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【書評】「日本の地方政府」(曽我謙悟、2019)を読んで。

▮ 日本の地方政府(ローカルガバメント)の課題を知りたい方へオススメ

日本の地方政府(自治体)について、現在のカタチと課題、今後あるべき姿について述べられています。またなぜ現在の地方政府のカタチになっているのか、その歴史的経緯についても丁寧に整理されており、私のおすすめの一冊です。

著者は京都大学で教鞭をとる政治学者。私も京都大学公共政策大学院に通っていた際に、授業を履修したり、最後の研究論文の執筆の際に定量分析に関して直接指導を頂戴しました。本書の最後に述べられているのですが、ご家族が地方公務員だったそうで、この分野の研究動機を知ることができました。地方政治について学術界をリードする存在の先生です。今後の活躍も注目していきたいと思います。

▮ 私が目が留まった個所

●提案権を用いない理由を議員たちの努力不足に求め、叱咤激励をしても事態は改善しない。提案権を用いるインセンティブがないからだ。提案権を使わねば、自分たちが求める政策が実現しないならば、それを使おうとするはずである。つまり、提案権なしでも望む政策を実現できているのである。・・議会の影響力が行使されるポイントは、議場ではなく、首長との事前交渉なのである。・・しかし、日本の地方議会に政策提案の役割を期待することは、現実的基盤を欠く。(p54)

●地方政府は、自ら政策を実施する局面から後退し、公共問題の解決策の提示も人々へ投げ返すことが増えている。公共問題の解決策の策定と政策実施の立場から行政が退くならば、行政の存在意義はどこにあるのか。
・・・それは、何が公共問題かという問題設定を行い、その解決に向けて民間部門の協力を引き出すことである。問題設定のうえに解決の道筋を与えるのは、政治家と民間部門だけでは難しく、行政の役割となる。ここに示されるのは、プラットフォームとしての行政という考え方である。(p92-93)

●互いに他の地方政府の政策を参考にすることは、一つひとつの地方政府では策定できない政策をつくることにつながる。これは、地方政府が複数存在しているから可能なことであり、中央政府には見られない利点だ。
相互参照により、総体として地方政府は、高い政策形成能力を持ちうる。これは、地方政府の政策形成能力を疑問視する声への反論となる。政策形成能力への疑念から地方分権を否定することや、能力の低さが規模の小ささに起因すると考え、市町村合併を求める考えに対する反証を示している。
ただし、相互参照によって政策形成能力がいつも高まるわけではない。第一に、他の地方政府と競争関係にあるならば、情報の提供自体が行われないだろう。限られた資源をめぐって競争している際に、情報を簡単に他の地方政府に提供はしない。第二に、情報という集合財が供給されるには、負担を背負ってでも、政策形成で得られる便益が上回る地方政府が一つは存在していることが必要となる。政策課題を解決する必要性が非常に高い、あるいは全国に先駆けて政策導入を果たそうとする地方政府が存在する必要がある。(p188-189)

●さまざまな民間の専門家の助力を引き出しながら、問題解決のプラットフォームを提供する場に転換しつつあることから、現在の地方政府の姿はガバメント(政府)よりも、ガバナンス(統治)という言葉でとらえられるべきものである。(p233)

▮ これからの地方政府の役割について

これまで地方自治体は、国や広域自治体からの受託事務・委任事務などによって業務をこなすことが仕事だったわけで、いかに効率的に効果的に、仕事をするのかが重要だったわけですが、そうした時代は変わりつつあります。

本書でも触れられているように、行政の役割は大きく変貌を遂げつつあり、プラットフォームとしての行政は、さまざまなステークホルダーと共に、公共財の提供や、公共サービスの提供をしていくわけですが、単にサービスプロバイダーとしての役割から、課題発見や設定、そして関係者間の調整などといった機能に移ろうとしています。

今後、「地方政府」に求められるのは、いかに社会課題や地域課題を解決していくための、場づくりを提供できるのかが重要になります。さらに、「地方政府」が変わろうとするならば、「地方議会」も変わらなければなりません。プラットフォームとしての地方政府がそこにあるならば、地方議会は今後どのような役割を担うことになりなるのでしょうか。

おそらく、社会や地域の課題を設定するためには、地方政府だけではリソース不足で在りますし、地方議会の多様性という特徴から考えてみると、地方議会での議場における喧々諤々によるさまざまな課題を披露する機能というのは、社会課題の公議・ディスカッションを推進する役割を担うようになっているはずです。同時に考えるべきは、そうした新しい地方議会へアップデートをしようとするならば、地方議員の役割も変質するかもしれないということです。従来通りの、予算要求や事前交渉といった役割から、社会課題や地域課題を的確に議論できる素養や知識が求められるようになっていくはずです。すでにその片鱗は見えています。

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長/SOCIALX.inc ボードメンバー
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや官公庁の就労支援事業の受託等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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