就職氷河期世代活躍支援を成功させるために【後編】~国・自治体等に取り組むべき3つのこと~
▶就職氷河期世代支援を成功させるために!
前編では、なぜ私が就職氷河期世代支援に関わるようになったのか。そしてこれまでの就職氷河期世代支援の流れを私が経験してきたことを踏まえて、時系列を追って説明してきました。
続いて中編では、昨年度から始まった国の就職氷河期世代支援の取り組みについて、支援現場で得た知見、経験を踏まえて課題を整理させて頂きました。
後編では、それでは今後、就職氷河期世代支援を成功させるためには、何をすべきか、主に国や自治体、関係機関に取り組んで頂きたいことまとめたいと思います。
就職氷河期世代支援の取り組みは、断続的に実施されてきましたが、この世代の年齢を考えると、そろそろキャリアを再構築できる限界にあるように感じます。人間いくつになっても成長や能力開発をすることはできると思うのですが、50歳になった方と20代の方とでは、学びのスピードや効率も違いますし、若いほど体力や健康面からも何か一つのことに集中して取り組み、短期間で経験や能力を高めることはあると思います。一日でも早く氷河期の荒波の中で漂流してきた就職困難者が生活基盤を築くことができるように、この問題に取り組む各層の方の力が最大化されるよう、願っているところです。
▶国・自治体が取り組むべき3つのコト
【1.就職氷河期世代を戦力として採用するメリットを整理し普及させる】
ひとつめは、採用メリットを企業に普及させることです。
とある自治体で就職氷河期世代の採用に関する企業意識調査を実施したのですが、採用して活用している企業では、人材不足や人員補充といったメリット以外にも職場の潤滑油としての役割や、非正規ながら培ってきた経験を採用メリットとして挙げる会社が見られました。一方で、これまで採用したことがない企業や、ほとんど活用したことがない企業では、そもそも就職氷河期世代は使えない、扱いづらいという声が多くあり、採用メリットとしても人手不足解消のためを挙げる会社が多くありました。人手不足解消であっても採用しようと思う会社は良いと思うのですが、どうやら「食わず嫌い」の感を覚えてしまいます。
それではどんな採用メリットがあるのか。私は最近、東京や神奈川、千葉など関東が中心に都県で講演させて頂く機会が多くあり、最も多く頂戴するお題が、「どんな採用メリットがあるのか」です。講演活動が私の主な生業ではありませんが、ライフワークとしてこの問題に取り組んでいるため、事例をもって多くの参加企業の皆さんにお伝えしています。
人手不足解消を除く、就職氷河期世代の採用メリットを大きく三つに分類するとすれば、、、
①就職氷河期世代の特性、②就職氷河期世代の属性(年齢層)、③さまざまな経験です。
①就職氷河期世代の特性とは、採用して戦力化している企業からよく聞くのは、「粘り強くがんばる」といった声です。必ずしも就職氷河期世代=タフというわけではありませんが、数多の苦労を重ねてきて、ちょっとやそっとではヘコタレナイ方が多いのも私の実感です。また、辞め癖が付いている人や仕事に対する考え方が甘い方は別として、早期離職が少ないと思われるのもこの世代の特徴のように思います。あまりに高望みもしていなければ、生計を安定的に維持させる個人・家庭環境もあります。
②就職氷河期世代の属性(年齢層)とは、やはり50代以上の方ともコミュニケーションをうまく図れたり、逆に20代の若手人材とも共通言語や話題があってコミュニケーションをとることができる点です。先にも書いた組織の潤滑油として期待できます。50代以上の方では最近のICTツールの活用などについていけない方も一定おられるように思います。しかし、就職氷河期世代はデジタルネイティブとは言わずとも、社会に出るころにインターネットが普及し始めました。50歳以上の管理職の人と20代の若手をつなぐ年代層として、職場において重要な役割を担うことができます。
③さまざまな経験とは、そのままではありますが、職務経歴書に載せている、載せていないにかかわらず、面白い経験をされている方がいます。それはプライベートや趣味での経験かもしれません。ゲームがすごく好きというのも一つのパーソナリティであり経験であると考えると、検品やソフトウエアのデバッグなどの仕事に向いているかもしれません。個人的にメルカリで物品販売している人は経歴書にはそんなこと書かないと思いますが、中小企業に入れば立派なインターネット通販担当になることができます。
こうした採用メリットがありますので、事例を整理し、しっかりと企業側に普及浸透することにより、採用機運を高めていくことができるはずです。国や自治体には、企業に対してどんどん広報啓発を行ってもらいたいと考えています。
【2.就職氷河期世代の就職成功事例を整理し普及させる】
国・自治体に取り組んでほしいふたつめは、就職氷河期世代の支援対象者を掘り起こすことです。これは本当に難しい課題です。というのも、ハローワークに求職登録をして活動をしている方(有効求職者)はまだ状況を掴むことができますが、そうでない方が大半です。
すでに非正規労働で働いていたり、正社員で働いていたとしても離職を繰り返してきたことも影響して、低賃金に甘んじている方もいます。こうした方は自分自身が「支援対象者」であるという認識はありません。また、求職活動を止めてしまった人(無業者や家事手伝い、ニート)や、ひきこもり状態の方などは、支援しようにも、どこにそういう方がいるのか、実態を把握するのが難しいといえます。
企業側には採用メリットを伝えて、採用機運を盛り上げるという施策を取り上げましたが、求職者の機運を高めるためには、「安定した仕事に就きたい」「もっと給料がいい会社に勤めたい」と感じてもらえるように社会環境を整えていく必要があります。どうするのかがいいか、それは「自分と似たような人が、就職氷河期世代支援の流れで、キャリアアップできた」ことや、「安定した職に就くことができた」という事例を見聞きし、「自分もそうなりたい」と感じてもらうことだと考えます。
