見出し画像

小熊英二『基礎からわかる論文の書き方』(2022年)を読んで。

▮ 読後感

大学院の課題でビブリオバトル(書評合戦)があり、論文の書き方に関する書物を一冊選んで、書評をまとめることになりました。
書店に行き、かたっぱしから関係しそうな本をリサーチして、この本にたどり着きました。正直なところかなりボリュームもあるので躊躇したのですが、どうせ読むなら体系的なものの方がいいだろうと思い、本書を選んだところです。

『既存の「論文の書き方」に関する本の多くは、研究の方法などには踏み込まず、「文章の書き方」に傾斜しています。そうでない場合は、すでに専門を決めている大学院生向けに、特定の学問でキャリアを積んだ学者が経験知を書いている本が多いといえます。』(p448)とある通り、図解などはなく、読むのに根気が必要となりますが、論文の書き方についてはこの一冊持っていれば、その関係知識は網羅できるように考えます。

さて、これから本書の書評を大学院の課題向けに作成せねば。

▮大学院の課題用に書いた書評


▮ 気になった個所(付箋を貼った個所)

気になった個所を備忘録として付箋を貼っており、その個所を書き起こしました。

はじめに
・「契約書とは何か」を理解せずに、契約書は書けません。マニュアルを探してきて、型式を真似ることはできるかもしれない。しかし、それでは、なぜ特定の書き方をしているのか理解できず、「契約書まがい」の文書を作ってしまうでしょう。
これは論文も同じです。「論文とは何か」を理解しないで、論文は書けません。
ですからこの本では、「どう書くのか」より先に、「論文とは何か」を説明します。そうすることで、「どう書くのか」「なぜそういう書き方をするのか」についても、よりよく理解できるでしょう。(p3)

・この本は「基礎」と銘打っていますが、「基礎」と「初歩」は違います。英会話に例えて言えば、「初歩」は挨拶のやり方や道の尋ね方です。それに対し、「基礎」は文法です。文法がわかっていないと、型通りから抜け出せず、応用がききません。最初は少しむずかしく感じるかもしれませんが、本書の内容を理解すれば、いろいろ応用がきくようになるのでしょう。(p6)

第1章 論文とは何か
・相手を論理的に説得するには、どうするか。言葉や表現の工夫も大切ですが、弁論をどう組み立てるかの配列も大切です。つまり、「どう述べるか」だけではなく、「どういう型式で述べるか」が重要だ、ということです。
アリストテレスの『弁論術』で挙げられている配列は、以下のようなものでした。
①    序論。弁論の主題を明らかにし、相手の注意を喚起する。
②    主題提起。弁論の対象となる事柄が何であるかを述べる。
③    説得。証拠を挙げて、主題を論証する。
④    結び。主題が論証されたことを確認する。
(p28)

・ここで試されるのは、「どれだけたくさん調べたか」ではなく、「主題を論証する根拠として調べた事実をどれだけうまく使えるか」です。その違いは重要です。(p43)

評価の基準は、
①    主題が明確に提起されており、
②    主題を論証するために必要な根拠が的確に調べられており、
③    調べた根拠を論理的に使って確証が行われていて、
④    主題が論証されたことが説得的に示されているか、
ということです。それは「どれだけ調べたか」とは違う。論証が乱れるくらいなら、よけいないことは、むしろ書かない方がいいわけです。(p44-45)

フランス式では、対立する見解を示しながらそれらを止揚して、そのどちらとも異なる見解を出す展開が求められます。(p55)

第2章 科学と論文
・論文を公表するときは、相手を説得することを想定して書くわけです。それを読んだ人が、意見が違うと思ったら、根拠を示しながら反論する。そうやって議論しながら、科学は発展してきたとも考えられるわけです。(p63-64)

・ある前提のもとに、どういうプロセスで調査をしたのかを論文として公開し、異論があったら追試できるようにしておくわけです。そうやって、科学は進歩してきたと考えられるわけです。(p70)

