京都大学公共政策大学院で社会人入学して学んだこと
全国の大学で公共政策大学院がいくつか設置されていて、私も2016年4月から2018年3月までの2年間、京都大学公共政策大学院で学びました。1年間で数名の方から、大学院に関するご質問を頂戴しますので、よくあるご質問に対する回答ということで、記載しておきたいと思います。
大学院の出願書類について
京都大学公共政策大学院の最新の入試要項は、こちらからご覧いただけます。基本は私が受験した時と同じで、自己申告書(なにを、どのように2年間学びたいのかを書く)と推薦書を提出してエントリーすることになります。
出願期間は意外に早く前年の11月くらいですので、「大学院に入りたい!」と思っても、気づいたのが冬春であれば1年間待たねばなりません。私も前年の夏くらいに大学院に入りたいと思ってリサーチしていました。
エントリーに関してよくある質問に、推薦書は誰に書いてもらうべきかというのです。要項には職場の上司のような記載がありますので、基本的には所属している組織での上司にあたる方に書いてもらうのがいいように思います。
ただし私のように地方議員で、上司がいないような場合もあるかと思います。私の場合は、確か大学院に確認をしたうえで、議会内で私が所属していた会派の代表に書いてもらいました。応募者がどのような人物なのか人となりが分かる参考資料の扱いだと思いますので、それで問題なかったようです。
ちなみに、「所属している会社には知られずに応募したいと、プロボノ的に参加しているNPOなどの上司でもいいのか?」というご質問も頂きますが、どうなのでしょうか?大学院が判断することだと思いますが、個人的にはちょっとそれでは難しいのではないかなと感じます。
あくまで私の見解ですが、推薦書は悪いことが書いて無ければそれほど重視されないのではないかなと感じます。それよりも、自己申告書については、その後行われる面接で聞かれますので、こちらの方が大切だと思います。
あと、大学時代の成績表も添付することになりますが、こちらも私は特別良かったわけではなく、ごくフツーの成績だった(ABCの3段階で平均したらBくらい)ので、足切りに使われることはあるかもしれませんが、それほど大きな比重を占めているわけではないように思います。
大学院の入試はどのような内容だったか?
もう4、5年前のことですので記憶があいまいになりかけていますが、京都大学公共政策大学院では、自分が得意な分野を選択して、自由に論述する一次試験と、面接の二次試験によって組み立てられています。
一次試験については、一会場50人くらいが集まり、論文筆記の試験なのですが、4つの質問の中から2つを選択して、それについて自由に論述する内容でした。私は地方議員をその時点で5年間やって、地方行政の実務をそれなりに理解できつつあったため、「行政学」を選択しました。
大学時代の友人がたまたま他大学の公共政策大学院の助教をしていたので、行政学について一冊読んでおいたほうがいい書籍を推薦してもらい、それを読みました。薦められた本は、真渕勝先生の「行政学」という本です。確かに行政学について、体系的にコンパクトにまとめられている本だった記憶があります。もし行政学を選択して受験に臨まれるのであれば、この真渕先生の本も参考になると思いますし、あと大学院で教授をされている曽我謙吾先生の「行政学」という本もいいのではないかなと感じます。
4つの質問のうち2つを選んで記述する論文でしたが、たまたま得意な分野の問いがあったので、それについて思うところを自由に書きました。普段から日課のようにブログ記事を書いていたので、見解をまとめることは比較的慣れていたように思います。個人的には、ばっちりうまく書けた感触を持っています。ちなみに記述用のペーパーが足りなくなったので、追加で紙をもらいました。
面接は、バリバリの学者の教授と、官公庁から出向で大学院の教官を務められていた教授の2名で実施されました。15分とか20分くらいで終わったはずですが、この面接が結構突っ込んだことまで聞かれて、冷や汗が出まくった記憶があります。
終わった後、「これは落ちたな・・」と思うくらい、突っ込んだ質問があり、ちょっとしどろもどろになりながら回答していた感じだったのですが、なぜか合格。感謝です。聞かれた内容は、市議会議員としての活動内容と、現在の市長についてどう思うか、それに対してどのように今後していきたいと思うか、今後のキャリアなどについて聞かれたように思います。市長に対する質問については、批判的すぎてもダメでしょうし、高く評価できるものでもなかったので、そのバランスに非常に苦慮しましたが、思うところを実例を交えて説明しました。今後のキャリアについては、県議会議員や国会議員などのビジョンを描いた覚えがあります。(ちょっと定かではない)
なぜ京都大学公共政策大学院だったのか?