昨年から就職氷河期世代の集中支援がはじまっており、今年度は2年目です。最初の一年目はコロナ禍の影響もあってあまり施策推進はありませんでしたが、そろそろ就職成功事例が出てきています。「キャズム理論」に基づくと、いま就職氷河期世代支援の窓口に来て支援を受けている方は、意識が高い「イノベーター」や「アーリーアダプター」の方たちです。それ以外のマジョリティを動かすためには、まずは現在、窓口に来ている人たちの支援に全力を挙げ、その人たちが就職やキャリア開発ができるように努めていくことです。そうすることで、その人たちから友人知人や、若しくはインターネットを通じて見ず知らずの方に対しても、「自分ももしかしたら正社員として就職できるかも」と思ってもらい、動き始める人が増えると思うのです。
【3.気軽に職場体験できる制度づくりを進める】
正社員の解雇規制が厳しい日本では、半永続的に固定人件費となる正社員採用に及び腰になる素地があります。もともと経済右肩上がりの時代では正社員として終身雇用が当たり前でありましたが、90年代のリストラや雇用形態の多様化によってそうした風土は形骸となっています。非正規と正社員のあいだには厚い壁が厳然と存在しています。
そんな現実を無視して、非正規就労が長かった方を、いきなり正社員転換して採用しようという企業が増えるべくもなく、国・自治体の施策には、もう少し工夫が求められるように感じています。
現在、国・自治体が支援プランに則って、やろうとしているのが「社会人インターンシップ」です。しかしこれは現場では導入しようと取り組むものの、企業・求職者双方にとって受けがよくありません。企業にとっては1日や数日のインターンシップに来られても教えるだけで終わりますし、求職者にとっても大の大人が無給で数日間インターンシップで働くことに意義を感じられないようです。
この「社会人インターンシップ」がうまく進まない理由を分析すると、「無給」であるということに行きつきます。これを「有給」にするだけで、求職者は自分に合う仕事か分からないけどとりあえず働く、数日だけではなくて1カ月間くらい経験するとその会社のことや職場のことも理解できて、自分が働ける環境かどうかも把握できるようになります。他方、企業においても有給で1カ月間インターンシップを受け入れるとなると、実際に採用しようとするときの見極めも十分できているし、正社員採用の可能性もなきにしもあらずです。(少なくとも半年間を非正規で様子を見て、半年後に正社員転換ということも、助成金を併用して十分検討できるはずです)
有給で1カ月程度の社会人インターンシップは、私が知るところ、企業側にもニーズがあります。しかしこの「有給」をどこから出すか。。これを国が独自に措置するか、現在ある「就職氷河期世代支援加速化交付金」を用いて自治体が措置するか、というのが現実的に考えられる施策ではないかと思います。
▶むすび
就職氷河期世代の集中支援も2年目も半ばです。もうあと1年しか当初計画期間は残されていません。しかし成果はまだ十分とは言えません。それは国や自治体の動きが遅いや悪いからではなく、コロナ禍の影響が多分にあります。最初の一年間、企業の採用意欲も減退し、とても新規雇用の機運はありませんでした。求職者側も、そもそも就職氷河期世代支援の取り組みが行われていることすら、十分に知らずに、その日その日を過ごしています。
今回の集中支援で打ち出されている施策として、わたしが評価しているものは、産業構造の転換を見据えた職業能力訓練の見直しです。AI人材とまでは言わずとも新たなテクノロジーを下支えする人材の育成は国としても急務であり、この部分に力を入れようとしている点は評価できます。いままで非正規であったとしても、新しい産業構造に適応できる人材であれば、正社員として採用しようと思う企業もいるはずです。実際、私の知り合いに、月給25万円の契約社員で働いていた方が、約半年間必死にプログラミングを勉強して再就職したシステム会社は正社員で月給50万円でした。この人は文系大学出身でしたので特別そうしたことをこれまで勉強してきたこともありません。にもかかわらずです。
就職氷河期世代が老齢期を迎えるのは、あと20年ほど先になりますが、親の生活基盤に依存して過ごしている就職困難者にとっては、残された日数はより少ないと思います。それは両親の平均年齢が70歳をもう過ぎているからです。仮に平均寿命まで親が生きるとしてもあと10年先には、自分の生活は自分の稼ぎだけで生きていかねばならない時代がやってきます。
そう考えると、この世代の生活基盤の確立に残されている時間はあまりないとも考えます。国、自治体にとってようやく本格的に回り始めた就職氷河期世代支援のこの動きをもう少し延長し、施策や現場での支援にも更に工夫をして、対策に取り組んでいかねばなりません。
私にとって、就職氷河期世代の支援は20代のときから一貫して取り組んでいるテーマであり、今後も引き続き、この社会問題に政治家や行政、支援機関や専門家の方とともに、取り組んでいきたいと考えています。
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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の42歳。2003年に急増していたフリーター・ニートなどの雇用労政問題に取り組むべく創業。人材紹介、求人サイト運営、職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや国・自治体の就労支援事業の受託運営等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。国際Aマッチ通算0試合出場0得点。1メートル68、66キロ。利き足は右。