・人間の営みを扱う学問の論文は、「結果」にあたる部分が長いことです。自然科学や工学などの論文では、実験などの「結果」は極端にいえば、数値表が一枚あるだけだったりします。(p77)

・論文とは、すべての過程が公開され、それをもとに他の人に同じ主題や同じ対象をより深く探求してもらうための、協同作業の一部だからです。(p94)

第3章 主題と対象
・論文を書くときには、「何を主題にするのか」が大切です。そのあとの部分は、その主題の論証だからです。主題が決まらないと、その論証もありえません。(p111-112)

・①主題を問いのかたちで立てる、②具体的に調べられる対象から問いを探求する、③自分が調査可能な対象を設定する(p136)

第4章 はじめての調べ方
・研究の主題を探している段階で次によく読むべきは「先行研究の検討」の部分です。よい研究書や論文であれば、その分野でどんな研究が行われてきたか、どんなことが問題になってきたか、どういう議論があったのか、一通りのことが書いてあります。(p147)

第5章 方法論(調査設計)
・どういう事象が観測できたら、原因と結果の関係があるといえるのか。これについては、J・S・ミルという十九世紀の哲学者が考えた五つの方法が知られていますが、それを単純化したものが「ミルの三条件」と通称されています。以下がそれです。
①    事象Aと事象Bが関連していること
②    事象Aが事象Bよりも時間的に先行すること
③    事象Bに関わる事象A以外の原因が排除されていること(p176)

・調査設計するときも、まずリサーチ・クエスチョンを仮説として立てて、それを検証するというかたちで設計する、というのが一つの典型です。(p180)

・「仮説成形型」というのは、調査しながら仮説を作り、その仮説を調査しながら見直していく、という複合的なやり方とされています。(p182)

・仮説成形型の方法論を「非科学的」だと軽んじる人がたまにいます。しかし自然科学の歴史では、むしろ仮説成形型の調査のほうが主流です。(p183)

・「サーベイ」と「事例研究」は、どちらが優れているというわけではありません。いうなれば、目的が違うのです。しかし、その目的に適した調査設計をしないと、意味がありません。(p195)

・いちばん大切なのは、「何を目的にその調査をするか」です。料理のレシピでは、「どういう方法で調理するか」も大切だけれども、いちばん大切なのは「何をやりたいか」を先に決めることです。(p197)

第6章 先行研究と学問体系(ディシプリン)
・独立変数と従属変数を設定して因果関係を論証しようとする調査設計の考え方は、大いに参考にすべきです。しかし、それが唯一絶対のものだとはいえません。そのような発想は、ある立場の学問体系なら重大な基準かもしれないけれど、ある立場だとそうとは限らないともいえます。
ひょっとすると、そういう発想で人間の営みを分析しようという考え方そのものが、二十世紀のアメリカなどで広まった構築物であって、普遍性も再現性もないものかもしれません。これまで述べてきたように、モノを対象にした近代科学さえ、たった四十年ほどの歴史しかもたないアプローチなのです。それを人間の営みの解明にあてはめるという発想が、それほど古いものだとは考えられません。(p238-239)

・多くの論文では、先行研究や方法論を検討しながら、自分がどの学問体系に属しているか、自分がどういう「理論的フレーム」にもとづいて方法論を組み立てているか、示したりします。これは、自分がどういう学問体系に位置しているかの自己紹介を兼ねている、と考えてもいいかもしれません。(p244-245)

・自然科学や人文・社会科学の理論theoryというのは、数学の定理theoremほど厳密なものではありません。(p251)

・学際的な研究の場合には、ますます「先行研究の検討」が重要になる。(p257)

第7章 方法(メソッド)
・社会科学の調査方法には、大きく分けて、量的調査と質的調査があります。これは、どちらが「偉い」といったものではありません。それぞれに特性があり、それぞれの立場がある方法です。またこの区分は暫定的なもので、両者の境界に位置するような方法も開発されています。
また何より重要なのは、個別の方法を、どう方法論のなかに位置づけるかです。多様な方法があることを学び、一つ一つの方法の特性を知り、その長所や短所を理解する。そうやってこそ、「煮る」「焼く」「いぶす」「あぶる」などを自由に組み合わせて、自分の料理が作れるようになるでしょう。(p318-319)