これも確かに面接のときに聞かれた記憶があります。ほかにも公共政策大学院はありますしね。京大の近くでは立命館や同志社、少し離れますが大阪大学も公共政策系の大学院があります。
私としては、スラムダンクの流川楓のようで申し訳ないのですが、「近かったから」と「学費が安かったから」というのが本音なのですが、それ以外に、母校の大学の立命館よりも、国公立の京都大学というネームが魅力的だったのも事実です。ただやはり、「近かったから」というのが一番の理由です。大津市役所から山一つ越えたところに大学院があり、議会での公務が終わって、30分くらいあれば到着できたので、公務と学業が両立できることが非常に重要でした。
たださすがに面接のときに、「近いから」というのはふざけすぎているかと思うので、「一流の先生が集まる京都大学大学院で、一流の同期と一緒に学びたいから」と答えた記憶があります。
仕事と学業は両立できるのか?
これもよく、メールでいただく質問です。これはその人がどのような仕事をしていて、どこに住んでいるか・どこで働いているかも関係しますので、一概に言えませんが、両立自体は十分にできると思います。私の同期にも社会人学生が10人ほどいましたが、みななんとか両立していました。大阪から通っている人もいましたし、滋賀県の三重県境から通っている人もいました。
平日は午後から週2日くらいは、大学院での授業を集中的に入れることになり、その日は仕事は休まざるを得ないかもしれません。ただ土曜日や夕方だけの授業を取っていても卒業単位くらいはクリアできると思います。(自分が取りたい授業がとれるかは分かりませんが)
単位取得には3、4回しか欠席が認められないような要件がついている授業も結構多くあり、参加するのが結構大変でしたが、なんとか食らいついていきました。授業のレベルについては、これは先生の授業の内容次第なのですが、私自身は、政治行政の科目については実務者として仕事を通じて学んできたので、おおよそ物足りなさを感じるくらいのレベルでした。
ただ、私が学びたいと思っていた統計学系の科目や、幅を広げたいと思って履修した経済学系の科目に関しては、学部時代を通じて学んだことがないので、レベルが高いと感じました。数学自体、高校2年生から全く触れてこなかったので、数式がでてきたり、確率論の話になると、かなり頭を使ったと思います。でも、なんとか統計の基礎は実践で使えるくらいまで学習することができて、実際に議会での活動や政策提言にも使うことができました。
EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)の必要性、重要性が叫ばれている中で、ある意味、統計学の知識は必須といっても過言ではないと思います。授業時間以外にも、統計学については予習復習で時間を割いて、プライベートの時間、家族との時間がかなり減りましたが、家族の理解もあって、ある程度マスターできたように思います。
あと英語。「実践科目」という科目の括りがあって、そこから確か8単位くらい取らないといけないのですが、この「実践科目」が一番苦労しました。この中に統計学と英語を使った科目が含まれているのですが、私は英語も高校以来(大学でも少しやりましたが)、ほぼ勉強してこなかったし、触れることもありませんでしたので、相互対話を基本とする英語系授業はすべて外しました。必然的に統計学系の授業だけで、「実践科目」の8単位だったかを取らねばならず、ひとつでもD評価を取れば、その時点で、卒業がかなり困難になる感じでした。なんとか気合で統計学系だけで、実践科目をクリアできましたが、ヒヤヒヤでした。
英語系授業を取らなかったと書きましたが、実はテキストが英語の授業が2つくらいありました。これもかなり苦労しました。そもそも社会人学生にとって、事前の予習に当てる時間はほとんどない中で、さらに英語テキストの授業はかなりきつい。もちろん専門書なので、受験英語で読むことは得意な私でしたが、それでも普通に読めないレベルの内容でした。ここは、正直申しますと、学生アルバイトを雇って、文献を翻訳してもらっていました。時間がないので、お金で時間を買うほかありません。おかげでなんとか、そういった授業も履修できたように思います。
2年間の大学院で学んだことは、どのように生かせられるか?
