高いので、一度正社員として採用すれば、辞めてもらうことはパワーを要します。だからと言うわけではありませんが、正社員として簡単に採用することのハードルも高くなってしまいます。私が話を聞いたように、1カ月間インターンシップなどの雇用契約ではないカタチで、適性や本人のパーソナリティ、コミュニケーション力などを見る期間を設けられれば、そうしたリスクは下げられるかもしれません。
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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の42歳。2003年に急増していたフリーター・ニートなどの雇用労政問題に取り組むべく創業。人材紹介、求人サイト運営、職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや国・自治体の就労支援事業の受託運営等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。国際Aマッチ通算0試合出場0得点。1メートル68、66キロ。利き足は右。