第8章 研究計画書とプレゼンテーション

第9章 構成と文章
・パラグラフ・ライティングの基本方針というのは、①一つのパラグラフに一つの内容にして、②それを論理的に構成する、ことだと私は考えています。(p369)

・パラグラフの冒頭には、その内容を集約的に書いた一文を置くべきだ、とされています。これをトピック・センテンスといいます。(p370)

・論文における「よい文章」の基準は、以下の三つです。
①    意味が明確であること
②    論理が追いやすいこと
③    典拠が示されていること
(p376-377)

・論文というのは、数ある対話と説得の技法の一つに過ぎません。それに、エビデンスと論理で説得できるのは、相手が自分と前提を共有している場合だけですから。(p380)

・パラグラフと同じく、文章も「一文一内容」にした方がわかりやすくなります。(p384)

第10章 注記と要約
・論文の文章は、いわゆる「名文」である必要はありません。そんなことよりも、意味が明確で、用語の定義がしっかりしており、論理が追いやすく、典拠がもれなく付いていることのほうが重要です。味気ない文章だと思うことがあるかもしれませんが、論文の役割に特化した文章の書き方だと考えて、割り切ったほうがいいでしょう。(p396)

・要約の作り方ですが、いちばん簡単なのは、各章の内容を縮約して、要約とすることです。論文がきちんと構成されていれば、そのままで要約になるはずです。(p417)

・論文には必ず、レファレンスをつけます。それは読者の追検証のためであり、先行研究に対する位置を示すものでもあり、どこが自分の調査結果や分析なのかを明確に示すためでもあります。つまり、論文が論文であるために必要なのが、レファレンスをつけることだといえるでしょう。(p422)

第11章 校正と仕上げ
・それでも論文を書くのはどうしてですか。
教員 不完全であっても、少しでも完全な状態に近づきたいからでしょうか。神は完全ですから、進歩したりはしません。しかし、人間は不完全だから進歩するし、努力する。そして、人間が一人でやれることには限界がある。だから書いて、公表し、他人と対話する。それが「論文の書き方」の、いちばんの基礎にあたるものです。表面的な型式がいくらか変わったとしても、そこは変わらない。(p446)

おわりに
・既存の「論文の書き方」に関する本の多くは、研究の方法などには踏み込まず、「文章の書き方」に傾斜しています。そうでない場合は、すでに専門を決めている大学院生向けに、特定の学問でキャリアを積んだ学者が経験知を書いている本が多いといえます。(p448)

・この本では、いろいろな学問体系の基本的な考え方や、方法論の哲学的な議論にも言及しました。そのようなことは、「論文の書き方マニュアル」であれば必要なかったと思いますし、書いてない方がマニュアルとしてわかりやすかったかもしれません。
しかし私としては、この本に書いてあることは、専門に進む前の準備として身に着けてよいであろう、「基礎」の教養と考えています。また、すでに専門に進んだ人であっても、「基礎」を学び直すのはとてもよいことだとも思います。(p451)

・科学が権威になったら、それはもう科学ではない。不完全さに気づき続けることが科学である。私はそう考えています。そして、それを実践するのが、論文を書くということです。(p459)

・人間は不完全だからこそ「進歩」します。もちろん、それが本当に「進歩」なのかは人間にはわかりません。しかし、自分が不完全だったと気づく経験は、完全な状態に一歩でも近づいたかもしれないと感じさせてくれます。(p460)

・この本を読んで、科学的な「論文の書き方」について学んでいただければ、それはありがたいことです。しかしそれ以上に、自分を含めた人間が不完全であることを知り、世界が不思議に満ちていることを知り、それを解明しよとしてきた様々な営みのおもしろさを知っていただければ、うれしく思います。(p461)

◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?