ある意味、ここが一番重要なことかもしれません。
実務で役立ったことといえば、やはり統計学の知識です。地方議員として、レベルアップするために、数字で提言できることは重要だと思います。「市民の方がこう言ってます!」みたいな議員活動も意味ないことはありませんが、あんまりどうかなと私は思います。それよりも、政策の効果を自分で分析したり、より効果的と思われる施策を統計的なバックボーンをもって提言するのは、意義ある政治活動だと思っています。
どこの自治体も財政難だと思いますので、より効率的で効果的な施策展開をしたいはずです。そうした時に議員としての政治力で予算をひっぱってくるとか政策を実現することももちろん重要なことですが、それに加えて、エビデンスや数字に裏付けされた政策提言力や審議力を持つことは、これからの時代、大切だと思います。行政側ももちろんエビデンスや数字に基づいた政策立案、予算編成をしているわけですし。
あともう一つ活かすことができるのは、「肩書」です。
「京都大学公共政策大学院 修了」の肩書は、思っていた以上に効果的に、キャリア形成に生きているような気がしています。地方議員を引退後、一時期、東京で政策渉外、いわゆるロビイングの活動に従事していた時期がありましたが、コミュニケーションする相手は官僚にしろ、国会議員にしろ、同じロビイストにしろ、みなさん高学歴者ばかりです。「東京大学卒業者ってこんなんに居るんだ!!」というくらい、仕事相手はみなさん東大出身。高校も開成、麻布の出身者ばかり。そうした中で、京大公共出身という肩書は、物おじすることなくコミュニケーションを図るための最低限の肩書のような気がします。(きっと、名刺交換した相手から、「藤井ってどんなやつなんだろう」とかFBやブログで調べられて、もちろんその中には学歴も見られているはず)
いまは、ロビイングメインの仕事から、官民共創や、自治体の就労支援の仕事にシフトしているので、肩書は以前ほど必要ないと思いますが、それでも官僚相手に仕事をさせて頂くケースもあったりしますので、やはり京大公共を出ておいて良かったなと思うことが時折あります。
「肩書」はあくまで副次的に得られたメリットだと感じています。それを期待して入学しても、2年間の仕事と学業との両立は大変だと思いますし、ときに馬鹿らしく感じて、モチベーションが続かないこともあると思います。やはり、「学びたい!」という想いがありきでないと、入ってからが大変だと考えています。
京都大学公共政策大学院はどんなところ?
結構自由に学びたいことが学べるところだなと思っています。私は修士論文代わりに任意で研究・作成することができるリサーチペーパー(通称リサペ)のテーマに、「就職氷河期世代のキャリア形成」に関することを選びました。2年目の後半期は、ほぼ政策研究に時間を使いましたが、この期間は大変貴重な学びの時間だったと感じています。
私が書いたリサペも、京都大学公共政策大学院のOB組織で掲載をしてもらっていますが、このリサペの執筆を進める過程で、自分自身のキャリアについて考え直すきっかけにもなりました。「このまま議員を続けていてもいいのだろうか」「何のために議員になったのだろうか」といったことを考えながら、論文を書いていました。結果的に、雇用問題にもっと力を入れて取り組みたいという想いが昂じたことが、地方議員を卒業する一要素になりました。
京都大学公共政策大学院同窓組織「鴻鵠会」ウェブサイト
京都大学じたいが自由な学風とされています。公共政策大学院も同じく、なんでも自分の好きなテーマを深めて学ぶことができると思います。人脈という点では、それほど得られるものは私はありませんでしたが、36歳から38歳のオジサンになる前の年齢で、もう一度学びなおせたことは、すごくいい経験になったように感じています。分かりませんが40代も過ぎた今、大学院に入っても体力的にも、頭の回転的にも、ついていくのがもっと大変だったろうなと思います。
もし、京都大学公共政策大学院での学びを考えておられる方がいましたが、私はオススメする場ですので、ぜひチャレンジして頂きたいと思います。35歳を超えて、私もチャレンジしました。やれば、できると思いますし。
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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の42歳。2003年に急増していたフリーター・ニートなどの雇用労政問題に取り組むべく創業。人材紹介、求人サイト運営、職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや国・自治体の就労支援事業の受託運営等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。国際Aマッチ通算0試合出場0得点。1メートル68、66キロ。利き足は右。